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【ストップ!選択的夫婦別姓】選択的夫婦別氏制度は「子供の最善の利益」を考慮しているのか/髙橋 史朗(麗澤大学大学院特任教授)【「日本の息吹」令和3年1月号掲載】

(おことわり:当記事は「日本の息吹」令和3年1月号に掲載された内容をそのままデジタル化したものです)

「絆」を重視する菅総理(菅義偉氏、当時)には、「家族の絆の再生」にこそ目を向けていただきたい。別姓推進派に決定的に欠けているのは子供の視点である。果たして子供たちは親も兄弟姉妹も氏がバラバラの家族を求めているのか。親の身勝手で子供たちに精神的負担を背負わせていいのだろうか―

「選択的夫婦別氏」提唱の経緯

 1979年に国連で採択された「女子差別撤廃条約」第1条は、「女子に対する差別」とは、「性に基づく区別、排除又は制限」と定義し、日本は1985年に同条約を批准した。

 これを受けて「男女共同参画社会基本法」が制定され、国連の女子差別撤廃委員会から「性差別的」な民法の規定を見直すよう勧告され、民主党政権下の第3次男女共同参画基本計画において、「選択的夫婦別氏制度の導入」「再婚禁止期間の廃止」 等が、検討課題として盛り込まれた。

 平成25年9月に最高裁が婚外子遺産相続差別に対する違憲判決を下し、12月に同差別を撤廃する民法改正が行われた。この最高裁判決を受けて、翌年に日本学術会議のジェンダー分科会(4つの分科会の内、二つの委員長は上野千鶴子東大名誉教授)は、「男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」提言を公表し、「選択的夫婦別氏制度の導入」等を求めた。

 平成27年に夫婦同姓を合憲とする最高裁判決が下されたが、夫婦別姓を求める訴訟が相次ぎ、選択的夫婦別姓を推進する各政党や民間団体の動きが活発になっている。

 来年度からの第5次男女共同参画基本計画に関する国民の意見を募集したパブリックコメントでは、選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見が4百件を超えた。

 そうした中で、男女共同参画を担当する橋本聖子大臣は、同計画に選択的夫婦別氏制度の導入に向けて検討を進める方針を盛り込みたいとの意向を表明し、下村政調会長の下で議論することになった。

「国民意識」の妥当な解釈とは

 このような経緯を経て、11月11日に首相官邸で開催された第6回男女共同参画会議において、第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方についての答申が決定され、菅総理に手渡された。

 同答申の第9分野 「男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備」において、「国民意識の動向、女子差別撤廃委員会の総括所見等も考慮し、選択的夫婦別氏制度の導入に関し、国会における議論の動向を注視しながら検討を進める」と明記された。

 同会議で配布された説明資料には平成25年の内閣府の「家族の法制に関する世論調査」のグラフが掲載され、「国が伝統的な家族観を大切にしていることで、結婚したくても躊躇う・出来ない・諦める若者カップルが多くいます」「現に国民の中に、自分の名前を残したいがゆえになかなか結婚できない、結婚相手が見つからないでいる女性がたくさん存在する」ことが強調されている。

 このグラフの問題点について筆者は同会議で指摘したが、選択的夫婦別姓制度に反対する女性18~20歳(15.3%)、女性30~39歳(13.7%) と、女性の統計をピックアップしているが、実際には、男性を含めると20歳までの若者の19.8%が反対で、30代よりも6.2%高い。

 婚姻で姓を改めた人が前の姓を通称として使える法改正を容認する若者は28.1%で、夫婦別姓法案容認派 (50.2%)と否認派(47.9%)は、米大統領選並みの僅差である。

 別姓制度の導入容認派は40代を過ぎると過半数を割り、70歳以上は容認派が28%と逆転している。同グラフは40代以上の統計はカットしているが、こうした世代差の顕著な世論の動向や若者の意見についても正確に見極める必要がある。

 別の子供調査によれば、夫婦別姓は「いやだと思う」は42%、「変な感じがすると思う」が25%で3分の2を超えている。前述した若者と30代の意識に差があるのは、こうした子供の意識と共通するものがあるからではないか。

 発達段階によって夫婦別姓の受け止め方には大きな差異があると思われるが、18歳以下の高校生、中学生、小学生等の意見も尊重する必要があるのではないか。 内閣府の世論調査によれば、夫婦別姓を容認する人で実際に別姓を希望するのは2割未満で、別姓希望者は全体のわずか8%に過ぎない。また、夫婦別姓は「子供に好ましくない影響があると思う」が65%に及んでいる点も軽視すべきではない。

保守派も巻き込んでの地方議会意見書採択

 平成27年に夫婦同姓を合憲とする最高裁判決が下され、「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位」と明記されたが、選択的夫婦別姓を推進する市民団体は、地方議会で自民党を巻き込むため、全国各地で「論議促進」の意見書採択を進め、4府県98市区町村で議決されている。

 稲田朋美議員は「旧姓続称制度」を提唱し、民法を改正して家庭裁判所への届け出だけで旧姓を公的に使用できるように提案し、保守派の説得を試みているが、戸籍制度に対する視点が欠落しており、結果としてファミリー・ネーム(家族の呼称) の廃止につながることは明白である。

「選択的」はファミリー・ネーム廃止に直結する

 選択的夫婦別姓制を認めた平成8年の法制審議会答申に法務省民事局参事官として関わった小池信行氏は、夫婦別姓制の問題点について次のように指摘している。

夫婦別姓を認めると、家族の氏を持たない家族を認めることとなり、 結局、制度としての家族の氏は廃止せざるを得ないことになる。つまり、氏というのは純然たる個人をあらわすもの、というふうに変質するわけであります。

(『法の苑』第50号、平成24年春)

 児童の権利条約第3条には「児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と明記されているが、実際には親の都合や大人・女性の権利が優先されている施策が多く、夫婦別姓制もその最たるものである。

  菅総理は「絆」を重視する政策理念を掲げておられるが、「家族の絆の再生」こそが教育再生の最重要課題である。選択的夫婦別姓制に関する子供の意見にも耳を傾け、「子供の最善の利益」を保障するという視点にも配慮しながら、国民意識の「動向」を慎重に見極めて、十分に議論を尽くす必要がある。

 「姓」と「氏」は別の概念であり、 「姓」とは、血筋を中心として考える時の家の名であり、「氏」とは、 現に一家をなしている集団を中心として考える時の家の名である。

 旧姓の通称使用の拡大が最も現実的な解決策であり、民法の夫婦・親子同姓の原則を変更することなく、結婚して改姓した人の社会生活上の不便の解消のため、選択的夫婦別姓以外の施策の落としどころについて知恵を絞ることが喫緊の課題といえる。

 平成14年に高市早苗議員が提案した旧姓の通称使用を法制化する「戸籍法改正案」は、民法を改正することなく、戸籍法を改正し、戸籍の配偶者の欄の但し書きに旧姓を通称使用する旨を記載することで、旧姓を公的に使用できるようにするもので、 同案を軸に検討すべきだ。

 自民党の保守系議員を巻き込んだ地方議会の「論議促進」 意見書採択の動きに対して、選択的夫婦別姓推進派の主張の問題点を整理して啓発・広報を急ぐ必要がある。同氏同一戸籍の戸籍制度により家族の一体感と絆が保たれてきた。親子・夫婦・家族一体の日本の精神伝統を守り、弱者である子供の最善の利益を優先し、家族を保護・強化する施策こそが求められている。

(了)

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