三笠宮崇仁親王妃百合子殿下 お歌(歌会始ご発表)昭和25年~平成26年

御題 静 平成26年 
思ひきや 白寿の君と 共にありて かくも静けき 日々送るとは

三笠宮崇仁親王殿下は、平成28年10月28日100歳にて薨去遊ばされましたので、この御歌を詠まれてからもう暫く、静かな日々をお過ごしになられたことと拝察申し上げます。この御歌が、歌会始でご発表の最後の御歌でした。
以下、平成の御代、昭和の御代にて歌会始でご発表になられた御歌をまとめてみました。百合子妃殿下をお偲び申し上げるよすがとして頂ければ幸いです。

◆平成の御代

御題 立 平成25年
俄かにも 雲立ち渡る 山なみの をちに光れり 強き稲妻

御題 岸 平成24年
今宵揚ぐる 花火の支度 始まりぬ 九頭竜川の 岸の河原に

御題 葉 平成23年
ほどけしも 巻葉もありて 今年竹 みどりさやかに ゆれやまぬかな

御題 光 平成22年
雪はれし 富良野の宿の 朝の窓 ダイヤモンドダストの きらめき光る

御題 生 平成21年
生かされし いのち畏み かりの世を 八十年(やそとせ)余り はるけくも来し

御題 火 平成20年
萌えいづる ものをたのみて 山やきの 火はたちまちに ひろごりてゆく

御題 月 平成19年
ならび立つ 樹氷を青く 照らしつつ 蔵王の山に 月のぼりたり

御題 笑み 平成18年
みどり児は 何を夢みる 乳たりて ねむりながらも ほほゑみにけり

御題 歩み 平成17年
をさな子は 歩みたしかに なりゆきて はづむが如く 青芝を行く

御題 幸 平成16年
大漁旗 風にはためき 海の幸 のせて今しも 船かへり来る

御題 春 平成14年
わが庭の 春のおとづれ まづ見えて ミモザアカシア 華やぎて咲く

御題 草 平成13年
雪降らば ゲレンデとなる 丘を来て 松虫草の こもり咲く見つ

御題 時 平成12年
時の間も 惜しみて宮は 究めます 学びの道を なほ深めむと

御題 青 平成11年
知床の 岸に寄せたる 流氷の 重なる奥に 淡き青見ゆ

御題 道 平成10年
駅いでて 馬橇(ばそり)に乗れる 雪の道 いでゆの町は 暮れゆかむとす

御題 姿 平成9年
滑り来る 吾子の姿を うつさむと 松尾根の雪 踏みしめて立つ

御題 苗 平成8年
もみぢする 雑木の山の ひとところ 杉の苗木は さみどりに見ゆ

御題 歌 平成7年
歌かるた とる手鈍れど 友どちと 笑ひさざめき 老いを忘るる

御題 波 平成6年
真珠貝 採らむと海女の 潜(かづ)きゆく 水面(みのも)に小さく 白き波立つ

御題 空 平成5年
夕立の やみてたちまち 鮮やかに 虹かかりたり 能登の大空

御題 風 平成4年
雲間より 夕日さしくる すすき原 穂波うねりて 風渡る見ゆ

御題 森 平成3年
鳥は皆 ねぐらにつきて 音もなく 宮居のもりに しじまのこれる

御題 晴 平成2年(昭和天皇を偲ぶ歌会)
とざしゐし 霧はれゆきて みはるかす 尾根にま白く 樹氷群れたつ

以上が平成の御代の歌会始に寄せられた御歌です。

ちなみに、三笠宮崇仁親王殿下が最後に寄せられた御歌は次の通りです。
御題 青 平成11年
富士を背に 青海原を 泳ぎきり 芋粥うまし 三津の浜辺に

◆昭和の御代、崇仁親王妃百合子殿下が歌会始に御寄せになったお歌(昭和25年~63年)


御題 車 昭和63年
雲海に 入りて着陸 間近ならむ 車輪の出づる 音ひびきけり

御題 木 昭和62年
富士の水 ここに湧きいで 道の辺の 木立さやかに 茂り立つなり

御題 水 昭和61年
映さるる 黄河源流 残雪の 沢に満ちたる 水浅く見ゆ

御題 旅 昭和60年
みちのくの 旅は楽しも 木々芽ぶく きざしあかるき 峡に入りきつ

御題 緑 昭和59年
湖は 低く沈めり めぐり立つ 若葉の緑 濃く薄くして

御題 島 昭和58年
大いなる 朱の鳥居も 近づきて 宮島に今 船着かむとす

御題 橋 昭和57年
留学を 終りし吾子と 今日渡る 宇治橋晴れて 川の面(おも)澄む

御題 音 昭和56年
うちしめる 土を落葉を 踏みゆけば ゆくてに響く 滝つ瀬の音

御題 桜 昭和55年
遠木立 霧にうすれて 窓の辺に さやかに見ゆる 富士桜の花

御題 丘 昭和54年
穂芒に 風騒がしも 秋暑き 風土の丘と いへるあたりは

御題 母 昭和53年
母たらむ こと難きかな 迷ひつつ 三十年あまり 夢と過ぎにき

御題 海 昭和52年
カリブ海 瑠璃色に澄み 果てもなし ユカタンの浜の 砂は真白く

御題 坂 昭和51年
坂下りて 古城のあとへ 行く道の かなたに鈍く ネス湖光れり

御題 祭り 昭和50年
我もまた 祭に酔ひぬ 獅子の山車 兜の山車と 続きゆく見て

御題 朝 昭和49年
火祭の 一夜は明けて 鞍馬山 神輿(みこし)静けく 朝を迎へぬ

御題 子ども 昭和48年
目深にも 帽子かむりて 雪国の 丹の頬の子らは 道に遊べり

御題 山 昭和47年
細き月 かかれる穂高を 仰ぎつつ 夏なほ寒き 涸沢に佇たつ

御題 家 昭和46年
新しき 家に移りて この春は 我が身の幸を ただにかしこむ

御題 花 昭和45年
原始林 はてなく続く 道を来て はるかに朴の 白き花見つ

御題 星 昭和44年
浅間嶺を のぼりゆく夜の 大空に 銀河は白く かがやきて見ゆ

御題 川 昭和43年
たゆたひて 藻の浮くさまも 澄みてみゆ 尾瀬の小川の 浅き水底

御題 魚 昭和42年
かへり来む 時おもひつつ 小雪ふる 流に鮭の 稚魚を放ちぬ

御題 声 昭和41年
あたらしき 声もまじりて この春は わが家のまどゐ いよよにぎはし

御題 鳥 昭和40年
旭岳を おり来るころと 吾子あこを 待つ夏鶯の 声を聞きつつ

御題 紙 昭和39年
をさなごの 小ちさき手先に 折られゆく 紙のかたちの 鶴になりゆく

御題 草原 昭和38年
うすく濃く 霧は流れて 八千草の 咲く草原を 今とざしゆく

御題 土 昭和37年
雪山の リフトに倚りて せせらぎの ふちの黒土 鮮やかと見つ

御題 若 昭和36年
幼しと 思ひゐし吾子の この日ごろ 若者めける ことにおどろく

御題 光 昭和35年
弧をかきて オーロラしろく ひかりけり はてなくくらき 北極のそら

御題 窓 昭和34年
月青く 照らす霧氷の 山々を しづかに見する 窓ぞうれしき

御題 雲 昭和33年
羊にも 鳥にも似たり わく雲の 形さまざま おもしろくして

御題 ともしび 昭和32年
あたたかく 灯ともる家を めざしつつ 志賀高原の 雪の道ゆく

御題 早春 昭和31年
せりの葉を ゆりて流るる 野川にも 春のけはひの 日ざしきらめく

御題 泉 昭和30年
わきいづる 泉のもとに おのづから いこはむほどの 石もありけり

御題 林 昭和29年
いづくにか せせらぎの音 きこゆれど 林はつきず おく深くして

御題 船出 昭和28年
つつがなき 船路をこそと いのるかな はえのみ旅に いでまさむにも

御題 朝空 昭和26年
朝やけの 雲もいつしか きえゆきて しづかにすめる そらのいろかな

御題 若草 昭和25年
おほきなる 春ののぞみを さながらに はやもえそめし わかくさに見る


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