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葉隠の里から① 世間の反対で挫折するなら、 維新の改革などみんな中途で失敗する‼ 大隈重信―鉄道建設への執念 彌吉博幸/コラムニスト(「日本の息吹」令和4年12月号掲載)

彌吉 博幸(やよし ひろゆき) コラムニスト (佐賀市在住)
地元FMラジオなどで情報発信しています。葉隠の里から世の中のあれこれについて語りたいと思います。

◆鉄道開業150年  ―開業に尽力した大隈重信と伊藤博文

 今年は、日本に鉄道が開業してから丁度150年目に当たります。その後の日本の経済発展の基礎をつくった鉄道開業。しかしここに至るまでには、実に多くの困難がありました。

 そもそもこの鉄道開業を最初に言い出したのは、大隈重信と伊藤博文でした。後に二人とも内閣総理大臣となりますが、まだこの頃は若手の財務官僚です。大隈は31歳、伊藤は28歳でした。

 二人には、それぞれに鉄道についての強烈な体験がありました。

 大隈の故郷である佐賀藩は軍事強国でしたが、 同時に総合的な殖産興業を起こすことを目指していました。当時の日本で唯一鉄製大砲の鋳造に成功、日本初の実用蒸気船や電信装置も製作、天然痘を予防する種痘を実施していました。安政2年(1855)には蒸気機関車の模型をつくり、走らせることにも成功しました。大隈は、この鉄道模型を見て感動しています。

 また伊藤は、文久2年(1863)にイギリスへ留学し、産業革命で繁栄する西洋国家を目の当たりにしました。遠くまで人や物を迅速に運ぶ鉄道が、近代国家の象徴として強く印象に残っていました。

 大隈、伊藤は鉄道建設について意気投合します。明治2年10月11日、二人は政府(太政官)に建議書を提出して認められ、建設の責任者となりました。


若き大隈重信と蒸気機関車 (イラスト/熊谷美加)

◆西郷と大久保の反対

 ところがここで思わぬ事態が起こります。西郷隆盛と大久保利通から反対意見が出されたのです。「 鉄道作りの類い一切廃止し」「兵を充実させる道を勤しむべし」(西郷隆盛意見書)。

 鉄道建設の許可は下りましたが、軍事優先なので結局予算はゼロとなり、大隈と伊藤は金策もしなければならなくなったのです。

 大隈らは、アメリカ公使のチャールズ・デ・ロングに掛け合いました。彼は、「資金を出してやる」と言いましたが、「鉄道の経営権はアメ リカが持つ」と条件をつけたので、二人はこの申し出を即座に断りました。さすがに経営権は渡せません。

 資金調達が上手くいかない一方で、 建設反対論も日本中に巻き起こります。「機関車は煙を吐く魔物だ」と、大隈、伊藤は命を狙われ、眠れぬ夜を過ごしました。

◆パークスの援助

 しかし二人は諦めませんでした。大隈は、「鉄道が世間の反対ぐらいで挫折するなら、維新の改革などみんな中途で失敗してしまうだろう」 (大隈伯昔日譚)と言って、新たな投資家を探します。

 二人に救いの手を差し伸べたのは、イギリス公使ハリー・パークスでした。パークスは幕末以来、日本人に対し常に尊大、威圧的な態度で臨んでいましたが、キリスト教の禁教問題で大隈と大論争をして以来、その弁舌、気迫に驚き、好感を抱いていました。

 かくて英国からの銀行融資が決まり、鉄道計画は再び動き出します。大隈は迅速に鉄道敷設を進めるべく、規模を縮小、費用を抑え、工期も短縮しました。

◆鉄道を海に通せ!

 しかし、二人は再び大きな問題に直面します。何と、鉄道建設予定地に当たる薩摩藩邸や兵部省が立ち退きを拒否したのです。西郷、大久保はいまだに鉄道に反対でした。

 しかし大隈は諦めませんでした。大隈は、地図を指して叫びました。「陸が駄目なら海がある!」。大隈は、品川の沖合に石垣を組み、その上に線路を築くことを計画しました。幕末、列強の侵略を迎え撃つために東京湾に作られた人工島砲台・お台場の建設には佐賀藩が深く関与していて、大隈はそれにヒントを得たようです。お台場を建設した際のスタッフたちも、海の上の鉄道を敷くために協力しました。

 かくて新橋、横浜29キロのうち、実に10キロが海の上を通るという世界にも例を見ない鉄道が完成したのでした。

◆百聞は一見に如ず

 明治5年9月12日、鉄道の開業式が行われました。汽車は新橋駅を出発、沿線の人々は、初めて見る汽車に歓声を上げました。

 この汽車に試乗した大久保の言葉が残っています。「百聞は一見に如ず」、「鉄道の発展なくして、この国の発展はない」(大久保利通日記)。

 開業の20年後、鉄道網は北海道から九州まで拡大しました。大隈、伊藤の執念の勝利が、日本国家の近代化に大きな役割を果たしたのです

 一時の国民の反対に躊躇逡巡せず、正しいと思うことを堂々と述べて国民を説得し、実行すること。これは、現在も政治に携わる全ての人に問われている最も重要なことなのかもしれません。

 

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