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コロナの感染拡大は「そんなこともあったよね」で済ませてしまって、本当に良いのか?(下)

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*****令和6年9月1日(日)第177号*****

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コロナの感染拡大は「そんなこともあったよね」で済ませてしまって、本当に良いのか?(下)
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 ※【以下、昨日配信した=コロナの感染拡大は「そんなこともあったよね」で済ませてしまって、本当に良いのか?(上)=から続く】

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3,「5類」に移行してコロナは「平時」となり、どのように対処していけば良いのか?
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 ◆東京iCDC事務局=さて、新型コロナは昨年5月8日に「5類」に移行し、今年度からはコロナの特別対応が全て終わって、いよいよ「平時」となった。都としても、今後は次の感染症危機に向けた取組み・備えというものが一層重要になっている。

 ◆東京都も、行政として必要な計画を立てて進めているところだ。(加来所長と佐藤教授は)アカデミア(大学や公的研究機関における研究職)の立場から、次のパンデミック(感染爆発)に向けて「平時」において、必要な取組みについてはどのようにお考えか?

 ▽佐藤教授=研究分野でいえば、有事の時にすぐに国産ワクチンが作れるように「ワクチン開発のための研究の動きが出てきている」というのは大きい。アカデミアの課題だが、感染症研究という分野はかなり活発になってきている。

 ▽その一方で「有事」の時に「たとえそれが自分の専門外のことであっても、専門家・研究者として何か動くとか、出来ることをやる」ということが、普通になればと思っている。自分の専門としていること、好きなものをやるということも大切だが──

 ▽「まず、社会に役に立つことをする」ということが、特に「有事」では重要ではないかと思っている。自分にとっては今回、コロナは専門外だったが、コンソーシアム(共同体)を作って研究をしたという経験が、次の「有事」にも絶対に活きると思っている。

 ▽「平時」からのネットワーク形成も「有事」でこういった経験をして、ネットワークの重要性を認識できるからこそ、作れるものだと思っている。

 ▼加来所長=(佐藤教授の指摘は)すごく、よく理解できる。コロナはそれまで、ほとんど日本ではあまり研究されていなかったので、佐藤教授たちにチャレンジしてもらえたのは本当にありがたかった。

 ▼私自身も、レジオネラという環境微生物や、マイコプラズマや肺炎球菌など、世の中で問題が起こった時などに自分の研究対象を広げていった経緯がある。色々なことを学んで、チャレンジして、分からないことを自分で追求していくのは本当に大事だと思う。

 ▼そういう意味で、佐藤教授のコンソーシアムが今後どうなるのか非常に楽しみだ。何が起こるか分からない中で、たとえ何が出てきても柔軟に対応できるようなネットワークを作っていくのだろうなと、ワクワクしているというか、期待しているという感じだ。

 ▼「東京iCDC」には9つのチームがあるが、一つだけの分野だけではパンデミックへの対応と、健康危機管理は難しいと思うし、今後さらに、全てのチームの専門家たちがお互いの強みを発揮して、連携・協力していかなければいけないと思う。

 ▼また「平時」の連携として、保健所や健安研(東京都健康安全研究センター)、医療機関など現場との連携が一層重要だ。佐藤教授には「東京iCDC」の微生物解析チームに入っていただいたが、今後もウイルスを分析していただけることを期待している。

 ▼現場の仕事は本当に大切で、現場がなくてはウイルスの分離も含め基礎研究はできない。保健所や医療現場など、感染症対応時のフロントライン(最前線)となる現場は、すごく重要だということだ。

 ▼その現場を支援していく意味でも、現場とアカデミア・専門家との連携は今後、一層大切になっていくと思う。現場とアカデミアそれぞれで、新たに分かったことなどが相互にフィードバック、情報共有されることで、また新しい事実がわかる。

 ▼さらに、科学的知見(エビデンス)も出てくると思うし、このようなネットワーク作りが感染制御や感染症診療、リスクコミュニケーション(※)などを含めた感染症危機管理にも、大いに活用されるようになってくることを確信している。

 【※弊紙注釈=リスクコミュニケーション=社会を取り巻くリスクに関する正確な情報を、行政・専門家・企業・市民などの関係主体間で共有し、課題解決などのために相互に意思疎通を図ること

 ▽佐藤教授=健安研との連携は、大変ありがたい。実は、所長の吉村先生もエイズ研究をされていて、その時から知り合いだったこともあって、声を掛けやすかったということはあった。

 ▽自分はエイズの研究の中でも「ウイルスの遺伝子がどんなことやっているか?」というような細胞生物学という、要は試験管の中で完結するような研究をやっていた。なので「エイズはどんな病気なのか?」に関しては、基本的に自分の研究の中には全くなかった。

 ▽ただ、大学院の指導教官だった小柳先生(京都大学国際高等教育院副教育院長・特定教授)が、興味の幅がすごく広い方で、それで自分も「研究で目の前にあること」だけじゃなくて、自分が研究しているウイルスが──

 ▽エイズという病気にどのようにつながっているか、どう流行するものなのかというような、エイズの全体像を理解しなきゃダメだということを教えられた。視野を広げるという点で、僕にすごく影響を与えてくれたと思う。

 ▽新型コロナの研究でも、試験管の中の話だけではやっぱり駄目で、パンデミックという世界で起きていることと、どうつながっていくのか理解する必要があった。そしてそのためには、賀来所長がおっしゃった通り「情報を共有すること」が必須だ。

 ▽なので、そういう意味でもやはり、ネットワークはすごく大事だと実感している。

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4、大谷選手の「グローブ作戦」のように、全国の高校へ「本」を配り、若い方々にも……
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 ◆東京iCDC事務局=次に、次世代を担う専門家の育成についてお伺いしたい。佐藤教授は、次世代の人材の育成の取組みについて様々なご活動をされていると伺っているが、その紹介も含めて、教授のお考えをお聞かせいただければと思う。

 ▽佐藤教授=私たちのコンソーシアム「G2P-Japan」の活動について、日経サイエンスで書籍を出版していただけたのだが、このおかげで次のパンデミックに備えるための研究予算をとることができた。

 ▽なので、その一環として、その本=画像・東京iCDC「note」より=を全国4,979の全ての高校に一冊ずつ配ることにした。MLBの大谷選手のグローブの話からの着想だが。全国の高校に一冊あれば、理論上は全高校生がその本に触れることができる。

 ▽その中の、本当にごく一部でも、一人でもこの本を読むことで、感染症研究に興味を持ってもらえたらと思う。今の高校生、中学生って、思春期の一番大事な青春の期間を、まさにその「コロナで潰された世代」だ。

 ▽自分のやりたいことができなかった時に「それを、なんとかしようと思って頑張っていた人たちがいたんだよ」なんていうことを知ってもらえたら嬉しい。また、我々としてはウイルス学者として、人の役に立つという矜持を持って頑張ってきたという自負もある。

 ▽なので、そういう姿勢に共感してくれる若い人たちが一人でも増えてくれたらと思う。実際、そういう人たちがいないと、次のパンデミックに対して対応できる人がいなくなると言ってもいい。

 ▽時間はかかるが「草の根活動」的なことから頑張っていけたらというところだ。実際に、学校に伺って授業をするような、そういうこともやっていきたいと考えている。

 ▼加来所長=新型コロナもそうだったが、感染症の原因となる微生物は目に見えないので、一般の方には、どうしても分からないものに対しての「恐怖」みたいなものがあると思う。

 ▼2002年に「SARS」が香港で感染拡大した時も「SARS」がどんな病気で、どれだけインパクトがあるかということを正しく伝えないと「差別」とか、色々な問題がおこって大変なことになると専門家の中で話していた。

 ▼「東京iCDC」でも都民の方に対して「ウイルスや細菌ってこういうものです」「梅毒ってこういう病気で、こうやったら防げるけど、こういう治療はまだできないんですよ」と分かりやすく、理解して納得できるように伝えていくことが求められていると考えている。

 ▼特に、若い世代だ。専門家の間でも、感染症を若い人たちに理解してもらって、若い人たちが率先して「自分たちが世界を守る」というような、そういう思いを持ってもらわなくてはいけないと話している。

 ▼そうした意味で、佐藤教授が若い人たちに「自分の活動」を知ってもらうための様々な活動は、非常に意義深い。将来、感染症やウイルス学に興味を持ってくれるといいし、そもそも、感染症は人から人にうつる疾患で、個人を超えた「社会全体の病気」だ。

 ▼そのことを理解した上で、さらに「自分に何ができるのか?」ということを考えられる人になってもらえればいいなと思う。若い人に伝える上で、どういうやり方が良いのかなと思ったら、大谷選手の「グローブ作戦」だ。これはすごいなと思った。

 ▼学校に本を配ることは、子供たちにとって非常に大きいと思う。「全国」だからね。これがどんな波及効果を生むのか、すごい楽しみだ。

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5、感染症は、大地震の時の「教訓」のようには残らないが「記憶」につなげる必要が…
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 ◆東京iCDC事務局=最後に、賀来所長と佐藤教授の方から、都民の皆様へのメッセージがあれば、一言ずつお願いしたい。

 ▽佐藤教授=日本が経験した感染症の「有事」は、近年だと2009年新型インフルエンザがあり、今回のコロナが初めてではなかった。日本は津波とか震災とか災害の多い国で、災害があった日に式典をしたり、過去の災害を振り返る機会がある。

 ▽なので「教訓」みたいなものが残っている。今年の元日の能登の地震も「東日本大震災のことを思い出してください」ということがメッセージになって、迅速な避難につながったということもある。

 ▽でも感染症は、それが残らない気がしている。どちらかというと「もう忘れたい」という逆の反応がすごく強くて。そうではなくて、この4年間にあったこと、ああいう経験をいかに将来に活かしていくかということが大事だ。

 ▽そのための啓発活動や情報発信、交流する機会を持ち続けて「記憶」につなげていく必要があると思う。自分はその専門ではないけれど、そういったことで都民のためにできることがあれば、何でもできたらと思っている。

 ▼賀来所長=人と微生物は、地球という環境の中で共存していて、その意味からも感染症はこれからも常に起こってくる。その中で今後、人々や社会に大きな影響を与える、パンデミック(世界的大流行)となるような感染症が出てくることが確実視されている。

 ▼ウイルスや細菌、その他の病原体、身体を守る免疫、抗微生物薬(抗生物質、抗ウイルス薬)、感染予防法(手洗い、マスク、3密回避)などのことをよく知ってもらって、感染症に対してどのように賢く対応していけるかを皆で学び、理解していただきたい。

 ▼さらに、感染症に強いレジリエント(=「回復力・復元力」を意味する英語で、ビジネス分野では危機やストレス、トラブルにうまく対処して立ち直ることができる「精神的回復力」という意味で使われる)な社会を作り──

 ▼そのことを、次の世代に継続的につなげていくことが必要だ。地震は津波や建造物などが破壊された映像などが残るが、感染症は目に見えない病原体で起こるため、必ずしも人々の記憶には残らない。

 ▼「そんなこと(=パンデミック)もあったよね」っていうような感覚になってしまいがちだ。でも実際には、感染症は起こるし、長く継続する。まさに感染症は「持続する災害」でもある。

 ▼そのことを多くの人たち、社会全体でしっかりと理解していただくことが大切だ。「感染症は、常に起こり得るものだ」と思っていただき、社会全体の連携協力、ネットワークを作り、みんなで対応していくことができればと思っている。

◇─[おわりに]───────────

 昨年の「第9波」以降、それまでと比べて、感染症の専門家の方々がコロナに対して発言する機会が大きく減ったように感じますが、そのことこそが「平時」となった証しなのかも知れません。

 しかし現実には、加来所長が指摘しているように「感染症は常に起こり得るもの」です。また新型コロナ以外にも、過去に人類が経験したことのない感染症が流行する可能性も十分にあります。

 まずは個人レベルで「今、コロナの感染拡大は『この程度』だが、マスクは着用した方が良いのか?」等、その時々で自分自身に問いかけて、何度も「考え直してみる」ことが重要ではないかと思います。

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