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コロナの感染拡大は「そんなこともあったよね」で済ませてしまって、本当に良いのか?(上)

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*****令和6年8月31日(土)第176号*****

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コロナの感染拡大は「そんなこともあったよね」で済ませてしまって、本当に良いのか?(上)
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◇─[はじめに]───────────

 新型コロナの感染拡大は、直近では今年のゴールデンウイーク明けから始まった「第11波」で全国の新規感染者数が、直近ではやや反転したものの、おおむね「減少」を続けています。

 昨年のゴールデンウィーク明けから新型コロナは「5類」となり、多くの方々の「感染拡大に対する意識」もかなり変化したと思います。特に、人混みの中でのマスクの着用率は明らかに「減少」しています。

 この「5類」移行と時を同じくして「第9波」が始まり、そして昨年の年末から年始にかけて「第10波」が起こりました。マスクの着用率ひとつをみても、コロナの感染対策に対する人々の「意識」は、時間の経過とともに低くなっているように感じます。

 「本当にこれで良いのか?」「今年の年末頃に起こると想定される『第12波』以降の感染拡大も、多くの人が共有している現在の『意識』で良いのか?」──この点について誰か、感染症の専門家が何か情報を発信していないか、探してみました。

 すると、東京iCDC(=東京都の感染症対策全般について、患者の発生動向等のエビデンスや最新の科学的知見に基づき、政策に繋がる提言を行っている、専門家のネットワーク)が「今後の感染症対策を考える」と題した「対談」を、8月19日に公表しました。

 ここでは、東京iCDCの所長である賀来満夫・東北医科薬科大学特任教授と、東京iCDCの一員でもある佐藤佳・東京大学医科学研究所教授が、それぞれの立場からコロナの感染拡大の防止対策に挑んだ「想い」を語っていました=写真・東京iCDC「note」より。左が加来所長、右が佐藤教授

 この「対談」の最後に、加来所長は「『そんなこと(=新型コロナによるパンデミック)もあったよね』っていうような感覚になってしまいがちだが、実際には、感染症は(今後も)起こるし、長く継続する。まさに感染症は『持続する災害』でもある」

 「そのことを多くの人たち、社会全体でしっかりと理解していただくことが大切だ」と指摘しています。この発言だけ切り取れば、多くの方は「その通り」で終わってしまうと思います。

 しかし、この「対談」では二人の専門家が、コロナと対峙するまでの経緯や、実際にコロナに直面した際の苦闘が述べられ、それを踏まえた最後の結論として「『そんなこともあったよね』っていうような感覚になってしまいがちだが……」との結論に至っています。

 弊紙では、この「対談」の内容に目を通すことで、多くの方が「『そんなこともあったよね』で終わらせてしまって良いのか?」と、自らのコロナの感染防止対策を振り返る契機になるのではないかと考えました。

 そこで今回の本紙では、東京iCDCが公表した加来所長と佐藤教授の「対談」を、弊紙読者が興味を持つのではないかと思われる部分に限定して、その内容を一部弊紙で改めた上で、2回連載でお届けすることにいたしました。

 今回の記事が読者の皆さんにとって、今後の「第12波」以降の、コロナの感染防止対策を考え直すための一助になれば幸いです。最後まで、ご一読いただければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 今回の記事は「はじめに」で記したように、東京iCDCが8月19日に「note」で公表した「対談」の内容を元に作成いたしました。記事中の表現等は、弊紙により一部改変いたしましたので了承の上、お読みいただければと思います。

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1、佐藤教授が研究者を、加来所長が専門家を、それぞれ目指したきっかけは……
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 ◆東京iCDC事務局=はじめに、佐藤先生はウイルス学者、賀来先生は医師であり感染症の専門家として、それぞれ現在ご活躍だが、そもそもこの「道」を選ばれたきっかけは何だったのか?

 ▽佐藤教授=一番古い記憶として残っているのは、中学生の時に観た海外のドキュメンタリーを取り上げている番組で、アフリカにエボラウイルスという「致死率が40%~50%というウイルスがいる」ということを知って、それにすごくびっくりしたことだ。

 ▽そんな致死率が高い感染症、ウイルスなんてフィクションというか、漫画や映画の話だと思っていたので、そこから感染症には漠然と興味を持った。漫画や映画だと「パンデミックで人類が滅亡するかも」という危機に立ち向かっていく主人公は、大体科学者だ。

 ▽未曽有の危機が起きた時に活躍できる、役に立てるような人になりたいと思ったのが、ウイルス学者になろうと思ったきっかけだ。2000年ぐらいに「ヒトゲノム解読」が話題となり、新聞の一面にも生命科学の記事が多く出ていた。

 ▽自分は高3で大学受験を控えていた時で、推薦入試の勉強のため新聞の切り抜きを始めた。まあ、その推薦入試には落ちたのだが……。いずれにしても、その時にたくさんの記事を読んで、生命科学や分子生物学に興味が向いたので、大学ではそれを学んだ。

 ▽さらに、分子生物学的な手法をベースにしたウイルス学を特に専攻してみた……という経緯だ。

 ▼加来所長=私はすごく動物が好きで、もともと動物を研究する動物学者になりたいと思っていた。その関連で、野口英世博士やシュヴァイツァー博士など、アフリカで活躍した医師のことを知った。

 ▼アフリカに行けば動物とも会えるし、多くの人が困っている感染症に関することを同時に経験できるような仕事をやりたいなと思ったのがきっかけだ。その後、実際にJICA(=国際協力機構)の関係でケニア中央医学研究所に行く機会があった。

 ▼そこで、感染症のことを改めて学んだ。その頃は、ケニアで史上最悪のコレラのアウトブレイク(=病院などの医療機関で、多数の感染者が出ること)が発生したり、私自身もマラリアに感染したり、本当に多くのことを経験することになった。

 ▼アフリカはとにかく「未知の大陸」のようなイメージもあったし、動物から伝播する未知の感染症にも非常に興味を持ち、そういう「道」に進みたいと思い、現在に至っている。

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2、実際に「コロナ渦」に直面し、どのような苦労があったのか?
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 ◆東京iCDC事務局=では、実際に今回、未曾有の危機(=新型コロナの感染拡大)が訪れたときのことをお話しいただきたい。佐藤教授はコロナ禍で多くの論文を発表されたが、振り返ってみて苦労などはあったのか?

 ▽佐藤教授=僕はもともと、コロナの研究をする前はエイズウイルスの研究を専門にしていたので「全く違う分野に飛び込む」という決断をしたのは、コロナ禍が一つ大きなきっかけだったと思う。

 ▽苦労については……最初に小さい仕事が論文にまとまったので、その成果をもとに、その次のAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)で大きめの予算を獲得することができた。

 ▽それをもとに、コンソーシアム(=共通の目的を持つ複数の組織が協力するために結成する共同体)を作った。皆、モチベーションが高く、年が近い人たちを集めることが可能になって、そこでもさらに成果を出すことができた。

 ▽これにより、さらに大型予算を取ることができ、コンソーシアムも拡大できて……結果的にいうと、雪だるまが転がって大きくなる感じで、スケールが大きくなっていったという感じなので、改めて「苦労したか?」と聞かれると、あまり思い浮かばない。

 ▽コンソーシアムの仲間は、半分ぐらいが自分と同じくHIV(=「ヒト免疫不全ウイルス」を略した言葉で、体に入ると色々な悪さをする)の研究から、新型コロナに転身した人たちだ。

 ▽エイズは、僕が学生だったときはかなり活発な研究分野で学生もたくさんいた。集まって交流する機会も結構あったので、彼らとは友達でもあり、共同研究者でもあり、ライバルでもあり、人となりもよく知っていた。

 ▽そういう人たちに声をかけて「一緒にやろう」ということになった。

 ◆東京iCDC事務局=これまでと全く違う「コロナの研究」に飛び込む決断をされたのは、どのような思いからだったのか?

 ▽佐藤教授=自分は一応、ウイルス学者として研究室を構えている以上、「専門としているウイルスが違うから、コロナの研究はできない」というのは「逃げ」になるんじゃないかと思っていた。

 ▽2020年3月ぐらいには、すでに国のコロナ対策にも、自分もよく知っている先生方が多く関わっていたし、テレビにもウイルスや感染症の専門家が出て解説していたのも見ていた。

 ▽最初にお話ししたように、もともとこういう「非常事態に活躍したい」と思って研究者になった経緯があったので「自分も役に立ちたい」と思って決意した。

 ◆東京iCDC事務局=賀来所長は、東京iCDCの所長として思い出深かった出来事や、医師のお立場として、困難な課題を感じたことは何かあるか?

 ▼加来所長=佐藤教授がおっしゃったように、ウイルス学は専門性を持って研究している方が多いのだが、コロナ禍の初期は「コロナウイルス」を専門としている方は本当に少なかったと思う。。

 ▼そうした中、コンソーシアムをつくって若い人たちが皆で「新型コロナウイルスの基礎研究」に取り組む試みは、これまでになかったと思う。本当に素晴らしい、画期的な取り組みだ。

 ▼私自身、感染症に関して専門家や医療従事者、そして一般の国民の方々すべての人達が「正しい情報を共有できるようなシステムはないだろうか?」とずっと思っていた。東北大学にいたときは、子どもさんや親御さんに向けたキッズセミナーを開催したりしてみた。

 ▼コロナ禍で「東京iCDC」が発足したときに、これまで自分自身がずっと思っていたこと、専門家のネットワークによって科学的な知見や、情報などを東京都や都民の方々に還元するような仕組みができるのではないかと──

 ▼これを、日本の首都である東京で構築することができればと考えていた。佐藤教授は、コンソーシアムなど専門家のネットワークを精力的に作られていて、また「若い人たちにも、感染症やウイルス学の大切さを伝えたい」という強い思いをお持ちだった。

 ▼そのことが「佐藤教授に、東京iCDCのメンバーとして入っていただきたい」と思った大きな理由だ。ネットワークを強化して、科学的なデータを都民や国民に伝える。それが「東京iCDC」の大きな役目のひとつだと思っている。

 ※【以下、明日配信予定の=コロナの感染拡大は「そんなこともあったよね」で済ませてしまって、本当に良いのか?(下)=へ続く】

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