営巣中のバスとハゼの攻防
科学論文を釣り情報へ還元する第20回目の投稿です。
今回のテーマ:キャッチ&リリースが巣守りバスに与える影響
巣を守るブラックバス(♂)とバス卵を狙うハゼの攻防についてご紹介します。
この論文を一言でまとめると、
巣を守るスモールマウスバスのオスは攻撃的で釣られやすい。しかし、このオスが居なくなるとあっという間にハゼに巣を破壊される、というお話でした。
バスのオスが繁殖期を迎え、巣を守るようになると圧倒的に釣られやすいという話は先日投稿しました。
今回はその続編という形になりますが、バスのオスが釣りによって不在になった巣を襲うハゼの脅威についてご紹介したいと思います。
ハゼという捕食者
写真はWikipediaより
皆さんは、ハゼと言えばどんなイメージを持たられているでしょうか?
ハゼの仲間は海水、汽水、淡水、どこにでも生息しており、世界で最も繁栄に成功した魚種の一つです。
淡水に生息するハゼの仲間ですと、日本では「ドンコ」がよく知られていますが、今回はヨーロッパや中央アジアを主な生息域とする「ラウンドゴビー」というハゼが対象です。
ラウンドゴビーの原産はユーラシア大陸ですが、1990年代に今回の実験地である北米の五大湖周辺に侵入した外来種で、主に岩場を生息地としています。
バス好きの方はご存知のように、スモールマウスバスは産卵期の春の数か月は営巣し、卵が孵化するまで巣を守ります。
北米五大湖のスモールマウスバスも岩場に営巣するため、このラウンドゴビーに狙われやすいわけです。
ラウンドゴビーの脅威の破壊力
さてさて、スモールマウスバスにとってどのくらいの脅威なのか?が気になるところです。
今回の研究の結果、 ラウンドゴビー1尾当たり3.5秒に1個の胚(孵化するため細胞分裂が進んだ状態の受精卵)を捕食することがわかりました。
また、オスのバスがいないと、平均78秒で巣に侵入し、5分もあれば20尾が巣へ侵入し捕食行動に入ります。
そこから計算した結果、6,200個の胚が15分以内に消費され、もしこの消費率が一定であるとするならば、今回の実験地である五大湖の一つ、エリー湖のスモールマウスバスの一般的な巣にある卵は17分間で完全に捕食され尽くしてしまうことになります。
キャッチアンドリリースによる影響
以前の記事でもご紹介したように、巣の周辺で釣りをした場合、かなり高い確率(以前の試験では70%以上)で巣を守るオスのバスが釣り上げられます。
そのため、もしその雄バスが釣られた場合、リリースされて巣に戻るまでに平均5分間(ファイト時間→キャッチ→リリースまで2分を含む)かかることを加味すると、この間には2,400個の胚が失われる計算になるわけです。
これはエリー湖のスモールマウスバスの巣で計算すると35%に当たる卵量になるそうです。
つまり、キャッチアンドリリースによる釣りの影響で、間接的に1/3以上のバスの繁殖機会を潰していることを示しています。
スモールマウスバスのオスは約2か月巣を守りますので、釣られれば釣られるだけその危険は大きくなります。
一方で、スモールマウスバスは何度も産卵し、その間はずっと巣を守る性質があるめ、我々釣り人にとっては最高のターゲットです。
(この地域では産卵期は釣り禁止などの制限があるそうですが、6割以上の釣り人がそれを無視しているという事実もあるそうです・・・)
ラウンドゴビーはバスが孵化するまでの卵は執拗に狙いますが、孵化した稚魚は捕食しないことがわかっています。
なんとか営巣から孵化までの期間を守ることができれば・・・と筆者は訴えていました。
さてさて今回もなかなか考えさせられるお話でありました。
バラスト水の問題も世界的な環境問題の一つとして有名ですよね。
タンカーのバラスト水というのは、タンカーを安定させて航行するために、空荷となった港で大量に積載した海水のことを言います。
そのため、世界各地へ貨物が輸送される際に、今回のように全く違う地域から新しい生物を連れて来てしまうことになるのです。
ラウンドゴビー以外にも、日本からバラスト水で運ばれたヒトデの仲間が、オーストラリアに侵入し、ホタテなどの貝類を壊滅的にした事例もこれまで報告されています。
種を守りながら、釣りを楽しむってなかなか難しい問題ですよね。
また、次回お会いしましょう。