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静かな静かな。

昼でも夜でも、赤ちゃんが寝てしまうと、わが家は静けさに包まれる。
寝た子を起こさぬよう、僕も妻もひそひそ声で話すようになるし、なるべく物音を立てないようにする。

すると、急に外界が身近に感じられるようになる。
窓の外でしていた車の走行音や子どもたちのはしゃぐ声が耳に入り、風が空気を切るすーっとした感じを味わうことができる。

食事をしているときには、料理の味がはっきりわかる。いつもより細かい味わいが感じられて、ぐっとおいしくなる。どこかのお寺で黙々と食べる修行があるそうだけれど、効果があるのも頷ける。ただ、赤ちゃんが起きてしまうとおしゃべり好きな僕らはさかんに口を動かしてあれこれ話しはじめてしまい、その感じはかき消されてしまう(しゃべりながら食べるおいしさもあるのだけれど)。

静けさは、世界がこんなふうであったことを気づかせてくれる。

ちょうどいま、お出かけから帰ってきた赤ちゃんがミルクとおっぱいを飲んで寝てしまった。その間に切りそびれていた手と足の爪を切り、妻が昼食のラーメンをつくってくれるのを待っている。20分後に立憲民主党の野田元総理が駅前の広場で演説をするというが、たぶんその頃にはラーメンをすすっていることだろう。

さっきまで窓の外では、遠足帰りかなにかの子どものにぎやかな声がしていた。「ここからだと海まで行ったのかな」「そうかもね」と妻と話す。

妻がラーメンに入れる海苔をちぎる音がする。子どもたちは建物の中に入ったのか、元気な声が小さくなった。バイクがうちの前を通過していく。

静かな静かなうちの秋。
「できたよー」と妻の声がする。はらぺこのお腹を抱えて、待ってました、と立ち上がる。「今日はいい日だね」と声をかける。赤ちゃんはまだ夢の中だ。

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澤 祐典
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