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亀井善行を忘れない

 亀井善行選手、引退。

 今日の朝起きてTwitterを開いた時に飛び込んできたトレンドの数々に、僕は我が目を疑いました。

 今季で39歳。そりゃ引退してもおかしくない歳ですよ。シーズンでは開幕戦で代打サヨナラホームランを放ったもののその後成績は低迷。速球に差し込まれるシーンが目立ち、ファンからは叩かれ、この時は「今季で引退かな…」と正直思ってました。

 しかし9月に入ると調子は上向きに。5番レフトとしてスタメン出場し月間打率.283でOPS.778とスタメンを張るに足る成績を残し、亀井は未だ健在であると僕らに示してくれた。

 先日の試合でふくらはぎに死球を食らい出場選手登録を抹消されたものの、来年も現役を続行してくれるものと思ってたんですが…。

 その好調だった9月の上旬に原辰徳監督に引退の意思を伝えていたという事で、覚悟の出場だったわけですね。

・亀井善行はどのようなプレーヤーだったのか

 亀井選手を語る時、「記録より記憶に残る男」という文脈で語られる方が多いと思います。

 確かに亀井選手は記録上では正直レジェンドクラスの選手ではない。現役生活17年で規定打席に到達したのは3シーズンのみ。通算本塁打は101本で通算安打は1069。タイトルはブレイクした2009年に獲得したゴールデングラブ賞だけという、まあこういう選手ですわ。


 一方で記憶に残る活躍を多くしたのも事実。2009年には当時中日ドラゴンズの絶対的な守護神であった岩瀬仁紀投手からバックスクリーンへ逆転サヨナラスリーランホームランを放つと一気にブレイク。その年1シーズンで3本ものサヨナラホームランを放つと日本シリーズではこれまた北海道日本ハムファイターズの守護神だった武田久投手から9回裏1点ビハインドの状況で同点ソロホームラン!阿部慎之助選手のサヨナラホームランに繋がり、日本一に王手をかけた貴重な一打になりました。

 2014年には京セラドーム大阪でオリックスバファローズに10回までノーヒットに抑えられていた状況の中、12回表に馬原孝浩投手から価千金の勝ち越しホームラン。2017年にはサムネにもしましたが千葉ロッテマリーンズの大嶺祐太投手からサヨナラスリーランホームラン。この時は前打者のケーシー・マギー選手が3度も敬遠され、しかし2度もチャンスを潰した末の3度目の正直ともいえる一発でして、泣きながらダイヤモンドを一周した亀井選手の姿は皆様記憶に残っているかと思います。


 2019年の日本シリーズでは福岡ソフトバンクホークスのリック・バンデンハーク投手から2打席連続ホームラン。大舞台に強い男でした。何かをやってくれると感じさせてくれる、そんな選手でした。

 でも亀井選手を語る時には怪我というのも外せない。とにかく怪我をする選手でした。2008年、坂本勇人選手と共に若手コンビとして売り出され頑張っていた最中、走塁中の怪我で2ヶ月離脱。

 2013年、2014年にはキャンプ中に怪我をして開幕に間に合わずチャンスを棒に振り続けて来ました。

 それ以降は大きな怪我がなかったのですが、2020年に本塁突入の際股関節を負傷。これが引退の原因になったと亀井選手は会見で語りました。怪我で終わってしまうのが亀井選手らしいといえばらしいのですが…しかしこんならしさはいらなかった。

 ポジションをたらい回しにされた選手でもありました。元々は中央大学で三塁手。プロに入ってから外野手になり、高い守備センスと強肩で2008年には右翼手で出場。2009年も右翼手で開幕を迎えますがシーズン途中から一塁手もやるようになり無難にこなし、大スランプに陥った2010年オフにはオーストラリアへ修行しに行ってなぜか二塁手をやらされ(笑)かと思いきや2011年には原監督の発案で三塁手転向(笑)シーズンでも二塁手をちょっとだけやったかな?

 晩年は左翼手として主に出場し、確か若手の頃は中堅手もやってたはずなので亀井選手がプロで守ってないポジションは捕手か遊撃手という(笑)本当に万能といえば万能な、悪く言えば贔屓的な起用をされた選手でもありました。

 若手の頃は湘南乃風の『黄金魂』を登場曲に使っていた亀井選手。ベテランになるとハジ→というアーティストの『春色』になったんですが、正直ベテランなのに若い曲使ってんな(笑)って感じでしたね。

 最初に作られた応援歌がダサすぎて変えてもらった亀井選手。2009年のWBC代表に選ばれるも実績が伴わず叩かれ、しかしネットで世界のKAMEIと弄られなんだかんだ愛されキャラになっていた亀井選手。怪我が多いため登録名を亀井義行から善行に変えるもやっぱり怪我をした亀井選手。姿勢が悪いのか練習中はバットを杖みたいにして体を支えていた亀井選手。笑う時片側だけつり上げてニヒルに笑っていた亀井選手。実は走塁が一番凄かった亀井選手。中大時代から支えてくれた奥さんと結婚して一切不倫などの報道が出ない一途な亀井選手。

 不完全で、もどかしくて、大好きだった亀井選手。

 でも僕が一番好きだったのは、時折見せる亀井選手の鋭い眼光でした。

・ここぞという時の亀井の眼光

 サムネに使った画像は先程ご紹介した通り2017年のサヨナラスリーランの時のものです。

 申告敬遠が導入される前年。目の前でマギー選手が3度目の敬遠をされるのを見ていた亀井選手の顔は、誰が見てもわかるほど怒りに燃えておりました。

マギー選手の敬遠を見る亀井選手

 
 もちろんロッテとしては亀井選手よりマギー選手が怖いのは当然ですし、敬遠も普通の判断でしょう。僕がロッテの監督でもそうしたでしょうし、現に2回は打ち取っていたわけです。

 僕はこの時「亀井、打ってくれ」と祈ってはいましたが、正直打ってくれるかと思ってたかと言えば…という感じでした。しかし打席に入る亀井選手の眼を見た瞬間、なんていうかゾッとしたんですよね。


 僕、こんな目をして打席に入ってる奴亀井選手しか知りませんよ(笑)それほどの集中力、ゾーンに入った感覚だったのかもしれませんが、僕はこの目を見た瞬間「いける」と思ったんです。

 これ以前にも同じような感覚がありまして。2014年のオリックス戦。亀井選手の勝ち越しホームランで勝った試合ですが、この時確か彼の復帰試合だったんですよ。


 この時亀井選手は32歳。2010年の大スランプでレギュラーを奪われ、三塁手にも挑戦しましたがパッとせずそれ以降は怪我の連続。選手生命の岐路に立たされていたんだと思います。

 皆様ご存知の通り読売ジャイアンツという球団は日本で一番補強に積極的な球団であり、勝つためならば生え抜きの功労者の放出も厭わないチームであります。

 2018年のオフには内海哲也投手、長野久義選手という二大功労者が人的補償で放出されましたよね。それ以前にも矢野謙次選手、木佐貫洋投手、二岡智宏選手、仁志敏久選手、清水隆行選手など数々の生え抜き選手がトレードなどによりチームを去りました。

 亀井選手もそのうちの1人になっていてもおかしくはなかったと思うんですよね。2014年時点では彼もまだベテランに差し掛かった段階の1サブプレーヤーであって、そこまで重要な選手ではなかった。この時はまだ阿部選手、高橋由伸選手もいましたしね。

 そこへ来て2014年はキャンプ中の骨折による開幕出遅れで、5月30日にようやく一軍登録されたわけですから、本当に正念場だったと。

 この時巨人が少し不調でして、救世主を探していた状況だったわけですが、正直亀井選手にはあんまり期待していなかった。

 でもオリックス戦で復帰した亀井選手を見て、「ん?」って思ったんですよね。

 目がギラついている。

 サムネにした目みたいな感じで、この時の亀井選手はよほど必死だったのか目が闘志剥き出し。怖いくらいの眼光を放っていた。

 この試合だけではなく、それ以降の亀井選手も物凄い必死にバットを振っていて、見ていて凄く気持ちが良かった。よく「気持ちを出せ」って言いますけど、それって無理強いする事ではないじゃないですか。そんなもんは内から自然に出てくるものであって意図的に出すものではないと。

 ただその分心から闘志を出したものの眼光ってのは人を惹き付けます。そしてそういう選手はここぞという時に頼りになる。

 亀井選手が実積のわりに巨人ファンから異常な人気があるのって要はこの部分だと思うわけです。このメンタルがあるから亀井選手は何度でも復活してこれるし、日本シリーズという大舞台で何本もホームランが打てる。通算101本という本塁打数に対して7本もサヨナラホームランが打てる。これに関しては数字としてちゃんと出てますよね。

 もちろん完全な選手ではありませんでしたし、シーズンで活躍しないわりに贔屓的な起用をされていた時期もありましたからそこでヘイトを溜められたファンの方の気持ちもわかります。

 しかし裏を返せば例えシーズンで活躍しなくても大事な場面、大事な試合で打ってくれる選手。そういう選手は貴重ですしそもそも亀井選手には打てなくても走塁や守備、肩といった武器がありましたから、原監督が寵愛したくなる理由もよくわかる。

 だからちょっと不安もあるんですよね。これから亀井選手がいなくなって、果たしてここぞという場面で闘志剥き出しで戦ってくれる選手が出てくるのか。大舞台で打ってくれる選手が出てきてくれるのか。残念ながら今の主力は大舞台にはいまいち強くない。

 巨人が日本一になる為に必要なピース、それが亀井選手だったわけですが、その後継者の台頭が待たれるところですね。

 しかし引退を決断された以上、亀井選手にはお疲れ様でしたと言わせていただきたいです。そして「ありがとうございました」とも。

 17年間、青春真っ只中で巨人を自発的に応援しようと思えた10代の自分にとって、亀井選手は初めての未完成の選手の1人でした。成長を見るのが楽しみで、苦しむ姿を見るのが辛くて、情けないプレーに怒って凄いプレーに喜んで。1人の若者がチームの精神的支柱になって引退するまでを見届けられた。その事に物凄く感謝しております。

 今季途中移籍してきた中田翔選手にベンチでコミュニケーションを取っていた姿もよく見られました。いつの間にかあなたは巨人というチームになくてはならない存在になっていた。引退するのは寂しいですが、亀井選手が巨人一筋でいてくれて良かったと心からそう思います。

 そして今季、まだ見れる機会があると信じています。その時にまたあの目を見せてください。闘志剥き出しの姿を、その姿から放たれる1打を目に焼き付けたいと思います。

 最後に応援歌の引用をば。

どこまでも駆け抜けろ 地平の彼方目指し
か・め・い ガムシャラに追い続けろ


 そして、その先に良い未来がある事を願って。

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