「小説でもどうぞ」落選集④ テーマ「癖」 タイトル「しゃべくり万談」
「いやぁ、双子って便利そうに思うでしょ？ドラマとかアニメとか、双子の兄弟って皆が知らん間に入れ替わってさ、でもほとんど。いや―絶対かな、上手くいくよなあ－」
「実は俺も双子なんだけどね、正直、入れ替わるとかほーんと怖くて絶体出来ないと思ったのよ」
「でも、この前、弟がどうしても会社休みたい、頼む！代わりに行ってくれってめちゃくちゃ泣きついてきたからさ。まぁ、双子だし簡単にバレやしないだろって思ったの。でも問題はさ、出勤したときの“第一声なのよ！これ結構重要だよね」
「いやだって、考えてみて？会社の人におはようございますって言った瞬間、見た目はそっくりでもね、声のトーンとか、喋り方で 、あれ？こいついつもと違うんじゃね、って思われたら即終了じゃん！そこでもう、俺めっちゃくちゃ考えたのよ。第一声、何にすればいいかなって！皆だったらどうする？」
「考えたことある？第一声の重要性…これが双子入れ替わり界の最重要テーマ！」
「まずな、普通おはようございますって感じでしょ、だけど弟の普段のおはようございますってのが、俺どんな感じが知らんのよ！挨拶できなすぎてコンビニのバイト、クビになったくらいだから、どのくらいのテンション言えばいいか想像もつかないんよ！そんなんだからさ、普段丁寧な挨拶するタイプじゃないしな、おはようございます言ったら、逆に違和感感じられてしまうかも。」
「これ、案外難しい問題だから！そこで俺は考えてみたのよ。無難な挨拶に頼らない方がいいじゃねって？」
「結論はこれ！、黙って目で挨拶よ！無口キャラやと思わせれば、何も喋らないでいいから安全じゃん。でもさ、会社の朝礼とかで黙ってたら、あれ？何？今日かっこつけてるの？ってなる可能性になるよね？」
「この思考は罠よ！罠！」
「次に考えたのが、弟のキャラをいかす作戦ね、弟からちょこっとリサーチしてみたらさ、どうやら俺の弟、職場では結構明るいムードメーカーだって言うのよ、ほんとかよって話だけど。でもそれ聞いて俺、めっちゃくちゃプレッシャー感じちゃてさ！明るいとか俺絶対に無理だもん！こんな事やってるけどね、俺めちゃくちゃネガティブで本来は陰キャなのよ。だって毎日ネットの占いランキングで第十二位だけみて、あ－良かった俺じゃない！って安心してるんだから」
「でも、気を取り直して明るくいこうかなって思って、おっはよーっす！今日もよろしくね！とか、こういうの、どうかな－って思ったのよ。」
「ただね、それはやっぱ違和感じゃない？俺、普段そんなキャラじゃないし、慣れてないだけにテンション間違えたりするじゃん、弟の同僚がえ？、今日なんか変にハイテンションやけど、何かヤバイ薬とかやってんしゃね？」とか言われて、おまわりさん呼ばれちゃうかもしれないし」
「それでね、最終的に無難に笑いを取るのが一番安全じゃないって思ったんだけど、無難に笑いが取れた今日だって、もっと笑かしてるって話だけどさ」
「例えば、おはようございますの代わりに、いやー、朝から電車に飛び込んじゃたけど意外と俺、無敵でしたよって、こんな感じで適当に小話を挟むとかね。でも、それもなかなかのリスキーじゃない？」
「あ、電車に飛び込む方じゃなくて、小話を挟むって事の方だけどね」
「でもさ、弟が普段、そんなキャラじゃなかったらバレバレでしょ？こいつほんと今日危ないから、とりあえず何か警察くるまで何か歌わせておけ！って空気になったりして、余計に紅白狙ってる感になっちゃうでしょって何の話してたんだっけ？」
「いやいや、考えれば考えるほど第一声ってこんなに難しんだなって！双子だから適当に考えれば、けっこう平気だと思ってた俺が甘かったね。」
「結局、俺がどうしたかって気になるでしょう？気にならない、え、気にならないの？、まあまあそう言わすに聞いてよ。まだね、もうちょっとだけ俺の持ち時間があるのよ」
「でね結局、ドキドキしながらフツーにおはようございますって言ったら、会社の人もフツーにおはようございま―すって。そう、あーんなに悩んだのに、結局は演技はいらなかったのか？って、双子入れ替わり界の第一声問題、シンプルすぎて拍子抜だったけど、人生ってそういうもんと悩んだ時間も、ある意味笑い話だよ」
「あ―ここでもう少し笑いが欲しかったかな」
「でもね、結局会社では、こいつ同じ顔でも絶対違うだろ！って、何か、みんな思ってたみたいで、とっくの昔にバレてたみたいなんだよね、言ってくれればいいのに、皆ちょっと言い難かったんだってさ、でも弟の上司の一言でね、一気に空気が吹き飛んでね、一斉に皆につっこまれまくっちゃった。なんて言われたかというとね」
「きみ、なんで今日ハゲてるの？って」
「ズラつけてゆくの忘れちゃった！」
「生粋のハゲ家系で何故か弟だけがハゲてないんだよね」
「だめだね、ズラ忘れるって、もうハゲ歴チョーベテランすぎる！」
「双子の入れ替わり失敗談でした！失敗も演技のネタですね。ありがとうございました！」