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Re.激しめなミニマリスト

ゆく河の流れは絶えずして
しかももとの水にあらず _

まったく現し世というものは儚いばかり
人々は絶えることもなく行き交いながら
世俗はとめどなく移ろい近づいては離れ
それはまるで河の流れのように切が無く
水はサラサラと舞いおどり跳ね戯れては
ひとときたりとも留まることを知らない

ふと目蓋を上げてひとみを岸辺へ流せば
すみの淀みに点ていさむ泡の大小数々が
消えては浮かび割れては膨れを繰り返す
そのさまはとても切なく小さく寂しげに
そしてなんと尊く儚く琴線に触れようか

都会にのぼれば華やかな暮らしと喧騒と
高層ビルのそこかしこに建ち並ぶ無遠慮
さも永遠に生きつづけるかのように勇み
けれどもこの猛々しい摩天楼の隆盛さえ
これからもずっと在りつづける確信なぞ
果たしていったいだれが断言できるのか

店が繁盛したとてやがては枯れ衰えゆき
ずっとそれを待ちわびていたかのように
火事で焼かれた瓦礫の山も燻った積灰も
ほんの束の間も待たずして新たなる建屋
そして新たなる店々が軒を連ねて賑わう

なるほどすみがそういった具合とあらば
そこに営む人々もまたやっぱり同じこと
もしも明けの明星に死を迎えたとしても
宵の明星には命を授かることもある寂光

そんなありさまを眺め流して観ていれば
あの淀みに浮かぶ泡ぶくと何がちうのか
おもえば憂わしい記憶が以前にもあった
あれはいまから800年も前になるか _

生まれては逝く魂は、どこから来てどこへと去るのだろう。小川を仮の宿とするならば、京の都に屋敷を構える苦や楽は、やはり虚しさを拭い去れない。

例えばアサガオに小さな雫。雫は葉を滑り土へと逝くかもしれないが、残った花もまた朝日を浴びればやがて後を追うように散り逝く。逆に花が先に萎えたなら、夕の頃あいをまたずして雫もまた逝くのだろう。

その無常のしつらえは、住処と民々のそれとて同じ。そんな儚いものならば、いっそ世俗を投げ捨てて喜憂など無かったようにしてやりたい。

災いとは何もかもを浚うもの。忘れた頃もあれば、重ね続けてくることもある。今日と同じ平穏が明日もあるとはかぎらない。ひと一人、人生を全うするならば五つの災いにも遭うと云う。

先ずは大火。風が強く激しかったあの晩、遠火はみるみるうちに町並みを呑み込んだ。ある者は煙にむせ込み、またあるものは炎に焼かれる大惨事。

屋敷や家財の一切は灰と散り、先祖代々の培ったすべてが振り出しにもどされた。それはもう言葉では尽くしがたいほどの理不尽さの極み。

些細な口火にさえ易々と大火に巻かれるような京の町。こんな脆いものにすがりつき、どうにか家を建てようと馬車馬のごとく休む間もない。あぁなんてつまらないことをしているのだ。人間とは何と愚かなものだろう。

二つ目の災いはその三年後、辻風としてやってきた。町の大通りには、それはそれは大きな旋風が発ち狂い、都じゅうを練り歩く。何もかもが絡め取られ巻き上がり、容赦ない破壊という名の大掃除に抗う術などあるはずもない。

屋敷は何百メートルも跳ね散り、家財のことごとくが宙に踊った。辻風からは無事で還ることなど許されもせず、記憶も冷めやまぬあの大火事から三年越しの大復興などは呆気なく霧散と化し、すべてをさらった暴力的な風が唯一残したものといえば、絶望に塗られた人々の虚な悲哀だけだった。

こんな時は災いが続くもの。同じ年には三つ目の災難が追い討ちをかけてきた。それは肺腑をえぐるような最も酷い仕打ちである。

政治とは自分勝手なもの。京の都を捨て、福原へ遷都するという。それは権力者たちのエゴでしかなく、その無理筋なふるまいに民衆の理解などあるはずもなかった。それでも利権にあやかろうとする欲深い愚か者だけは、我先へと新天地へとなだれ込んだ。

京に残された民衆は、ただ為すすべもなく生業を失い、明日の不安にさいなまれ世相は厚い曇天に覆われていた。あの競いあうように建ち並んだ都屋敷の数々も、今や廃墟へと朽ち果て、かの雅な都もなんと無残なことか目もあてられない。

しかし新天地の生活もまた、軌道に乗る素振りすら見あたらない。移入者の領土剥奪は強引のかぎりを尽くした。先住者は生きる糧を奪われ、追い詰められた彼らは逃げ場を失ったネズミのごとく一揆を起こした。昼夜問わない無差別な修羅の世界で人々の安堵など許すはずもなく、いよいよ頂点に達した混沌も元サヤとなる京へと収まる始末でケリがつく。

出戻った京の都は果てなき廃墟と荒地が続き、もうあの華やかな面影は微塵もみあたらない。再び治めようにもその術はなく、政治は途方に暮れるありさま。その間わずかに半年あまり。なんという悪政。なんという時間と労力のムダ使い。

昔の君主は仁をもって国を治めたという。贅沢を断ち君主自らを律し倹しく暮らし、さらには民衆のカマドから煙が立たないとなれば税すら免除したほど。それに比べて今はどうだ、民を労い下々を大切にしているといえるのか。

そんな世間の混乱など、四つ目の災いはお構いなしに襲った。相次ぐ日照りや洪水は人々の苦悩を極めた。町じゅうに餓死があふれ、河原にはそれはそれはすさまじい遺体の数々。

京の都は食糧を自ら給することはない。もっぱら農民を頼り、それで自らを足していた。それが途絶えたのだからもう一大事なのだ。

困窮極まれば、代々の家宝すら平気で売りに出す始末。こんな飢饉のさなかに高価な家宝など誰が欲しがるものか。食えぬ金より食える粟とはまさにこのこと。

例えようもないこの貧しさに誰もが呆然と困りはてるしかない。誰もが身をやつすその有りさまは、特権階級ですら物乞いに堕ちぶれるほど。いや、歩きまわれるだけまだマシなのかもしれない。

うずくまりそのまま逝ってしまう光景すら、もはや日常の見慣れた出来事であり、河原に捨て放たれた餓死者の山は腐敗してゆき、もう見るに耐えがたい。

愛する家族を持つ者は親から先に逝くという。わずかな糧を子供へ託し、親は自己を犠牲にするからだ。

困窮極まるころには罰もついには咎められず。寺に忍び込み、仏像や仏具を盗んだり柱を打ち砕き、薪として売ろうとする者さえあらわれた。

これほどの罰当たりがあるだろうか。仏の善悪すら判らぬほどの断末魔に、今世に生まれた運命を誰もが嘆き恨んだ。

_ そんな大飢饉から三年が経ち、災いは最後の試練を世に与える。

地震は幾ばくか知ろうとも、この激しさは比類ない。大地は裂け水は吹き、山は崩れ川は埋まり、そして大津波が陸を襲った。

都では無事であるものなど何一つなく、地面の唸り、崩れゆく家屋の轟きはもはや雷鳴のごとく凄まじい。家の中に留まれば押しつぶされ、外に走れば地割れに呑まれる。羽をもたない人間なぞ一切の逃げ場も許されない。

世には数多くの恐怖があろうとも、地震を超えるものは見当たらない。そんな戒めを経てからこそ人々は平穏無事な幸せを噛みしめる。心を蝕む煩悩は災いによって浄められるのか。ふいにそう思うのだが、しかしどうやらそれは勘違いのようだ。

なぜなら人は悲劇をたやすく忘れるもの。そう、愚かそのものである。三歩進めば禍根は無かったかのように忘れ去り、また無意味な欲望に囚われてゆく。

_  さて800年を経てきた今はどうか
災いのミサイルはいつでも準備が万全だ
培ったものすべてを掻きむしる卑劣な爪
何もかもをリセットしてしまう冷然な牙

トリガーはいつ引かれるかと問われれば
それは煩悩の堕落が極まるころに着火し
それは平穏無事を忘れたころに放たれる

この世とはそもそもが暮らしにくいもの
ひとの命も住まう屋も儚くそして虚しい
悩みなど数えあげればキリもないだろう

例えば隣人宅が上司であったという災厄
それはまるで鷹巣のかたわらで暮らす雀
気兼ねなく喜び悲しむことすら憚らない
気まずく窮屈で苦痛の圧迫が日常を潰す

あるいはもし大金持ちが隣人だとすれば
朝も夕も見すぼらしさを常に恥じながら
世間様に気を使わざるをえない心が荒ぶ
財産があればあったで不安になる醜さに
貧しければ無いものねだりの嫉みと妬み

ひとに頼るほどに我が身が不自由となり
ひとを愛すほどにその想いに囚われ続け
世間の常識に従えば窮屈もついぞ極まり
従わねば変人として唾棄されるありさま

あぁどこへ住みどこで暮らせばよいのか
心が休まる処などどこにあるのだろうか
しかし私はいま自分の手を召しつかって
私まいま自分の足を乗りものとしている

それならばもはやこれで満足じゃないか
苦しいときは休めばよいだけなのであり
元気なときは動けば良いだけなのである
常に歩きまわれば健康を保っていられる

僻地で衣食住となれば尚更のことなのだ
山籠りがゆえに人づきあいなど無ければ
その粗末さを恥じることもないのだから
むしろ粗食がゆえに口に運ぶ全てが旨い

人生を振り返りながら素直に述べるなら
どうやらきっとそういうことなのである
これほど楽しい生きかたは他にあるのか

この世は己の心の在りかたしだいであり
だからこそ荒ぶ心に大金すら貧に等しい
ましてや欲に溺れた金持ちには解るまい

とはいえ落ちぶれた己を恥じるのも事実
世俗に囚われた窮屈さを哀れむのも事実
あれもそれもこのボロ小屋で心が癒える

それは強がりであると貴方は疑うだろう
ならば魚や鳥の営みを眺めるといいのだ
魚は水に飽きもせず森に住む鳥とて然り

しかしそれは我々などには知る由もない
私の暮らしもやはりそれと同じであって
世俗の人々にこの快適さが解る術はない

そう_わたしは激しめのミニマリスト

人生とは災難の集大成なのであるけれど
災難はいつも必ず二つの道を敷いてくる
一つは困窮の現実を乗りこえる道であり
そしてもう一つは諦めの道ということだ

歯を食いしばり勇ましく進む道もあれば
無常であるからこその諦めも或いはあり
その覚悟もまた人間に残された意外な道

さて私の人生も月が傾き山端近くになる
まもなく三途の川を渡ることになるのだ
何ごとも執着を持つなと仏は説くけれど
営みに愛着を持つことさえ御法度なのか

そんな静かな明け方に自問したところで
無常を悟った自負などたった今崩れ去る
俗世から離れたとしたり顔で語るものの
この期に及んでもまだまだ執着を拭えず

見てくれだけでもふるまおうとしたとて
心には煩悩が蔓延り一向に離れはしない
まさか貧乏極るがゆえに心まで荒んだか

800年越しの輪廻でもなお
この煩悩に始末はつけられず _

>> this way Please Ω 𒀭𒎏𒄯𒊕

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