【ラブギルティ】 始まりの物語 ~三国蓮&天知駆編~
このお話は【ラブギルティ ~恋の有罪判決~】ヒロイン(島崎 若葉)が弁護士事務所へやってくる前、三国蓮目線のお話になります。
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天知法律事務所は都内の一等地にそびえたつインテリジェンスビルにオフィスを構え、実務弁護士の他、税理士や弁理士も含めて優秀な人材を何十人と抱える一流事務所。僕は大学時代にここでアルバイトを始め、そして弁護士としてつい最近まで働いていた。今となってはすごく遠い世界のように感じられるけども。
そんなことを考えながら、無駄に美しい受付嬢に案内されて所長室へと入ると──
「こんにちは」
「おー来たな。三国」
所長の天知駆、バツイチ、子無し、ハイブランドが大好きなアラフォー所長がにこやかに出迎えてくれた。
「今日、松嶋くんは」
気になることを最初に聞いておく。
「いねえよ。今日は一日、クライアントと現場視察に行ってる」
「良かったです。天知法律事務所に来るのは構わないんですが、彼が居ると飛びついてきて、厄介なんで」
「ヒロはお前のことが大好きだもんな。まるで飼い主と駄犬みたいに」
「彼、自分の図体が平均よりかなり大き目であることを理解してないんですよね」
「それはそうと、事務所経営、うまくいってる?」
いきなり核心に迫りすぎる質問をされ、思わず苦笑いになる。
「まあ、速水くんと共同生活しながらなんで、何とかやっていけてますけど、これが普通に給料払って雇っている社員弁護士だったら、辛かったと思います」
独立した弁護士が悩む壁。それはクライアントの確保、それから雇用しているスタッフの人件費だ。
「ま、独立したてっていうのは、誰でも辛いさ。俺も最初はずっと給料ナシだったからなあ。外では後輩に昼食を奢っていたけど、自分の夕飯は立ち食いソバだったし」
ネクタイから靴下まで、すべてハイブランドで武装している天知所長にそんな過去があったとは意外だ。
「僕たちは今、極力自炊してるんですけど、速水くんの家事能力が崩壊してるんでね……。かろうして僕が作ることができる、チャーハン、焼きそば、チャーハン、焼きそば、のローテーションです」
「お前、ウチに戻ってくる気ない? 速水もセットで面倒みるからさ。そしたら、そんな苦労せずに済むぞ」
「それでは最初から独立しなければ良かった、ということになります。別に天知法律事務所の居心地が悪かったから辞めたわけではないですし」
そう答えると、天知所長は首を振った。
「アノ事なら、喜和子はもう気にしていない。直後はかなり荒れてて、お前にずいぶん当たり散らしたけどな。今では例のアレのおかげで、ずいぶん立ち直った。お前にも感謝している」
それは良かった。けれど、覆水盆に返らず。すべてが元通りというわけにはいかないだろう。
「ありがとうございます。でも、もう独立しちゃいましたからね~。けど、どうしました? 突然、そんなことを言いだすなんて」
僕の独立理由が決して仲違いやトラブルによるものではないとはいえ、一度出て行った人間がすぐに舞い戻るというのは事務所として体裁が悪いものだ。
「実は、アノ島崎先生から娘の面倒を頼まれたのよ。俺か、お前のところかで面倒みてくれないか、って」
「じゃあ、とうとうアノ島崎家の末っ子が法曹界にデビューですか」
「そう。法科大学院課程を修了後、ストレートで司法試験に受かり、司法修習を過不足なく終え、実務研修に入ることになった」
「さすがに優秀ですね。しかし、島崎先生、よく愛娘を手放して上京させますね。今頃、心配で泣いているんじゃないですか」
「ま、親心ってやつだな。どんなサラブレッドであっても、レースに出なけりゃ鍛えられんし」
「しかし、彼女、父親の事務所には入らないんですか? そうしたら、地元じゃお姫様扱いでしょうに」
「本人の希望らしいよ。親元にいると甘えるから、父親の影響が少ないところで頑張りたい、って。修習を担当した同期に聞いたら、父親に全く似ていない、とても謙虚な子らしい」
へえ。今時珍しく感心な若者だ。てっきり兄貴たちのように高級外車を乗り回し、オラオラ営業しているかと思ったのに。ならば……
「彼女、僕のところに貰えません? もちろん住み込みで」
「そう言うと思ったよ。でも、ダメ!」
天知所長は腕を交差して大きくバツ印を作ってみせた。
「ちゃんと彼女に公平に選んでもらうのがいいと思うんだよ。ウチか、お前のところか」
「頑張ります」
「ま、確実にウチを選ぶと思うけどな!」
そうはいかない。いくら島崎先生の娘とはいえ、研修生なら給与はお安くできる。だが、おそらくは使える人材……人手不足で採用難に苦しんでいる今、このチャンスは必ずモノにしてみせる……!!
END
登場人物紹介
三国蓮(みくに れん)
ヒロインが勤めることになる法律事務所の所長。事務所兼自宅の一軒家で共同生活をすることに……。穏やかそうに見えるが、なぜか法曹界での二つ名は「最終兵器」!得意ジャンルは不動産だが、相続や債務整理、刑事事件も扱う。
天知駆(あまち かける)
都内では有名な新進気鋭の法律事務所、天知法律事務所の所長。面倒見がよく自身も優秀な弁護士だが、儲け話に弱い。得意ジャンルは企業買収。
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