【ラブギルティ】 始まりの物語 ~司真澄&棚橋秀樹編~
このお話はヒロイン(島崎 若葉)が弁護士事務所へやってくる前、棚橋秀樹目線のお話になります。
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私の名前は棚橋秀樹。職業は東京地方検察庁の部長検事をしています。検事という職業は大変に責任が重く、ストレスも高い仕事ですが、その分やりがいがあります。
「棚橋部長、お呼びでしょうか」
軽いノックとさわやかな声で、部下の司真澄くんが入って来た。
「司くんか。まあ、そこに座りなさい」
「はい」
司くんは検察庁が期待する次世代エースのひとりで、とても優秀だ。
「先日の結婚詐欺裁判は見事だったね。よく有罪判決を得ることができました。警視庁のみなさんからも、ずいぶんお褒めの言葉を頂いたよ。お疲れ様」
私がねぎらうと彼はとんでもないという顔になった。
「ありがとうございます。女性の夢を踏みにじるイケメン……いや、悪党を見逃すわけにはいきません。ですが、これも棚橋部長に各方面への根回しをしていただいたおかげです。自分ひとりでは決して勝利できなかったと思います。ありがとうございました」
「いや、君が優秀だったからだよ。私は微々たる助力をしたに過ぎない」
「いえ。自分は棚橋部長の下で働けて、本当にありがたく思っています。これからもどうぞご指導をよろしくお願いします」
「……君は本当に優秀で、礼儀正しく、上司に敬意があり、部下に愛情がある非の打ち所がない検察官だ。ただ……」
「ただ、何でしょう」
「……裁判のたびにブラッディエンペラーが出てきたり、傍聴席で赤いケミカルライトが一斉に振り回されたりするのは何とかならないだろうか……」
「すみません……。俺の宿命が無関係な人たちを巻き込んでしまう……。俺が存在するだけで、封じられた魔力が目覚め加速していく。これは自分ではどうしようもないんです」
「……君のファンは何だったっけ。あーえっと……」
「ますみん王国民」
「その王国民にケミカルライトを持ち込むのをやめさせなさい。これは上司命令です」
「それはいつもお願いしています。ですが、闇夜を切り裂くように赤い光が明滅する。誰にも止められません」
「そうか。よくわかった……。私も君のその病……いや、左目の魔物とは気長に付き合うことにしよう」
「ありがとうございます。一緒に戦ってくださるんですね」
司くんは人柄もよく仕事にも誠実で勉強熱心で、本当に非の打ち所の無い若者だ。なのに、彼は決して治癒することのない重篤な病に冒されていた。
そう……中二病とかいう謎の病に。
「そうそう、本題を忘れていた。戦うといえば、若葉先生のことは知っているね?」
「知っています。ライバル検事に生きたウナギを何十匹も送り付けたとか、裁判所に棲みついていた悪霊をハイキックで追い払ったとか、いろいろな伝説がある方ですよね。ですが、東京嫌いでこちらには進出なさらないとか」
「若葉先生には3人のお子さんがいてね。うち上の2人はすでに弁護士として働き始めている。長男は先生に負けず劣らずの武闘派らしい」
「噂には聞いています。今、西日本で名前を売り歩いているゴリラだとか」
「そして、来月、いよいよその三兄弟の末っ子が東京に送り出されるらしい」
「それはつまり、我々への宣戦布告だと?」
「今年試験に合格して、実習を2年行う予定なのでまだ正弁護士ではないが、十分に警戒する必要があるだろうな」
「言ってみれば、敵が威嚇のために空母からジェット戦闘機を飛ばしてきた、という感じでしょうか。それは迎撃する必要がありますね。こちらもスクランブルしましょう」
「いや、それはまだいい。とりあえず様子を見ておいてくれ」
「では、警戒レベルに留めましょう。ですが、その末っ子がどんな屈強な戦士であれゴリラであれ、歯向かってくるなら、この俺が必ず討ち取って見せますよ」
「頼みました」
「御意」
彼はそう言って深々と頭を下げた。
ああ、司くん。
君は本当に優秀で私の自慢の部下だ。君の中二病を治すためなら、どんな努力もいとわないよ──
END
登場人物紹介
司 真澄(つかさ ますみ)
29歳。戦国時代から続く名家の出身で、幼少期から厳しいしつけを受けた。その厳しさの反動で、中二病を発症。左目に魔界の住人がいる(設定)。検察庁に王国民と呼ばれるファンを持ち、裁判では赤いサイリウムを振る決まり。検事としては見た目に反し、非常に優秀。
棚橋 秀樹(たなはし ひでき)
東京検察庁の部長検事で、司真澄の上司。独身。常に沈着冷静な仕事の鬼。司の中二病に悩んではいるが、良き理解者。天知法律事務所の天知駆とは元同級生で因縁の仲。
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