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【ガストロノミー】花咲くGarden Party Short Story

このお話は【ガストロノミー】本編のIFストーリー、小林常次郎目線のお話です。

花咲くGarden Party


僕の名前は小林常次郎。物好き探偵・江川亜蘭の助手である。今日はラセンビルのみなさんと、江川本家主催のガーデンパーティに来ている。旦那様はどこか自慢げに、アヤメさんに会場を案内していた。

「アヤメ。ここがパーティ会場だ」

「すごい……」

アヤメさんは初めて招待されたこともあって、少し緊張気味だ。

「こんなステキな園遊会、生まれて初めてです」

目を輝かせるアヤメさんに、十影さんが肩を竦める。

「そうか。だが、この先、もっとステキなパーティはあるぞ」

「十影、お前が言うな。アヤメ、ちなみにこれは園遊会ではなく、ガーデンパーティだ」

「そうなんですね」

十影さんと旦那様と、アヤメさんで話しているところに人影が現れる。

「アヤメさん、そのドレス、すごく良いね。君は色が白いから、ロイヤルブルーがよく似合うよ」

「ありがとうございます。弓彦先生が見立ててくれたおかげです」

微笑み合うふたりに、旦那様が割って入る。

「買ったのは私だが?」

すると、今度はアヤメさんのそばに別の人影が寄り添った。

「真珠のネックレスもよく似合う。アヤメは清楚なほうがいいと思っていたが、やはりピッタリだ」

「静也さんが選んでくださったおかげです」

「それも、買ったのは私だが?」

あまり相手にしてもらえない旦那様を、僕は可哀想に思った。

(うーん、なんだか旦那様の影が薄くなっている気がする。よし、ここはひとつ!)
「旦那様!」

「なんだい、小林くん」

「今日はパーティの目玉として、夕方からカップルでの借り物競争があるそうですよ」

「そうなのか。アヤメ、私と出てみないか」

「借り物競争ですか? 面白そうですね」

しかし、アヤメさんと借り物競争が出来るなんて、そんな話を皆さんが聞き逃すはずもなく――十影さんと静也さんが話に入ってきた。

「なんで亜蘭と」

「俺と出たほうが勝てるぞ」

「いやいや、帝都の借り物王と言われた、この僕がふさわしい。亜蘭、僕と交代してくれないかなあ?」

弓彦先生の言葉に、旦那様がぴくりと肩眉を上げる。

「いつ借り物王なんて言われた? 初耳だ。とにかく、私が最初に申し込んだんだから、借り物競争は私とアヤメのペアで出る」

「ちっ」

「十影、舌打ちするんじゃない」

(旦那様、頑張って、アヤメさんにいいところを見せてください!)

僕はそっと心の中でエールを送った。

※ ※ ※

そして、日が暮れ、借り物競争が始まった。旦那様とアヤメさんは箱に手を入れて、カードを引く。

「旦那様ー! アヤメさーん! 頑張ってー!」

「亜蘭ー、ひっこめー」

「もう、十影さん、それはひどいですよ」

すると、なぜか旦那様とアヤメさんは僕と十影さんのほうへ向かって走って来た。
旦那様が僕らを見て、力いっぱい叫ぶ。

「十影!!」

「なんだ」

「十字架を貸せ」

「ああ? どうして」

「いいから、貸せ!」

「ははーん。さてはお前、借り物が十字架だな? ヤなこった。絶対、貸すもんか!」

そう叫んで、十影さんは走って逃げて行った。

「あの野郎! アヤメ、ここで待っていろ。必ず、あいつから十字架を奪ってくるから!」

旦那様がその後ろを全力疾走で追いかけていく。

「待てーーーー!! 十影ーーーーー!!」

遠ざかる後ろ姿を眺めて、アヤメさんはほうとため息をついた。

「なんだか……おふたりとも楽しそうですわね」

「はあ……なんていうか、小学生のままなんです。ふたりとも」

「おう、小林。みんな、ここにいたのか」

「あ、中村さん」

警視庁きっての敏腕刑事である中村さんがひょっこりと現れた。ラセンビルの面々とも何かと関わりのある人だ。

「こういう場所は苦手なんだが、タダ飯が食えるってんで、ちょっと寄ってみたが……アヤメさん、あんた、今日はずいぶんキレイだな」

「えっ?」

「あ、いや。いつもキレイなんだが、今日はちょっと大人っぽいというか、なんというか。どっかのお姫様みてーだ」

「あ、ありがとうございます」

中村刑事の直截な言葉が、アヤメさんの琴線に響いたのか、彼女は頬を赤らめた。

「あの、中村さん、ポケットから鎖が出ていますわ」

「あ、これか。さっき、そこで拾ったんだ。十影が落としたんじゃねーかと思って、持ってきたんだ」

「それです!」

「は?」

「行きましょう!!」

アヤメさんは中村刑事の手を掴んだ。

「え、あっ、アヤメさん、ちょっと待って……」

僕は慌てて止めたけど、アヤメさんの耳には入らなかったようだ。

「中村さん、私と勝利に向かって、走ってください!」

「ワケわかんねーけど、とりあえず、わかった」

そのまま、アヤメさんに引きずられるようにして中村刑事も走り出す。旦那様と十影さんは、手を繋ぐ二人を見て大いにショックを受ける事だろう。

(ああ、旦那様……役立たずな僕を許してください……)

「でも、ま、とりあえず、シュークリーム食~べよ~」

心の中で謝ったあとは、パーティのご馳走に手を伸ばした。
僕の名前は小林常次郎。物好き探偵・江川亜蘭の助手である──


END

登場人物紹介

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少年×探偵助手 小林常次郎

探偵・江川亜蘭の助手を務める少年。年齢の割にしっかり者。

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俺様×オーナー 江川亜蘭

本業は探偵、副業は「ラセンビル」内レストランのオーナー。天衣無縫な変人で、「美食倶楽部」の主催者。アヤメの事を面白がっている。

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毒舌冷酷×牧師 緑川十影

理性的で知性派な牧師。そのため、アヤメにきつく当たる事もある。亜蘭、静也とは元同級生で、幼馴染の腐れ縁。

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クール×弁護士 大江静也

企業弁護士で仕事とお金が好きな効率主義者。仕事のストレスを美食で発散している。意外に面倒見がよく、アヤメの世話を焼く事も多い。

画像5

隠れ肉食×医者 大河原弓彦

大学病院の医師。優しく温厚な性格だが、意外にドSな一面もありアヤメを追い詰めることも。医食同源との考えから、食に造詣が深い。

画像6

硬派×刑事 中村大志

敏腕刑事で、本編では事件の謎を追う。硬派でコワモテだが、決して恐ろしい性格ではなくアヤメに対しても優しいところがある。


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