【ラブイン】涼やかな休息 Short Story
このお話は、【ラブ インテリジェンス~オフィスのスパダリ~】の番外編、
ヒロイン(春山サクラ)目線のお話になります。
1.
初秋のある日――ノードネット社の創立記念日パーティに招待された私は、会場のホテルで社長である小瀬さんの演説に耳を傾けていた。
「本日は、ノードネット社の為にお集まりいただきありがとうございます。それでは、ご来賓の皆様はしばしご歓談をお楽しみください」
シャンパンを傾けつつ、私はよく晴れた青空に目を向けた。太陽は天高くじりじりと照り付けていて、肌が焼けそうなほど暑い。
(う……今年の残暑は厳しいな。もっと、涼しい場所はないのかしら……)
私は、ふらふらとパーティ会場を後にした。
※ ※ ※
ひとまず、涼しそうな木陰のある場所に向かうと、同じ会社の先輩であり、共に働く仲間でもある高津さんにばったりと出会った。
「サクラ。どうしたんだ?」
「その……会場が暑くて。どこか涼しく過ごせる場所を探してたんです」
「なんだ、俺と同じだな」
高津さんの見せた爽やかな笑顔に、少しホッとする。
「晴れたのは良かったけど、今日はちょっと暑すぎるよな……どうせなら、ここで一緒に涼もうか」
「はい!」
高津さんの隣に座ろうとすると、彼がさっと地面にハンカチを引いてくれる。
「あ……ありがとうございます」
「そのドレス、すごく似合ってるから。汚したらもったいないと思ってさ」
「そうですか?」
「サクラの雰囲気に、よく似合ってるよ」
「ふふ、嬉しいです」
思わず微笑むと、高津さんも優しく笑いかけてくれる。そんな私たちに……太陽の光は、容赦なく照り付けた。
「ふう……それにしても、今日は本当に暑いな……」
「はい……」
高津さんは汗を拭いつつ、晴れ渡った青空を見上げる。
「木陰にいるから、少しはマシかと思ってたけど。外には変わりないからな……」
「……」
じわじわと、立ち上る熱気が全身をむしばむ。
「ダメだ……暑すぎる。……もう少し、涼しい場所を探しに行こうか」
「そう、ですね……」
私たちは太陽に追い立てられるように、木陰を後にした。そして、広いパーティ会場をふらふらと彷徨い始める。
「うーん……せめて、屋根の付いた東屋でもあるといいんだけど」
「見当たりませんね……」
パーティ会場の外れで、高津さんと共にきょろきょろと辺りを見回す。その時、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
「サクラさん、こんなところで何してるんです?」
「あ、鳴瀬さん!」
現れたのは、ノードネット社の社長・小瀬さんの社長秘書である鳴瀬景さんだ。仕事でちょっとした縁が出来て以来、よく声を掛けられる。
「そちらは会社の先輩ですか? ふたりでパーティをこっそりエスケープなんて、仲がよろしいようで」
鳴瀬さんのからかい交じりの言い方に、高津さんは肩を竦めた。
「そういうわけじゃ……ちょっと涼めるような場所を探してたんです。会場が、あまりに暑いもので」
「なるほど。ま、あそこは1番日当たりがいいですからね」
鳴瀬さんは、私と高津さんをチラチラと見比べる。
「涼める場所、ね……どうせなら、サクラさんだけを呼んで、ふたりきりで過ごしたいですが」
「ははっ。お邪魔してしまったみたいで、すみません」
「あんた、そんな事は全く思ってないって顔してますよ。……ま、いいでしょう。ついてきてください」
「……?」
そのまま、鳴瀬さんが案内してくれたのは――同じ施設内にある小さなプールだった。3人で素足になって、プールサイドに腰掛け爪先を浸す。
「はあー……涼しいです……」
思わず呟く私の隣で、高津さんは目を丸くしていた。
「鳴瀬さん。こんな所があるなんて、よく知ってましたね」
「サボれる場所を探してたら、偶然見つけたんですよ。結構、居心地いいでしょ?」
「はい! とっても気持ちいいです」
「確かに、これなら快適に過ごせますね」
「ここにいると、会場に戻りたくなくなるんですよね……そうだ。今日、パーティをほとんど抜けてたのは、ここにいる3人だけの、秘密にしましょうか」
「……ふっ、そうですね」
鳴瀬さんの言葉に、私も思わず笑みをこぼす。残暑の厳しい日差しが、少しだけ和らいだ気がした――。
END
登場人物紹介
クール×先輩×同僚 高津英輔
サクラに仕事を教えてくれる良き先輩。真面目でクールだけど、サクラを気に入っていて積極的に声を掛けてくる一面も。
意地悪×秘書×クライアント 鳴瀬景
ノードネット社の社長・小瀬の社長秘書。純粋なサクラをからかっては遊んでいる。軽薄な性格だが、過去を語りたがらないミステリアスな一面も。
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