見出し画像

【ラブギルティ】 始まりの物語 ~三国蓮&速水正和編~

このお話はヒロイン(島崎 若葉)が弁護士事務所へやってくる前、速水正和目線のお話になります。

-----------------------------------------

俺の名前は速水正和。職業は弁護士。蓮さんが所長をつとめる法律事務所ミクニで副所長として働いている……といっても所属弁護士は俺たちだけ、オフィスは住居と兼用、しかも家賃節約のために同居している。前は違ったんだけど、いろいろあって、尊敬する?蓮さんのお世話になってるというワケ。
そんな俺たちの目下の悩みは──

「速水くん。いったい、これは何ですか?」

テーブルを一瞥し、蓮さんが冷たい声で尋ねてくる。

「えっと、あの、トーストを焼いてみました」
「僕には消し炭に見えるのですが、気のせいですか?」
「ははは」
「そして、こちらの茶色い塊はなんですか?」
「オムレツです」
「そして、台所の床がベタベタのギトギトになっているのは何故ですか?」
「俺が料理したからです」

ははは。今朝は少し早めに目が覚めたから、アメリカンブレックファーストでも用意してみようと思ったのがアダになったかな? いつものバナナとヨーグルトを冷蔵庫から引きずり出してくるだけの朝食だとちょっと味気ないからさ。
そんな俺の気持ちをよそに蓮さんの目がスッと細くなる。

「速水くん。君のような男は世間で何と言われるか知っていますか?」
「何でしょう?」
「役立たず、生活能力ゼロ、明治時代の親父、顔だけが取り柄」
「一番最後は褒めてもらってます?」
「君は仕事では非常に有能なんですが、家では本当に使えないです。いえ、何もしてもらわないほうが助かるくらいです。仕事が終わったら、息だけしてもらってていいですか?」

そう、俺は幼少のころから勉強、スポーツ、恋愛、楽器演奏、カラオケなどなど何でも人並以上にこなせるほどに器用だった。唯一、料理をのぞいては。
もちろん料理ができるようになろうという気持ちはある。これからは家事を女性だけに押し付けることなく、男性も負担すべきだと考えている。だから、前向きに取り組むのだけど、才能がないというか能力が欠如しているというか、惨憺たる結果に終わってしまうのだ……。

「蓮さん、ごめんね」

とっておきの笑顔で謝ると、蓮さんはいっそう苦い顔になった。

「イケメンは笑顔でそう言えば何でも済むと思っているところが憎いです。君、年をとって容色が衰えたら、本当に苦労しますよ?」
「はははは。見た目が悪くなって皆に見捨てられても、蓮さんは俺の面倒みてくださいね。俺、ひとりじゃ生きていけないもん」
「それはそうと」

俺の情熱をこめた言葉を、蓮さんはいつも通りスルーする。

「島崎先生の娘さんがうちに来てくれるかもしれませんよ。君、Tバックパンツとかそのへんに放置しないでくださいね」
「そうなんだ、住み込みも決定してるの?」
「住み込みにする分、給料を安くしなければ、経営が成り立ちません」
「それはそうだけど、女の子なのに平気?」
「島崎先生の娘ですよ。ゴリラに決まってます。同居しても差し支えないでしょう」
「ゴリラって……」
「もう一度言います。島崎先生の娘ですよ。ゴリラじゃなければクマが来るでしょう」

確かに島崎先生も島崎先生の息子たちも全員ゴリラだ。奥様がどんな方かは知らないが、きっと島崎先生のゴリラ遺伝子には負けてしまうに違いない。

「まあ、俺は別にゴリラでもクマでもいいんだけど、家事のできる子だといいね。たまには炊き立てご飯と肉じゃがが食べたいよ」
「同感です。そうだ、君、家でもちゃんとメガネかけておいてくださいよ。でないと、君のラブビームで彼女が倒れるかもしれません」
「ラブビームって」
「君の流し目で、傍聴席の女性たちがバタバタ気絶するじゃないですか。家庭内であれをやられたら、僕が島崎先生に弁護士人生を葬られます」
「ところで、島崎先生ってそんなに怖いの? 俺、遠くから見かけたことしかないから」
「彼に失礼を働いた弁護士のところへ、馬の生首が届けられたことがあります」
「宅急便で? クール指定にしたのかな」
「まあ、実際は馬刺しだったんですけどね。とあるマフィア映画のDVDが同梱されていたので、意味合い的には生首です。相手は震え上がって、法曹界を引退しました」
「すごい。合法的脅し」
「万が一訴えられても『お歳暮を贈りました』で通せますからね。実に巧妙です」

なるほど賢い。俺も見習おう。

「肝に銘じて気を付けますよ。でも、お互いに恋におちちゃったら、ゴメンナサイ」

再びとっておきの笑顔で答えると、蓮さんはナメクジを見るような目つきになった。

「まったく……君という男は。ところで、早く床を拭いて後片付けしてください」

その子がうちに来てくれるかどうか分からないけど、面白い子だといいな。

「蓮さん、掃除機はどこだっけ?」
「僕は床を拭けと言ったんです。吸ってどうするんですか。あー、もういいです。君はそこに立って息だけしててください!」

END

登場人物紹介

画像1

速水正和(はやみ まさかず)
28歳。法律事務所ミクニのナンバーワンホスト、ではなく弁護士。
裁判の傍聴には、女性ファンが並ぶ法曹界一のモテ男。
流し目が色っぽく、セクシービームが出ているため、
誰かれオトしてしまわないよう、普段はメガネで防護している。

画像2

三国蓮(みくに れん)
ヒロインが勤めることになる法律事務所の所長。事務所兼自宅の一軒家で共同生活をすることに……。穏やかそうに見えるが、なぜか法曹界での二つ名は「最終兵器」!得意ジャンルは不動産だが、相続や債務整理、刑事事件も扱う。

☝コンテンツの詳細はこちらから☝

いいなと思ったら応援しよう!

NiNO
このサービスはみなさまのサポートのみで成り立っております。サポートしていただけたら、喜んでもっと更新いたします。