【ラブギルティ】 始まりの物語 ~杉良一郎&松嶋ヒロキ編~
このお話はヒロイン(島崎 若葉)が弁護士事務所へやってくる前、杉良一郎目線のお話になります。
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その夜、俺はお取り寄せの日高昆布を使った料理をしながら、音声でプロ野球中継を楽しんでいた。
「ただいまー。お腹すいた、ごはんは~?」
まるで高校生のような台詞とともにルームメイトである松嶋ヒロキが帰宅してきた。そう、ここは都内の一等地にあるタワーマンションの高層階。敷地内に温泉とスポーツジムを完備した、1億円越えのエグゼクティブな住まいである……のだが、残念ながら、まだ俺の稼ぎでは買うことができない。我が事務所の社宅であるため、同僚とシェアして住んでいるのだ。
「うるせえ。あとちょっとだから、待ってろ。今、若返りに効く夕食メニューを作ってるんだから」
しっしっと手で追いやったが、ヒロは構わず俺の手元を覗き込み、オネエのごとく大きな手を自分の両頬にあてる。まあ、実際オネエなんだが。
「で、献立は何?」
「大根と昆布の煮物と豚肉しょうが焼」
「うわ、おいしそ。いつもいつもおいしい和食をありがとうございます」
「おう。俺に死ぬほど感謝しろ」
「うん、死ぬほど感謝してる」
言葉だけでなく深々と頭も下げられると、悪い気はしない。最初は男ふたりでルームシェアなんてすぐ破綻すると思っていたのに、案外と長続きしているのは、ヒロのこういう性格によるところが大きいかもしれない。
「ところで、ヒロ、お前、聞いたか」
「何を?」
「明日、オフィスに新しい弁護士見習いが来るんだってよ」
「ああ、今回の試験の合格者ね。所長のことだから、また優秀なのを青田買いで引っこ抜いてきたんじゃない?」
「それがな、聞いて驚け。アノ島崎先生んところの三兄弟の末っ子だってよ」
「えーっ、アノ武闘派で有名な島崎先生の? けど、あの先生って地方住みだったわよね。東京はゴミゴミしてるから進出したくないとか言ってなかった?」
「たぶん我が子を武者修行に出したんじゃねえの?」
「そういえば、一番上の兄貴、スゴいんだってね。西日本でバリバリ悪名を売ってるらしいじゃない。そこから考えると、末っ子は格闘家だったりして」
「それが女らしいぜ」
「へえ、女の子なんだ。じゃあ女子プロレスラーみたいな感じかな。チェーンを振り回しながら出社してくるとか」
「いやいや、むしろ、超インテリ女みたいなのが来るんじゃねえ? 『女性の人権についてどう考えてるんですか!』……とか、俺らのほうが詰められたりして」
「あー、それ面倒くさそう」
「どうする?そんな女の教育担当になったら」
「絶対パス」
「俺もパスだわ。あーあ、なんかオフィス行くのが楽しみになるような豊満ボディの新人が来ないかなー」
「そーゆー期待は空しくなるから、やめといたら?」
「もしくは、イジメて楽しめるような女」
そう言って、俺は鍋の火を止める。
「よっしゃ、できあがり」
「それ、パワハラとセクハラのダブルでダメでしょ」
「違う。俺の場合、そいつが可愛くないとイジメるモチベーションが上がらないの。だから、これは愛」
「愛あるセクハラねえ。それって、単なる恋愛じゃん? 素直に恋愛したいって言えば?」
「うるせえよ。ま、とにかくちょっと楽しみだな」
「確かにね。……ところで、若返りに効くってどういうこと?」
「昆布はミネラルと食物繊維が豊富。特にヨウ素が豊富。ヨウ素は豚肉といっしょにとると吸収が高まる」
「それと若返りにどんな関係が?」
「ヨウ素が豊富だと、甲状腺ホルモンがたっぷり作られる!」
「あーそうなんだー。早く食べようかー」
END
登場人物紹介
杉良一郎(すぎ りょういちろう)
28歳。天知法律事務所所属の弁護士で、ダブルエースのひとり。
松嶋とともに都心の高級マンションに暮らしている。仕事は先手必勝、スピードのある展開と強襲が得意。一見俺様、実はオラニャン。
松嶋ヒロキ(まつしま ひろき)
天知法律事務所所属の弁護士で、ダブルエースのひとり。
「裁判はしないに越したことは無い」をモットーに示談や調停が得意。元バスケットボール選手、高身長低脂肪の肉食オネエ。
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