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【愛属ブラバ】春日局は見た~もうひとつのハロウィン編~

このお話は春日福子目線となります。

1.

私の名前は春日福子。この屋敷の平和と秩序を守っている。しかし、それは並大抵の苦労ではない。例えば───

「明日はハロウィンでございますね」

夕餉の時間。今日は陽斗さん、光斗さん、潤一郎さん、源氏が食事をするために集まっている。話を始めた私のほうを見て、陽斗さんがきょとんとした。

「そうだけど、何?」

その傍らの光斗さんは、目を輝かせる。

「もしかしてババア、お菓子くれるの?」

「は?」

「お菓子、お菓子、お菓子♪」

「お菓子、お菓子、お菓子♪」

はしゃぐおふたりに、私はぴしゃりと言い放つ。

「むしろ私にお菓子をいただきたいですね。こういう時、子どもと老人にはおもてなしをするものです」

「冷蔵庫にアイス入ってるから、あれを食べたらいいじゃん」

「廉貞さんのだけどねー」

「菓子はない……そういうことですか」

再度確かめるものの、陽斗さんは不遜な表情を浮かべ、光斗さんは軽薄な態度を取るばかりだ。

「だから、俺らにくれよ」

「でないとイタズラしちゃうぞ~」

そんなやり取りの合間に、源氏がおずおずと口を挟んだ。

@イブキ
「あの、おふたりともそのへんにしておいたほうが……」

「僕はお菓子持ってるよ」

潤一郎さんがすっと箱を畳に滑らせる。

「秋のお菓子といえば、芋羊羹でしょ。どうぞ」

「ありがとうございます。好物です」

「イブキちゃんにも買ってあるから、あとであげるね」

「ありがとうございます」

「というわけで、本日の夕食はハロウィンにちなんだカボチャづくしでございます」

御膳の上のメニューを皆さんに示す。

「カボチャの煮付、カボチャのコロッケ、カボチャのスープ。カボチャとサツマイモのサラダ、カボチャとチキンのグラタンです」

「わ、ホントだ。美味しそう……」

源氏の呟きに被せるように、陽斗さんが声を上げた。

「おい、ババア、ふざけんな」

「夕食が全部カボチャって、もはや嫌がらせじゃん」

肩を落とす光斗さんに、潤一郎さんが同調する。

「せめて一品は違うものにしてよ……」

「でも、味付けはいろいろ変えてありますし、カボチャはおいしいじゃないですか」

源氏の意見に、陽斗さんは鼻を鳴らした。

「そりゃ、女は甘いおかずが好きだろうけど」

「こんな糖質だらけの食事、アイドルには不向き」

「お肉食べたい」

潤一郎さんの独り言じみた呟きに、私は首を振った。

「今夜は他にお食事はございません。というわけで失礼いたします」

「おい、ババア、待てよ。逃げんのかよ」

「春日さんが言い返してこないなんて珍しいね。今夜は雪が降るんじゃない?」

相変わらず失礼な陽斗さん、光斗さんを潤一郎さんがいさめる。

「まあまあ。体調が悪いのかもしれないよ」

「みなさん、そのへんでやめておいたほうが」

「失礼いたします」

一礼する私の周囲で、陽斗さんと光斗さん、潤一郎さんがわいわい騒ぐ。

「なんだ、拍子抜けだな」

「まさか、あとで何か企んでないよね?」

「ホントに体調悪いんじゃないの? お年寄りは秋に体調が悪くなるっていうから」

「みなさん、お願いですから、もうやめてください……」

源氏の声を最後に聞きながら、私は障子を閉め、その場を後にした。
そして、その日の夜中、皆さんが寝静まった頃――

「……草灯。そこにいますか?」

「はい」

廊下の隅から、幼少の頃より源氏の側仕えである青年、草灯が現れた。

「潤一郎様から芋羊羹一箱を頂きました。源氏からはすでにチョコレートボックスを頂いています。しかし、陽斗様と光斗様は何も持っておりませんでした」

「予想通りですね」

「今夜、決行しますよ」

「……やるんですか……アレを……」

「ええ」

頷くと、草灯は表情を曇らせる。

「……アレだけはやりたくなかった……」

「これが七家のしきたりです。おやりなさい」

「……わかりました……」


※ ※ ※

翌日の朝。屋敷の縁側にて――

@廉貞
「おはよう。……ところで、お前ら、何をやってるんだ?」

@陽斗
「うえっ、廉貞さん!?」

@光斗
「なんでこんな早朝に!?」

「俺は毎朝、庭で軽いストレッチをしているんだが、どうした? なぜふたり揃って布団を干そうとしている?」

「や、いや、こ、これは」

「ちょっと布団が濡れちゃったかな、て……」

「お前ら、大学生にもなってオネショか!」

「違うって! なぜか朝になったら敷き布団が濡れてただけだから!」

「まだオネショが治っていないとはな……」

「ちょ、やめて! 本当に!」


少し離れた場所から、御三方の会話を盗み見る。朝方、ふたりの布団が濡れるように細工したのは草灯だ。ハロウィンには使用人にお菓子を配る……このしきたりを守れない者は制裁が下される。これは鉄の掟、私も辛いが実行するしかない。

全ては、この家の秩序を守るために───


END

登場人物紹介

画像1

遣り手×使用人 春日福子

退魔の力を持つ選ばれし種族、芒種より選ばれたエリート的存在・七星と七星のために生きる源氏の住まう屋敷で使用人をしている。その発言権は強く、例え芒種でも逆らえない。

画像2

黒王子×双子アイドル(兄) 一条陽斗

名家、一条家の出身である芒種であり<七星>の一員。大学生兼アイドルで、双子の弟・光斗とユニットを組む。傍若無人な俺様タイプ。

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裏アリ王子×双子アイドル(弟) 北大路光斗

元々一条家の生まれだが、跡継ぎに恵まれなかった北大路家に養子に入った。一見明るく振る舞うが、イブキを妖しく翻弄する一面も。

画像4

隠れ肉食×人気小説家 久世潤一郎

財閥として名を馳せる名門・久世家の出身である芒種。優しく穏やかな性格だが、人格についてとある秘密を抱えている。

画像5

幼馴染×忠実な僕 水尾草灯

幼い頃からイブキのそばに仕える青年。その忠義心は七家でも芒種でもなく、イブキ本人にのみ注がれている。

画像6

クール×刑事 近衛廉貞

芒種であり、捜査一課に務める優秀な刑事。イブキに対しては優しい一面を見せる事もある。

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