NINNO ACCADEMIA コミュニティ オンライントークイベント 〜イノベーションを創発するコミュニティの可能性とは〜
新潟でイノベーションに関心をもつあらゆる人に開かれた施設「NINNO3(ニーノスリー)」を拠点とする教育プログラム「NINNO ACCADEMIA」。デジタル、DX、デザインなどをテーマにした連続講座や、技術を学べるスポットイベント等、多様なプログラムを提供しています。社会人・学生などあらゆる人がスキリング、リスキリング、リカレントなどさまざまな目的で集い、学びを深めています。
また、そのプログラムやスポットイベントにご参加いただいた方同士が、プログラム・イベント以外の場でも学びあい、交流するために「コミュニティ」を運営しています。
今回はそんな「NINNO ACCADEMIAコミュニティ」をテーマに、コミュニティオーナーであるBSNアイネット坂田源彦さんとコミュニティ運営の伴走支援を担当するDERTAメンバーでトークイベントを行いました。
個の想いを加速させる、コミュニティの力
齋藤:まず、NINNO ACCADEMIAコミュニティのコミュニティオーナーである坂田さんに、NINNO ACCADEMIAにコミュニティが必要だと感じた背景や、ご自身が所属していたコミュニティでの体験についてお聞きしてもよろしいですか?
坂田:自分自身がコミュニティの必要性を感じた原体験としては、新潟へのIターン時の経験があげられます。子どもが生まれたことを機に妻の実家がある新潟へIターンしたのですが、私自身の実家は横浜にあるので、新潟には親戚・友人などの頼れる存在が誰もいませんでした。そのため、共通のテーマを持った方たちと繋がりたい、誰かに相談したい、と思ったのが私がコミュニティに関わろうと思った最初のきっかけです。
その際参加したのが、十日町市・津南町で開催される世界最大規模の国際芸術祭「大地の芸術祭」のボランティア団体「こへび隊」でした。このコミュニティでは、全国各地からさまざまな世代、さまざまなバックグラウンドの方々が集まり、芸術祭を通じた地域づくりの担い手として祭りを支える多様な活動を行っています。その活動の中で、共通の志や興味を軸に、世代・ジャンル・地域などの垣根を超えて交流が生まれる環境というものに強く惹かれ、コミュニティ活動にのめり込んでいきました。
自分自身、コミュニティに対してこのような成功体験を持っていたため、NINNO ACCADEMIAの取り組みをはじめるときに、ここに集った方々が「新しいことにチャレンジしたい」「学びたい」と思ったとき、その気持ちを加速させるにはコミュニティの存在が必要だろうなと感じていて。そんなときコミュニティづくりを専門にされているDERTAさんと出会い、考え方等も非常に親和性が高いなと感じましたので、NINNO ACCADEMIAコミュニティの運営にご協力いただけないかとお声がけをさせていただきました。
坂井:坂田さんの話を聞いていて、すごく優しい方だなと改めて思いました。というのも、学びの文脈だと「学んでこなかったあなたがよくない」というように「学びは自己責任」という話になりがちだと思います。ですが、個人的にはそうではないと元々思っていました。
仕事で自分の価値を発揮できるかどうかや成果を出せるかどうか、あるいは学び続けられるかどうかは、環境によって大きく変わると感じています。坂田さんもおっしゃったように、何かを学ぼうと思ったときにその仲間を見つけられる、一緒に学び合えるような環境があった方がいい。アカデミアで行っているリスキリングのような、自分のスキルを高めていく動きの中ではすごく大事ですし、そこでできた仲間は今後も相談し合うような仲になると思います。坂田さんはそんな環境を大事にされてる方なんだなと、最初にお会いした時からそう感じています。
坂田:学ぶ環境としてのコミュニティの必要性は実感しますね。そう感じるのはおそらく父が転勤族で、自分自身もが幼少期から住む地域を転々としてきたからかもしれません。そのため、小学校1年生から6年生までずっと同じ同級生と過ごし、その後も全員で同じ地区の中学校に進学...といった深いつながりを持つコミュニティの中で過ごしている友人たちをとても羨ましく感じていました。自分自身、人より出会いと別れを多く経験してきたからこそ、コミュニティへの魅力を強く感じてしまうのかもしれません。
現代社会における、コミュニティの必要性
齋藤:コミュニティが注目されている背景や、DERTAがなぜコミュニティづくりに取り組んでいるのかお伺いしてもよろしいですか。
坂井:コミュニティが注目される背景については、資本主義をはじめとする社会の仕組みが機能不全になっていく中で、至るところで“最適化”の流れとして生まれている、という点があると思います。
その前提として「メディアの多様化」があります。
SNSの普及によって個人レベルで情報発信や意見の収集ができるようになり、人々の趣味嗜好、ライフスタイルが細分化され、多様化が進みました。さらに時代が進んで、人々が異なる情報源から情報を仕入れるようになると、ひとりひとりが持つ前提が変わります。これがコミュニケーションの分断を引き起こしていると感じます。コロナ渦によって物理的な接触ができなくなってしまった期間があったことで、さらにその勢いが加速したと感じています。
こうしたコミュニケーションの問題を解消するために、コミュニティに注目が集まっていると考えています。
人間は協力し合うことで発展してきた生き物なので、「認識が揃わないから協力できない」という状況は良くない。その結果、至るところで「集まった方がいいのでは?」という動きが徐々に増え、どのような関係性を作ったら自分の生活や社会がもっと良くなるのか、という観点で動いている方が意識的にも、無意識的にも増えているのではと感じています。
齋藤:そのような背景がある中で、DERTAやNINNO ACCADEMIAコミュニティは、どのようなビジョンのもと運営されているのでしょうか?
坂井:NINNO ACCADEMIAでは、地域に対する想いを持った人たちが「学び」をキーワードに集まり、集まった人たち同士が学び合いの中で関係を深める。やがてその人と人との繋がりから何か新しい一歩やイノベーションが生まれる、といったビジョンを掲げていると思います。実はほとんどDERTA Communityが考えているものと一緒だなと思っていて。DERTAは元々、そういった仕組みをコミュニティの中で作っていけたらいいなと思って始めたんです。拠点や学びのテーマ、集う方々は違いますが、NINNO ACCADEMIAとDERTA Communityはやっていることは実質同じなのかなと思っています。
山之内:確かに、ビジョンなどがすごく似ていて親和性が高い気がしますね。私も坂田さんとコミュニケーションを取る中でそう感じました。
坂田:NINNO ACCADEMIAでは「イノベーションは『人と人との出会い』から生まれる」という言葉をビジョンに掲げているのですが、この言葉は、NINNOに集う企業同士の関係性からピンときて生まれたもので。NINNOには現在50社近くの企業が所属していて、所属企業間でさまざまなコラボレーションが生まれていますが、そのきっかけはいつも、魅力的な人同士の出会いであると感じています。いずれの事業も、「この人と話していて楽しいから一緒に仕事がしたい」や「この人と組んだら解決できそう」など、人とのコミュニケーションから話が生まれることが多く、イノベーションは人と人との出会いがなければ起きないものだと日々実感しています。
NINNO ACCADEMIAコミュニティの現在の様子、苦労したスタート時の設計
齋藤:そんなビジョンの元運営されているNINNO ACCADEMIAコミュニティですが、現在どのような活動が行われているのでしょうか?
山之内:NINNO ACCADEMIA コミュニティは、コミュニティの中で出会った人同士が触発されてイノベーションを生み出せる環境を作っていきたいという考えをもとに運営されています。
コミュニティの活動主体はオンラインのボイス・テキストチャットツール「Discord」での情報交換・交流なのですが、そのDiscordに参加してくださっているコミュニティメンバーの数は、65名ほど。(2024年9月現在)
お役立ち情報やイベント情報などの共有や日々のコミュニケーションに加えて、メインコンテンツとして、Discordのステージ機能を使ってメンバーを紹介する「コミュニティラジオ」を定期的に開催しています。コミュニティ内のメンバーをゲストに招き、コミュニティマネージャーがメンバーのパーソナリティを深掘りする企画です。コミュニティマネージャーがメンバーと仲良くなる、コミュニティメンバーの皆さんが関わりのなかったメンバーのことを知るなどのきっかけになったらいいなと、立ち上げ時から継続して実施しています。
※コミュニティラジオのレポートはこちら
また、昨年度までは、NINNO ACCADEMIAのプログラムの発表時・終了時など、節目のタイミングでオフラインのイベントも開催していました。
前段で坂田さんや坂井さんもおっしゃっていたように、何かが生まれるためにはカジュアルなコミュニケーションを取ることができる環境を作ることも結構重要だと思っています。現状では、メンバーが関わりのあるイベントや仕事をするにあたっての情報を共有する場になっていると思うのですが、今後はもっとカジュアルな話もできるような雰囲気作りをしていこうと考えています。
齋藤:NINNO ACCADEMIA コミュニティは、作る前の準備段階で定義づけなどを実はかなり綿密に考えましたね。準備段階では具体的にどういうことに取り組んだのか具体的にお聞きしてもよろしいですか。
山之内:コミュニティっていろんな形があって、定義がすごく広いんです。自治体が運営しているような、公共性が高く人数も多いコミュニティもあれば、仲間内だけで集まるものもコミュニティと言えます。様々なコミュニティがある中で、NINNO ACCADEMIAはどうあるべきなのかを考えました。どんな人に参加してほしいのか、ビジョン、活動内容など、しっかり定義するために、コミュニティキャンバス*1というツールを使って設計しました。30以上の細かい観点からコミュニティの枠組みを考える必要があったため、運営メンバーで何度も話し合いを重ねましたよね。2時間のミーティングを3.4回ほどは行ったでしょうか。そうすることで運営内で目指すべきコミュニティ像の共通認識を持つことができました。
1* コミュニティの現状や課題、目標を可視化し、構造化するためのフレームワーク。コミュニティデザインのプロセスにおいて、関係者全員が同じ視点でコミュニティを捉え、共通理解を形成するための有効なツール。これにより、より効果的なコミュニティデザインの実践が可能となる。
坂田:コミュニティのイメージはふわっとしがちなものなので、体系的に作ることができることをDERTAさんに教えてもらったのは非常にありがたかったです。
まだ存在していないコミュニティに対して空想力を生かしながら議論するのは難しかったですが、キャンバスが完成してみると、人に見てもらいたくなるようなものになって達成感がありました。コミュニティって何のためにやるんだろう、とふと疑問に思うタイミングって必ずあると思うのですが、コミュニティの目的や意義を言語化できた良い機会になりました。
齋藤:このコミュニティキャンバスや、キャンバスをもとに作成したコミュニティのハンドブックは1度作って終わりではなく、メンバーの増加や、運営する中で感じた気づきや課題によって、その都度アップデートしていくことが重要です。NINNO ACCADEMIAでは、新しいプログラムが始まるタイミングで毎回更新する予定です。
新たな役割やオフライン作業会の実施など...未来への展望
齋藤:このNINNO ACCADEMIAコミュニティはまだまだ運営を続けていくのだと思いますが、これからやりたいと思っていることや展望などはございますか?
山之内:コミュニティが目指す雰囲気や在り方はたくさん考えましたが、それがコミュニティメンバーに伝わり切れているのか不安に思う気持ちを個人的には少し抱いています。
喜んでもらえるコミュニティになるために、メンバーの声を反映していきたいと思っているので、今後はコミュニティマネージャーとともにコミュニティの運営に携わってくれる「コミュニケーター」のような役割をメンバーの中から選出したいと考えています。運営に近い役割を持つ人を立てることで、その他のメンバーの声を拾いやすくなり、コミュニティでやりたいことが実現できる雰囲気を醸成できるのではないかと考えています。
※コミュニケーターについてはこちら
また、昨年度はオフラインで会う機会が少なかったので「オフラインの作業会」を定期的に開催することを計画しています。実は、NINNO ACCADEMIAコミュニティのメンバーになると、プログラムの前後の時間に、NINNOのコワーキングスペースを使用できる特典があるんです。その特権を有効活用するためにも、コミュニティメンバーと交流するためにも、気軽なコミュニケーションを取れる場として、オフライン作業会を実現したいと考えています。
齋藤:仕事の話だけではなくて、やりたいと思っていることを気軽に話せる雑談会はぜひ開催したいです。参加者からのコメントで、「コミュニティにあまり参加できてないメンバーや新しく加入したメンバーでもコミュニティに参加しやすい動線が確保できるといいと思います」との声が届いているので、ぜひ実現させていきたいと思います。NINNO ACCADEMIA コミュニティもどんどんアップデートしていきましょう!
坂田:NINNO ACCADEMIAには新潟県内だけではなく首都圏からも学びに来る方々がいらっしゃいます。せっかくNINNOというリアルな場所に多くの人が集まる貴重な機会なので、新潟県内に人の繋がりが少ない方でも参加しやすいネットワークが作れるといいのかなと思ってます。敷居を超えた話がしやすい雰囲気を、オンラインでもオフラインでも整えていきたいですね。