虫達の罪と罰、そして輪廻転生への願い、はてなき鎮魂歌
仕事が終わって家路に着くと必ず家の前に沢山の虫がおり、ドアを開けた瞬間にみんな一緒に入ってこようとする。
住んでるマンションは戸が横に並んでいて、どの家の前にも同じように蛍光灯がついている。
ただ不思議なのは、虫が多数集まってるいるのはうちの前だけなのである。
そしてこれは今住んでるいるマンションだけに限った話では無い、昔住んでたマンションやアパート等でも、帰宅すると必ず虫達がスタンバイしていた。
勿論、私の家の前だけ草がはえてるとか、お菓子が落ちているとかは無い。
家族がもう既に家の中に揃っていて、これから帰宅者がいないであろう家の前には、不思議とスタンバイしている虫はいない。
どう考えても帰宅時間を把握しているとしか思えないのである。
しかし虫達に帰宅時間を把握出来るのだろうか。出来るはず無いだろう。
いや、奴らはもしや虫ではないのか!?もしかしたら中身は人間、、、そう考えると辻褄が合う事ばかりである。
そこで1つの仮説を立ててみる。
虫は2種類のタイプがいる。1つは元から虫。思考は無い。ただ生きて食べて繁殖するだけ。
もう1つは元人間。罪を犯し、虫に転生した人間。しかも人間の時の記憶も持った元人間。一度虫に転生すると、その後は何度も何度も虫の人生を生きる事になる。彼らは人間に戻りたい。でも戻れない。醜い身体を捩らせながら、元人間の虫達は涙の出ない眼で泣いているのだ。
そんな時、ある噂が流れる。
『虫が住むのは外の世界。人間が住むのは家の中の世界。ただ、帰宅した人間と一緒に家の中に入る事が出来たら、次の人生は人間に戻る事が出来る』
それを聞いた元人間の虫達は生きる事に希望を持ち始める。そして各戸を調査し、住人の帰宅時間を調べる。時には仲間たちと情報を共有することもある。そして各々調べた結果の時間に家の前にスタンバイするのである。
期待に心を弾ませながら、来世を夢見ながら。
今日もそんな奴らが家の前で私を待っている。
しかし私は決して奴らを家には入れない。私に慈悲の心は無いのだ。
そして、残念ながら虫たちの間に流れる噂はガセネタなのである。無慈悲な世界。畜生道はそんなに甘い世界ではないのだ。