不妊治療の保険適用がはじまる!
不妊治療の保険適用について
2022年4月から、不妊治療の一部に保険診療が適用されます。
不妊治療の保険適用について、2022年2月9日に開催された第516回 中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)の資料をもとにまとめてみました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00139.html
不妊治療の保険診療では、年齢や回数に制限があります。保険診療制度について理解するためのご参考にしていただけると嬉しいです。
不妊治療の費用について
不妊治療には「一般不妊治療」と「特定不妊治療」の2種類があります。
タイミング療法や人工授精に代表される一般不妊治療では、すでに健康保険が適用されている項目もあります。
一方、特定不妊治療は体外受精・顕微授精を用いた治療のことで、2022年3月現在は保険適用外の自費診療となっています。
自費診療の項目は、病院ごとに、また検査の種類によって費用が異なります。例えば、人工授精の費用であれば1回あたり3万円前後が一般的。
体外受精になると、1回の費用は平均50万〜100万円ほどかかります。1回あたりの費用に幅があるのは、どんな治療オプションを選択するかによって費用が変動するためです。
4月から保険適用となる主な不妊治療
まずは2022年4月以降に保険適用となる不妊治療の項目をご紹介したいと思います。保険適用後の自己負担額については、それぞれ細かな条件等が定められている場合がありますので、必ずクリニックにてご確認ください。
人工授精
保険適用後の3割負担額:5,460円(管理費等別途)
人工授精は、良好な精子を子宮内へ直接注入する方法です。あらかじめ採取した精液を細いチューブを使って子宮内に流し込みます。
人工授精で用いる精液は、採取後、専用の機器で洗浄・選別されます。活発で、より受精しやすいと思われる精子を選ぶことで着床率の向上を目指します。
精子が自ら卵子に侵入しなければ受精には至らないため、人工授精であっても受精率は100%ではありません。
人工授精での妊娠率は1回あたり5〜10%となっています。3〜5回ほど治療を受けて妊娠に至る方が多いとされていますが、治療回数が4〜5回を超えると妊娠率はぐっと下がります。
半年ほど人工授精を続けても成功しなければ、体外受精へのステップアップを検討すべきとされているのはそのためです。
人工授精では、子宮に精子を注入したあとは自然妊娠と同じ過程をたどります。身体的な負担もさほど大きくないため、多くのカップルが人工授精から治療を開始します。
体外受精
保険適用後の3割負担額:12,600円~(管理費等別途)
体外受精は、排卵近くまで発育した卵子を体外へ取り出し、精子と引き合わせて受精させる手法です。受精卵は一定期間の培養後、女性の子宮内へ戻されます。
体外受精は人工授精の次のステップに位置付けられており、男女のどちらか、もしくは両方で受精の過程に問題があり、女性の体内で受精することが困難な場合に選択されます。人工授精に比べると費用が高額になります。
体外受精では、シャーレ上で卵子と精子を引き合わせます。精子が自ら卵子に侵入することで受精が起こるため、運動性の高い精子が必要となります。
どうしても受精が難しい場合には、「顕微授精」を行います。顕微授精については、次の項目で詳しくお話していきます。
なお、体外受精全般の妊娠率は約20〜40%程度。ただし、妊娠率は年齢を重ねるにつれ低下することが分かっており、43歳以降の妊娠率は15%前後とされています。
顕微授精
顕微授精は体外受精の方法の1つです。
顕微鏡下で、細い管を使って精子を卵子の中に注入することで、精子と卵子を確実に授精させます。
ただし受精後に受精卵が育つかどうかは、また別の問題です。そのため顕微授精は、受精ではなく「授精」という表記が用いられます。
顕微授精が用いられるのは、通常の体外受精では受精が難しい場合です。たとえば以下のようなケースが該当します。
精子の活動性が低いとき
精子の数が少ないとき
卵子の状態によって体外受精では受精が難しいと思われるとき
顕微授精の受精率は平均50〜70%とされています。
採卵
保険適用後の3割負担額:1個7,200円~(管理費等別途)
採卵は体外受精を行うために、卵巣から卵子を回収するための施術のことです。採卵針とよばれる器具を膣内に挿入して卵子をとりだします。
採卵の前には2種類の薬を使用することが一般的です
1つ目は卵子を育てる薬。
卵巣を刺激して、卵子の生成を活発化させます。お薬によって内服または注射のいずれかの方法で投与されます。作用や副作用の強さもお薬によって異なります。
2つ目は排卵を促す薬です。
こちらも、注射や点鼻などお薬ごとに投与方法が変わります。
処置時間は15分前後になる場合が多いとのことですが、麻酔を使用する場合などは処置後2時間程度の安静時間が必要になるでしょう。入院は不要であることが多いようです。激しい運動をしなければ通常通りに生活しても問題ありませんが、排卵誘発剤で卵巣に過剰な刺激が起きた結果、重篤な合併症を来す場合が少なからずあるため、体調に変化がある場合は医師の判断を仰ぐ必要があります。
胚培養
保険適用後の3割負担額:初期胚1個13,500円~、胚盤胞1個+4,500円~(管理費等別途)
採卵後、体外受精が完了した受精卵は「インキュベーター」という母胎内の環境を再現できる機械のなかで、移植に適した状態まで成長させます。このプロセスのことを胚培養とよびます。
温度やガス濃度を適切に管理することで子宮内に近い環境を作り出し、2〜5日程度培養を行い、胚の成長をみまもります。
胚移植
保険適用後の3割負担額:新鮮胚移植22,500円、凍結融解胚移植36,000円(管理費等別途)
胚移植は、体外受精させた卵子を女性の子宮内に戻すことです。子宮内に戻した受精卵(胚)が無事に成長すると、妊娠・出産につながります。
胚移植は体外受精に欠かせないステップであるため、ひとまとめに「体外受精・胚移植法」と呼ばれることもあります。
採卵、受精後から数日間培養した胚をそのまま移植する新鮮胚移植、また培養した受精卵を一旦凍結することで移植のタイミングを調整する凍結融解胚移植という方法があります。
さらに、受精後2〜3日培養した状態の胚(分割胚)を移植することを初期胚移植、5〜6日培養した状態の胚(胚盤胞)を移植することを胚盤胞移植といいます。
なお、一度に移植できる胚の数は原則1個、多くても2個が限度とされています。
不妊治療では、お一人おひとりの年齢や治療歴に合わせてさまざまな選択肢が提供されます。それぞれにメリット・デメリットがあるので、治療方針については担当医とよく相談することが大切です。
胚凍結保存
保険適用後の3割負担額:1個15,000円~(管理費等別途)
凍結融解胚移植を行うために、成長した受精卵(胚)を凍結保存する手法です。
1つの月経周期の中で胚を着床させられる期間は限られているため、胚が順調に育った場合でも、移植は最適なタイミングがくるまで待たなければなりません。そこで有効なのが胚の凍結保存です。
また、一度の採卵で複数の胚が得られた場合も、同時に複数の胚を移植することはせず、凍結して保存される場合が多いです。
凍結した受精卵(胚)は、着床に適したタイミングで解凍し子宮内へと移植されます。
なお、採卵、培養した胚はそのまま移植するよりも、一度凍結してから移植したほうが着床の可能性が高くなるという報告があります。ご自身にあった移植方法について、担当医とよく相談してみてくださいね。
どんな治療法にも言えることですが、胚凍結保存にも一定のリスクはあります。凍結・融解時に受精卵が損傷してしまうといった可能性もまったく無いとは言えない点を理解しておきましょう(5-10%程度以下)。
男性不妊(精巣内精子採取)
保険適用後の3割負担額:37,200円、顕微鏡を用いた施術は73,800円
精巣内精子採取は、精巣内から直接精子を採取する方法です。
通常の人工授精や体外受精では、精子は射精した精液から採取されますが、無精子症などにより、精液に精子が含まれない場合には精巣内精子採取が行われます。
少量でも精子が作られている場合は、精巣内精子採取によって精子を取り出せる可能性があります。
精巣内精子採取では、陰嚢〜精巣の切開手術によって精子を取り出します。処置時間は30分〜1時間程度で、多くの場合入院は必要ありません。
不妊治療:保険適用の条件とは?
不妊治療で保険診療が適用されるのは、さまざまな理由から不妊治療以外では妊娠できる可能性がきわめて低いと考えられるご夫婦、または事実婚カップルです。
体外受精や顕微授精は開始時の女性の年齢が43歳未満の場合に限り適用、また治療回数には最大6回までという制限があります。
子供1人につき最大6回まで
女性が40~43歳の場合は子供1人につき最大3回まで
ただし、施行当初は医療機関側の準備が整っていないことが想定されるため、令和4年4月2日から同年9月30日までの間にお誕生日を迎えるかたが同期間中に治療を開始する場合には、年齢制限・回数制限について経過措置が適用されるとこちらの資料で解説されています!
https://www.mhlw.go.jp/content/000913267.pdf
まとめ:不妊治療の保険適用について
不妊治療の保険適用は、これまで経済的な理由から治療をあきらめていたご夫婦にとって、もう一度不妊治療について考えてみようと思いなおす機会になるかもしれません。
保険診療になり、より多くの人が不妊治療のことを知ってくれれば、きっと不妊治療への理解も深まっていくはずです。
若い方にとっても、ライフプランや妊娠・出産に関する選択肢について考えるきっかけになってくれるでしょう。
患者さんの選択肢が狭まったり、利便性が損なわれたりすることがない形で、スムーズに保険診療への移行が行われることを期待しています。
不妊治療はとても繊細で、患者さんお一人おひとりの状態に合わせてさまざまなオプションが必要となります。今回の改正では保険診療とならなかった治療オプションもたくさんあります。
保険診療の項目とあわせて自費診療を利用したい場合はどうすれば良いのか?といった点も、気になっている方が多いと思うので、別の機会にまとめてみたいと思います。
ちなみに、アイジェノミクスのERA検査、EMMA&ALICE検査は、保険診療とも併用できる先進医療に認定されています!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
不明点・ご質問のある方は、この記事のコメント欄やウェブサイトまたはフェイスブック、ツイッター等各種SNSよりお気軽にお声がけくださいませ。アメブロでは、よくある質問などにもお答えしています。
監修
池田 真理子 先生
藤田医科大学病院 臨床遺伝科 准教授
藤田医科大学病院 臨床遺伝科科長 病院准教授|人類遺伝学会臨床遺伝専門医・指導医・評議員|日本小児科学会専門医・指導医|日本小児神経学会専門医・評議員|日本遺伝カウンセリング学会・評議員|身体障害者指定医|産科医療補償制度診断協力医|小児科学会認定 出生前コンサルタント小児科医