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着床前診断の種類と目的、注意点

着床前診断について 

着床前診断は、体外受精などの高度不妊治療において、妊娠・出産率を向上するために用いられる手法の一つです。体外受精で得られた受精卵を胚まで育て、染色体や遺伝子の情報を調べます。 

着床前診断の名称で広く知られていますが、正式には「着床前遺伝学的検査(PGT)」といいます。正式名称は少し長いので、ここでは着床前診断という言葉を使用したいと思います。 

着床前診断は、体外受精で用いられる胚の検査の総称です。着床前診断には、三つの検査があります。まずは、その三つの検査について詳しく見ていきましょう。 

着床前診断の種類と目的 

着床前診断には三つの検査があります。 
体外受精にトライしてみたのになかなか妊娠できない、流産を繰り返している、または家系に重い遺伝病の方がいらっしゃる、といった場合には大学病院や不妊クリニックなどで遺伝カウンセリングを受け、適切な情報提供を受けられると良いでしょう。 

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査) 

胚の染色体数を確認する検査です。大多数の人では46本ある染色体が、それよりも多かったり少なかったりする場合、その胚は着床することができなかったり、出産まで成長を続けられずに流産してしまう可能性が高くなります。 

着床不全または反復流産の既往があるご夫婦を対象に、妊娠率の向上と流産の予防を目的として、胚移植前に胚の染色体数を確認するのがPGT-A検査です。 

PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)

 PGT-A同様、妊娠率の向上と流産の予防を目的として胚移植前に実施される検査です。PGT-SRでは、染色体の構造を確認します。 

流産しやすい染色体をもつ胚ができやすい(相互転座などの均衡型染色体構造異常がある)ご夫婦を対象として、胚移植前に胚の染色体構造を確認するのがPGT-SR検査です。 

PGT-M(着床前単一遺伝子疾患検査) 

重篤な遺伝性疾患にかかわる遺伝子変異がお子さんに引き継がれてしまう可能性を減らすことを目的とした検査です。 

特定の遺伝性疾患が次世代で罹患児として受け継がれることがわかっているご夫婦のみを対象とし、胚移植の前にPGT-Mを行います。 

着床前診断の費用 

先述のとおり、着床前診断によって妊娠率を向上し、流産のリスクを抑えることができれば、患者さんの身体的・精神的ストレスの軽減につながります。また、お子さんを持つことに不安を感じているご夫婦にとっては選択の幅が広がるというメリットがあります。 

ただし、2022年5月の現時点において日本国内では、特別臨床研究の一環としてしか着床前診断の実施が認められていません。承認を受けたクリニックにて、条件を満たした方に限り参加することができます。参加の可否については、担当医にご相談ください。 

また、着床前診断は現時点では保険診療の対象となっていません。着床前診断の費用は検査の種類や、いくつの胚を検査するかによっても変わりますが、PGT-AやPGT-SRでは胚一つあたりの検査費用が10万円前後かかる場合が多くなっています。 

一方、PGT-Mは症例ごとに必要な検査手順が変わるため、費用も確認が必要です。 

着床前診断の注意点 

着床前診断では胚から細胞を取り出し染色体や遺伝子の情報を解析しますので、検査にあたっては生検に耐えることができる、状態の良い胚盤胞が必要です。検査の結果、移植に適した胚が見つかるとは限りません。 

すべての細胞を確認できるわけではないこと、また、卵が成長していく過程で遺伝情報にどのような変化が起こるかを予測することもできないため、検査結果によっては移植の適・不適を判断するのが難しい場合もあります。 

このことからも分かるように、着床前診断は決して万能な検査ではありませんが、検査技術の限界について、また検査によって得られる選択肢について正しく理解し治療に取り入れることができれば、体外受精・胚移植の成功率を高めるための有益な情報が得られるかもしれません。 

※着床前診断を用いて出生児の性別を選択したり、定められた目的以外の用途で遺伝学的情報を検査することは認められていません。 


さて、今回は着床前診断の種類、目的、また注意点についてご紹介しました。 

着床前診断の利用にあたっては、各クリニックで提供されている遺伝カウンセリングが必要です。検査実施の可否については、担当医にご相談ください。 


患者さんからのご質問も受け付けています。
どうぞお気軽にお声がけください。


監修
池田 真理子 先生
藤田医科大学病院 臨床遺伝科 准教授
藤田医科大学病院 臨床遺伝科科長 病院准教授|人類遺伝学会臨床遺伝専門医・指導医・評議員|日本小児科学会専門医・指導医|日本小児神経学会専門医・評議員|日本遺伝カウンセリング学会・評議員|身体障害者指定医|産科医療補償制度診断協力医|小児科学会認定 出生前コンサルタント小児科医

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