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「職員研修」城に潜む!〜ワールド・カフェを勧める理由〜
まくらの話
『パンどろぼう』という絵本をご存知ですか。(以下、ネタバレを含みますのでご注意!)
2020年に発売されて以来、人気の絵本で、グッズも販売され、各地で展覧会も開催されています。
主人公のネズミは、世界中の「おいしいパン」を探し求め、おいしそうなパン屋に(自らパンに扮装して!)忍び込み、パンを盗む「パンどろぼう」。ある日、おいしそうなパン屋から盗んだパンを食べたところ、これが「まずい!」。腹を立てた「パンどろぼう」は、あろうことか、そのパン屋に苦情を言いに行く…という物語。
悪いやつだけど憎めないキャラクターと奇想天外なストーリーに、子どもでなくても虜になります。
大人数でこそワールド・カフェ!
放課後児童クラブ(放課後児童健全育成事業)の担当をしていた頃、子どもたちの指導育成を担うスタッフ(「指導員」と呼んでいました)およそ200人を対象とした研修を行っていました。
大人数ですので、学識経験者や実践者などを講師として迎え、広いホールで講義をする、というのが、定番。しかし、「ワールド・カフェ」という手法に出会った私は、「大人数でこそ、ワールド・カフェが最適では!」と思い、自らファシリテーターとなり、ワールド・カフェにチャレンジしてみました
今でこそ、さまざまな研修の中で、大人数でも効果的に意見交換を行うことのできる「ワールド・カフェ」(あるいはその応用)が取り入れられていますが、この頃(2008年頃)はまだ、研修にワールド・カフェを取り入れたという事例は珍しかったと思います。ひょっとしたら、少なくとも自治体が行う職員向けの研修でワールド・カフェを取り入れたのは、日本で初めてかも!と自負しております。(どなたがこれより前の実践事例がありましたらこっそり教えてください)
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指導員の皆さんは、日頃、子どもたちを前に悪戦苦闘している、実践のプロです。個人1人だけの「経験」では、濃淡があり、「知識」といえるほどのものではないかもしれませんが、200人の「経験」を集めれば、学識経験者やスーパー実践者に劣らない、立派な「知識」となりえるのではないでしょうか。
適切な「問い」と、席替えなどによる「時間管理」(効率よく話を打ち切り、話を混ぜ合わせ、収束に向かわせる)という、ワールド・カフェの意図を活用することで、「講師から話を聞くこと」以上の学習効果が得られるものです。
私にとって初めての、そしてもちろん受講する指導員にとっても初めてのワールド・カフェでしたが、現場経験が豊富な皆さんは、話したいことが本当にたくさんあったのでしょう。会場は凄まじい熱気に包まれ、想定以上の盛り上がりでした。
自分が食べたいパンは自分で作る
さて、パン屋に苦情を言いに行った「パンどろぼう」は、その後どうしたかといいますと、パン屋のおじさんに「いっしょに パンを つくるのは どうだろう」と言われ、これまでの「せかいじゅうのパンを たべてきた」経験を生かし、研究を重ね、自らおいしいパンを作れるようになります。
自分が納得するようなおいしいパンを食べたければ、自分で作るのが一番。
私たちも、自分が納得できるような「いい仕事」をしたければ、偉そうな(失礼!)講師の話を聞いてその知識経験を「盗む」より、お互いの知識経験を交換し合い、自分たちを高め合う場を作る方が、近道なのかもしれません。
そんなことを「パンどろぼう」が教えてくれているような気がします。
ところで、パンどろぼうが、変装して「サササッ」とパンを盗み出す動きは、「忍者ファシリテーター」を名乗る私としては、どうも他人ではないような親近感を感じるのですけど。