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【事例】みんなの拠点になる宿をつくる | 京都に住む友だちの部屋「HOSTEL NINIROOM」

Client: Our Own Project
Project Year: 2017~

HOSTEL NINIROOMは、私たちにとってのファーストプロジェクトです。京都市岡崎エリアにある古い空きビルをリノベーションし、カフェ併設の宿泊施設として再生しました。当社直営の宿泊施設として、企画の段階からデザイン、マーケティング、運営のすべてを自社で手がけています。

コンセプトは、京都に住む友だちの部屋 。観光スポットを巡るだけではなく、なんでもない誰かの日常を過ごすようなリラックスした滞在ができる宿をつくりたいという思いを込めました。また、宿泊者だけではなくこの町に暮らす人にとっても身近に感じてもらえることを目指して、地域に開いたイベントやカフェの運営をしています。

Points
自社初の直営店として企画から日々の運営までを一括して実施
印刷会社の空きビルを活用し宿泊施設に再生
日常を過ごすような京都の旅のスタイルを提案
地域の人にとっても”自分の居場所”と思える空間づくりやイベント企画

プロジェクトの背景

鴨川に近い住宅地に建つ3階建てのビルは、もともと印刷会社の倉庫兼オフィスとして約40年使用された後、本社機能の市外への移転にともない長く空き家となっていました。

NINIのオーナー姉妹である私たちは、この古い空きビルを地域に根ざした宿泊施設として再生するため、デザインとマーケティングの分野で勤めていた東京の会社を退職し京都に移住。翌年の2017年12月にHOSTEL NINIROOMをオープンしました。

立ち上げまでのアプローチ

NINIROOMは、京都での新しい旅のスタイルの企画、そして地域の拠点づくりのプロジェクトです。

プロジェクト立ち上げ当時は、東京オリンピックを目前に控えインバウンドの拡大で全国が湧いていた時期。京都市内の駅前や繁華街には宿泊施設が乱立し、その施設数は過去5年間で約3.5 倍に増加していました。町中には観光客が急増しオーバーツーリズムが問題視されていました。

NINIROOMは、繁華街から少し離れた落ち着いた立地を生かし、京都本来の日常生活を感じてもらえるような旅のスタイルを提案すると同時に、この町に暮らす方にとっても愛着をもって利用してもらえる場を目指しました。

友だちを訪ねるような旅
私たち自身の旅の経験を振り返ると、思い出に残る体験とは、ただ観光地を巡るような旅行ではなく、その土地に暮らす友人いきつけの居酒屋にいったり、彼らの親戚と一緒に地元のお祭りに参加したりといったことでした。

そんな経験を通して、気心の知れた友だちに会いに来たようなリラックスした旅でこそ見える特別な体験ができる宿を京都につくりたいと考え”京都に住む友だちの部屋”をコンセプトにしました。

従来のホステルは、お金のない若い世代が利用する安宿というイメージがありましたが、大人も繰り返し京都に訪れるきっかけになるような場を目指して過ごし方や空間のデザインをしていきました。

運営面においては、観光マップにはのっていないけれど私たち自身がおすすめしたいお店やルートをまとめたおさんぽ帖などのツールのデザインや、各スタッフがそれぞれのゲストに合わせた過ごし方を提案するなど、ゲストの視点に立って思い出に残る体験をつくっています。

おすすめのお店やルートを載せたオリジナルのおさんぽ帖。町をめぐりながらスタンプを集めることで、お店や地元の人との会話が生まれるきっかけに。


古いビルの魅力を活用
空き家となっていた元印刷会社の倉庫兼オフィスビルを全面改修し、1階のガレージをカフェに、2・3階の事務所を客室へ用途変更しました。
長く使われてきた構造物をあえてそのままの状態で残しながら新しい機能やデザインを取り入れることで、新旧のコントラストを生み出し、新築では表現できないユニークな空間を目指しました。

何度も訪れたくなる空間デザイン
NINIROOMの内装デザインは客室によってすべて変化をもたせ、何度宿泊しても楽しんでもらえるようにしました。また宿泊シーンに合わせた利用ができるよう、数種類の部屋タイプを設け、プライバシーを保てる個室中心の構成としました。

人数や滞在の用途に合わせて部屋タイプが選べる

地域にひらいた場づくり
NINIROOMを訪れるゲストには、地域の人たちからも温かく受け入れられ、そこでの出会いがこの町を知るきっかけになってほしいという思いを持っています。地域の人にとっても日常的に使ってもらえるように、施設1階はゲストだけではなくと地域住民が利用できるカフェとしました。


カフェスペースでは、地域の事業者と一緒に定期的に開催するマルシェや子育て世代を支援するワークショップなどのイベントを行っています。また、NINIROOMに宿泊したことのあるゲストや地域の方自身がホストとなって、この場を使ったイベントを開催することもあります。


時代のニーズに応じて変化する
私たちが開業した直後に直面したコロナ禍で、世の中の旅のスタイルは大きく変わりました。それにともない「宿」がこれまでとは違うまったく新しい形で利用されるようになったことは、私たちにとっても刺激的な発見でした。

日中は部屋やラウンジでリモートワークをしながら長期滞在を楽しんだり、京都への移住を検討する人が仮住まいの拠点として利用したりするなど、これまで想像できなかった滞在スタイルが当たり前になりました。

この光景を目の当たりにして、地域に根ざす宿がその町やコミュニティへの入口としての役割を務めるという可能性を感じました。こうしたニーズの変化を敏感に感じとり、いま現在も運営方法や空間設計を柔軟に見直しながら変化を重ねています。

気軽に外出することが難しい閉塞的なコロナ禍、のびのびと長期滞在をするゲストたちにとってNINIROOMは、まさに”大きな友だちの部屋”。日々の何気ない思い出を共有し、強いつながりが生まれていました。

NINIROOMを拠点にコミュニティが生まれ、今も同窓会の開催や京都移住につながっています。

プロジェクトチーム

企画・運営・デザイン全般:株式会社NINI
建築設計:株式会社コンパス建築工房

Client: Our Own Project
Project Year: 2017~