KINO 1stEP「If this is love,I want a refund」感想
※初出:2024年5月25日
リリース当時にふせったーに上げていたものに一部加筆・修正をして移植してきたものです
昨日出たインタビュー(下記リンク)含め、これまでの本人の言動の端々から感じられる気合いの入りようを見るに、とにかくまずは音盤という「目に見える/手に取れるもの」を出す、ということを目指していたのかなと思います
もちろん配信も大事だけど、やっぱり形として残るものの強さはあって、会社経営者としての責任も担うようになったのも相まってか、これまで以上に主体的な姿勢が感じられてすごくワクワクしてリリースを待っておりました
1.Broke my heart
Why you broke my heart?
(どうして僕のハートを壊したの?)
再生ボタンを押してすぐに、この強烈なワンフレーズで始まるアルバムの一曲目
その後に続く歌詞全てがどうあがいても救われていないのが確定と分かるインパクトの大きさ
聴いてすぐに思い出したのがPoisonなんですが、あれもI love what I hate(憎むものさえ愛してる)という印象深い歌詞から始まっていて、キノちゃんこういう短くて鮮烈なフレーズを書くのが上手い
たぶん曲のコンセプトや主題のようなものが本人の中でしっかり定まっているから、そこから連想してバシッと決められるフレーズが出せるんだと思います
勝手な想像ですがキノちゃんて歌詞書くのめちゃくちゃ早い方じゃないかな
英語ょゎょゎなので細かいニュアンスまで全部わかっていない、もしくは大変に誤解してる可能性大だけど、歌詞は一方的な破滅と自己犠牲を煮詰めたような感じ
どのフレーズを取り出しても金太郎飴のような「あ、何かもうダメそう……」感
ダメそうどころかもうダメになってるんだけど
徹頭徹尾"報われない"を貫いている
でも恋愛に限らず全てが終わってしまった後、自暴自棄になって何もかもが皮肉や嘲笑ものに見える瞬間って少なからずあると思うので、一過性のものとしても自然な感情じゃないかと思います
キノちゃんが手がけてきた曲の数々の中で、主人公である"僕"の等身大の感情の発露をある意味とても素直に描いてあるところが好きですね
ラブストーリーが主題ではあるけど、彼女とか君のことではなく、"僕"が何を感じたのか、ということにフォーカスしている
メインはあくまでも僕という人間
それがポジティブであれネガティブであれ、主体性を持った一人の人としての感情の揺れ動きを真っ直ぐに描き上げることが、キノちゃんが美学として見出しているものの一つじゃないかと思います
キノちゃん自身もとても素直でピュアな方ですし
という意味でも、拗れに拗らせた間抜けな男を演じさせたら相変わらずピカイチ
この拗らせ劇に乗せた音がとてもクリーンで綺麗というギャップも、余計に悲しさと皮肉マシマシですごくいい
2.Solo
個人的に今回のアルバムで一番好きな曲
2009-2011年くらいのPerfumeみたいなポップ感のある音で、サビのキノちゃんの高音がめちゃくちゃ綺麗で気持ちいい
Born Naked横浜公演に行った時も思ったのですが、キノちゃんも大概自分の声を理解していて、どのようにコントロールすればどういう声が出るかしっかり分かっている人だなと
PENTAGONでもソロでも、「ここではこういう声を出そう」という意図を感じるパートが割とあるので
BMHから変わって今度は「互いに手放すのは惜しいけど、このままだと良くないから一人で生きよう、いつか大丈夫になる日が来るから」という、悲しいけど、一方で一人になることを多少無理矢理にでもポジティブにも捉えていて、このカラリとした哀しさがすごく好きだし曲調にもよく合っている
サビ前のSo just don't look back tonight
(だから今夜は振り返らないで)
このフレーズがずば抜けて好きです
歌詞もそうだけど譜割りにもすごく綺麗にハマっていて、シンプルながらとても美しいと思う
曲のジャンルもテンションも全く違いますが、似たようなフレーズで藤井フミヤのAnother Orionを思い出しました(キノちゃん好きそう)
また、別れを経て一人になったことをaloneではなくsoloと表現していることもポイントだと思いました
◎alone
他の人がいない、または社会から分断されているといった、より孤立・孤独のニュアンスが強め
一般的な会話で一人を指す場合はこちらを使う
◎solo
主にステージパフォーマンスにおける専門用語
他人の存在なしに行われている個別の活動
(aloneと比較した場合)どちらかというと肯定的なニュアンス
3.Freaky Love
サビのベースがめちゃくちゃ好きです…
「出会って2秒で恋して、結婚して子供の名前をつけて幼稚園に通わせ、中学受験or留学か…という妄想がどんどん広がった曲」とのこと(パムラゲスト出演回より)
他にも分かる範囲だけでもPOSE、Shh、PADOなどの制作ビハインドを聞いていても、キノちゃんてインスピレーションを得て世界観を広げていくタイプなんだなという気づき
そして絵を描く人だからなのか、そのシチュエーションが視覚的なのも特徴だなと思う
4.Valentine
午後3時過ぎくらいの少しずつ陽が傾きかけた時間帯っぽい感じがするスローな曲
このくらいのテンポ感と曲調、多分PENTAGONにはあまりなかったと思うので結構新鮮
そして今回のアルバムにおいて韓国語が入った唯一の曲で、アンプラグドな楽器(アコギ)が入った曲でもあり、より歌詞が断片的で…といった、他の曲たちとは少し異なる色を感じる
最後曲であるFashion Styleへの"トリ感"の布石のようにも思いました
サビ最後の「돌아와 세상이 만만했던 그때 그 모습으로」、特に 모습으로(mo seup eu ro)の습と로の発音めちゃくちゃ気持ちいい
キノちゃんの綺麗な高音+S・Rの発音をおかずにご飯3杯くらいは行ける
5.Fashion Style
NAKED設立後、本格的なソロキャリアの幕開けを飾る一番最初の曲として先行配信されたこともあり、もともと特別感があるなとは思っていたのですが、1stEPのエンディング曲という位置にいると一層そういう風に感じますね
別れと罵倒のBMH→一人になることの切なさと自由を賛美するSolo→出会って2秒で恋して色んな妄想をしちゃうFreaky Love→あの頃のことを思い出してセンチになっているValentine→自己肯定と希望のFashion Style
という、前4曲で織りなしてきた様々な感情をFashion Styleが全て肯定して掬い上げるという構図になっているのがとても美しくて好きです
あとはライブの時はだいたい「don't be Kylie, Palvin, Cara」のあたりをワザと拍ずらして歌っているのが現場ならではのアレンジという感じで、こういうのすごくありがたいです(?)
まとめ
フイさんのWHU IS ME:Complexが一曲ずつ曲ジャンルを変えて起承転結を表現していたタイプなら、キノちゃんの場合は一つのテーマを様々な視点から描いてみたというような感じですかね(※)
それ自体は今までのソロでもやってきたことだけど、アルバムという一つのパッケージになったことでもっと包括的に表現できるようになったからか、角度によって反射色が変わるプリズムみたいに、一つのものを様々な側面から照らし出すということをずっとやってみたかったんだろうなと思いました
※実際、冒頭にリンクを貼ったインタビュー記事でも「さまざまな恋の側面に共感してもらいたいと思って作った曲です」とコメントしているようです
読んでいると曲だけでなくフィジカルのディテール・撮影・マネジメントまで、とにかく音盤が世に出るまでに通る全ての制作工程に関わってて
会社を設立して最初の作品であるだけに、NAKEDが、そしてKINOという一人のアイドルが今どんな姿を見せたいのかをしっかり示したいんだろうなと思いました
それを踏まえてもキノちゃんは自分の武器、感性、ビジョンにすごく自覚的なので、これからの変化・進化を追っていくのがすごく楽しみです
とにかくリリースおめでとう!
美味しいご飯食べてたくさん寝て、お腹いっぱいアーティスト活動してほしい