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両親 24.湯灌(ゆかん)と納棺

 2008年4月・・・
 父を実家に運んで二日後、湯灌と納棺の儀を行った。最後に湯に浸かり、身を清め、死装束となって旅立ちの準備をすると言うことらしい。平日の昼間でもあり、立会いは、私と姉の両夫妻、4人だけ。葬儀社の女性が3名来て、手際よく準備を進める。

 準備が出来たとのことで部屋に入ると、中央に上が開いているステンレスの箱があり、
これが、浴槽ということらしい。この浴槽から二本の太めのホースが出ていて、庭に延び、外の車につながっている。車にタンクがあり、給排水が出来るようになっている。

 浴槽は長さ2メートル余り、高さ50センチほどで、高さの中ほどの所に、固い布の張られた担架が、水平に設置されている。父はその担架に仰向けに寝かされて、首から下は白い布で覆われている。横に座り、肩の辺りから下を覗くと、がりがりに痩せた骨と皮だけの体が見える。

 女性がシャワーでお湯を出しながら、全身の洗浄、洗髪、髭剃りなどを、慣れた手つきで、手際よく行う。この間、体には常に布が被されていて、露になるようなことはない。なかなかのプロの技だが、彼女達にとっては、日常の一業務ということだろう。洗髪や顔拭きなどは、我々が、形ばかりのお手伝いをする。

 姉は、父が穏やかな顔をしているとか、気持ちよさそうだとか、言うのだが、私には、これは遺体であって、父とは思えない。それでも、儀式ということで、それなりに丁寧に、頭にお湯を流し、手で髪を整え、タオルで顔を拭く。当り前だが、体は冷たかった。最後に綿棒で唇を湿らせて、湯灌の儀は終了。

 その後、旅立ちの着替えということで、遺族は一旦退室。再び部屋に入ると、父は白いさらしの衣装を着て、布団に横たわっている。係りの女性が、顔を整え、足の爪を切り、遺族4人で足袋、手袋(手甲)、その他、定例のものを身に着け、晴れて死装束となる。

 女性の指示に従い、全員で遺体の下の白布を持ち、父を持ち上げて横の棺に納める。数珠、ぞうり、杖、紙の六文銭(三途の川の船賃とか、)など、定例の物を入れ、更に副葬品を入れる。父の大好きな煙草を数箱入れ、うち一箱は封を切って3本ほどを箱から半分ほど出し、これで文句はあるまいと思いながら、手の脇に置いた。更に愛用のジャケットや、父が庭に植えた水仙の花を入れる。最後に蓋を被せて、一連の儀式は終了。
 
 終わってみるとあっけなかった。

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