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NHK俳句、中西アルノさん

  昨日日曜のNHK俳句は月に一度の句会、参加者各人が読んだ句を全員で評価し、コメントする。常人には思いもつかない深読みもあり、なかなか面白い。
 
 昨日の参加者は以下の通り、
選者:高野ムツオ、1947年生まれ、現代俳句協会会長、俳句界の大御所
          話しっぷりから、気さくな人柄を感じさせてくれる。
俳人:角谷昌子、1954年生まれ、俳人協会理事
   浅川芳直、1992年生まれ、東北大学大学院文学研究科在中の新鋭俳人
          2025年俳人協会新人賞受賞
ゲスト:サンキュータツオ、
        1976年生まれ、早稲田大学日本文化修士卒
          芸人&日本語学者、東北芸術大学文芸学科専任講師
句会レギュラー:中西アルノ
        2003年生まれの21歳、
          アイドルグループ乃木坂46のメンバーで活躍中
 なお、司会は柴田英嗣さん、
        
 句会の題は「春泥(しゅんでい)」、春のぬかるみのこと。高野ムツオさんによれば・・・春は、凍解や雪解、雨などで泥水が乾ききらずに、泥濘が至るところにみられる。ただ「春泥」は比較的新しく使われた季語で、街や都会の泥といったイメージがある・・・そうだ。
 
 この題で、参加者が一句詠み、作者名を伏せて、全員が特選と並選を一つずつ選ぶ。ただし自分の句は選べない。特選を2点、並選を1点として合計点を競う。で、今回第一位に選ばれたのは、なんと乃木坂46、21歳中西アルノさんの次の句だった。
 
春泥や荼毘(だび)も煙も雲になり  
 特選:高野・浅川
 並選:タツオ・角谷
 
 特選、並選に選んだのは中西さんを除く全員だから、句の作者は中西さんと直ぐに判明。読んだ人それぞれの思いが蘇り、すっと胸に入る句だが、各人のコメントが深く、ただただ感心する。
 
 (高野)内容は古くさいし、荼毘の煙を題材にするのも俳句ではよくあるが、春泥と取り合わされることによって春泥も雲になるのではないかというところがとても魅力的。荼毘の煙は火葬、亡くなった人を弔う煙、それと同じように「春泥」もなくなった人の魂のように(天に)あがっていくのではないか、と思えるところがとても魅力的。
 (浅川)真っ先に特選に決めた。誰しも、親しい人、愛しい人を亡くした経験は少なからずある。「国生みの神話」神様が泥をかき回して国を造った、人が死んで煙になる、蒸気が上がって雲になる、又雨になって大地を濡らし春泥となる、命が循環する、その世界観が胸に突き刺さる。
 (タツオ)「春泥」は春の喜びであり生命力、それと死を取り合わせたところが、アイデアとしてすごく面白い。「春泥」は下を向きがちだが、この俳句は上を見させてくれる、その視線が面白い。母音「お」がテンポよく3つ入っている。だび「の」けむり「も」く「も」になり、口に出していいたくなる仕組みがうますぎる。
 (角谷)「春泥」が象徴するものは「俗界」、天井に魂が召されていく、対比が上手くできている、私も父が焼きあがってその煙を見守っていたという記憶がよみがえる。ただ、「煙も」は「煙は」ではないかなと思う。「も」と言ったら一諸くた、「煙は雲になり」と断言した方がいい。
 (高野)そこは私もどっちがいいかと思ったが、「も」がいいと思った。でないと「春泥」が上に上がっていけない。タツオさんが言ったとおり、「春泥」は魂、それが上空に上がっていくイメージを伝えるために「も」でなければ上がっていけない。
 (角谷)「春泥」を上げる必要はないと思った。
 (浅川)そうすると、循環する命の想像が膨らまないじゃないですか。
 (角谷)写生できっちり抑えておいて発想を飛ばす、読者の力量ではないかと思う。「春泥」=ドロドロ、「荼毘」=天井、と対比させるよりは、そこから深い世界を読み取っていくのが大事ではないかと思う。
 (高野)ここまで色々言われるとは、この句はなかなかなものですね。
 (作者:中西アルノ)春は息吹を感じる季節、それと対比で「死」や「失う者」を取り合わせたくなった。それこそ「循環」を詠みたかった。「春泥」も「人」も雲になると詠みたかったので、皆さんそこまで読んでくれたのがすごく嬉しい。
 
 角谷さんが「煙も」ではなく、「煙は」だと拘り、些か意地になって言い張っているのが面白いが、当方も断然「煙も」派だ。
 
 最初にこの句を読んだ時は、春泥も荼毘の煙も一時的なはかないモノとしか頭に浮かばなかったが、「循環」がテーマだと言われれば、確かにそうだろう。読んだ時に何かに心ひかれたのは、無意識に感じていたのかもしれない。
 
 当方は物理主義者であり、人の魂なるものはないと思っている。だから死ねばその人はこの世から消えて、無に帰するだけ。ただし焼かれることで形は変わるが、物理的には消えるわけではなく、雲になり、水蒸気になり、ガスになる。そして、それらが巡り巡って次の生命を生むことにもなる。
 
 それにしても、中西アルノさんは素晴らしい!押しになろうか・・・・

芸人&学者のサンキュータツオさんと 乃木坂46の中西アルノさん、

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