片道書簡
こんな話があった。
ある日、その人宛に遠方に離れて暮らす母親から書籍が届いた。
小包の中には、送られた書籍の説明が書かれた手紙とは別に、もう一通封筒が入っていた。
封を開くと、また別の手紙が認められていた。
しかし、手紙を読むとどうもおかしい。初めは自分宛てに書かれたものと思い、読み進めたものの、客体の特徴が、どう考えても、自分とは別人に思えてならない。
誰か他人宛の手紙を間違えて封入したのか?
そんなふうに怪訝な面持ちで最後まで読み進めると、そこに書かれた手紙の相手の名前、それは、その人もよく知る名前、自らの亡父のものだった。
ポストに投函しても届くことはない。それ故、我が子に送っておくと。追伸にはそのように書かれていた。
その話を知って、ふと、昔を思い出した。
私もかつて、そんなふうに、今は亡き人に対して、手紙を書いたことがあったなあと。
その女性は、そんなふうに今までも人知れず、亡き夫に対して手紙を書いていたのかもしれない。否、その一回だったのかもしれない。
真実はその女性、本人にしか知り得ない。
それでも、妙な共感を覚えたものだ。その話を知った時。
あゝ、同じだって。
返事は決して返ってくることはない。
それでも、話しかけたいのだ。
話を聞いてもらいたいのだ。
相手が生きていた時にしていたのと同じように。
むしろ、今、それが叶わぬがゆえに。
いつかまた会える日を楽しみにして。
ふと、そんな自らの心境を思い出した。
あゝ、同じだって。