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もう、戻れない。
私が彼と付き合ったのは、私を愛してくれたからだ。
私は高校時代に付き合った元彼がいる。その男は酷く私を言葉の暴力で傷つけては笑っていた。「何もできない」「カスだもんな」そんな言葉を軽々しく口にされては、私の心は血だらけになった。
私が価値のない人間だから、こんな風に怒られちゃうんだよね。ごめんなさい。
そんな風に謝まり、泣き腫らした眼で朝を迎え続けたのだった。結局その男とは強制的に縁を切ることが出来たが、私の心には深い傷跡が残った。恋愛をしたくないと思ったのは紛れもなく、あの男が原因である。
そんな私が大学に入って半年を過ぎた頃、愛してくれていると分かる人間に出会う。しかし、彼との交際期間は2ヶ月で幕を閉じた。何故なら、私が強制的に幕を下ろしたからである。
彼はあからさまに私に「好きだ」と示した。今思えば、色々と展開が早過ぎた気がするが、彼が彼自身の気持ちを抑えることは無かった。彼はいつでも可愛いと言ってくれていたし、いつでもキスをせがんだ。何処へ行くにも「一緒」を求め、さらに言えば結婚すら視野に入れていた。最初は自分を肯定してくれたような高揚感を覚えた。しかし、2ヶ月目の記念日が迫る最中、そんな風に私を愛してくれている彼を見て。
私は心底、
気持ちが悪いと思った。
何故そう思ったのか。
もしかしたら、昔の自分に似ているからかもしれない。あの男にどんなに酷く扱われても毎日の電話や強要されるセックスを拒まなかった当時の私。どう考えても異常と言える愛情に似た感情であっただろう。例え、依存という決してプラスとは程遠い関係性であったとしても当時の私には、あの男が必要だったのだ。そんな自分が汚らわしくて大嫌いだった。その姿が彼と重なったのだと思う。
いつでも、どんなときも、一緒にいたい。君が大好きだから。ずっと、だよ。
やめてよ、
私を好きだなんて言わないで。
「ずっと」だなんて、無責任に言わないで。
その安っぽい言葉で、私を縛らないで。
自分自身が感じていた違和感に気づいた途端、彼への気持ちが「気持ち悪い」に変わった。彼に少しずつ向いていた愛情は嫌悪へと形を変えて、キスをせがむ彼を心底、殴りたくなった。
当日の夜。私は「別れよう」とだけ連絡をした。彼は対話を望んだが、私はそれを拒んだ。彼の「別れたくない」の連絡は1ヶ月以上にわたって繰り返され、互いに疲弊し、離れることが出来た。今ではなるべく関わらないように暮している。
お別れの際に彼は「せいぜい苦しんで生きろ」と言った。私に沢山の優しい言葉をかけてくれて彼はもういなくなっていた。彼もまた、男に過ぎなかった。
もしかしたら、あの時、私が男にされたことを今度は私が彼にしてしまったのかもしれない。そんなことも考えたが、私は眼を閉じた。
ああ、もう戻れないんだ…。
言葉を素直に受け取れて、無邪気に笑える私にはもう戻れない。男に出会ってから、世界の見方が180度は変わったのだ。以前のように明るく、人々の中心にいる私はいない。人に会うのが億劫になり、外にもでたくない。日々を生きることに必死で、涙を流しては、自分の非力さに憤る。
あの頃には戻れない。
私も、彼も、あの男も。