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雲は夜にもあるけど、月灯がなければ見えない。見えないものは存在しないことになる。さびしいな。

・とんでもないものを見た。

正確には、どんでもないものを見せてもらた。好きでサウナに通う。だいたい夜の8時から10時にかけて。この時間帯は心地がいい。特に理由なんてない。ただ、この時間が好きなのだ。強いて言えば、俺はここらへんの時間に生まれたと母親にきいた。難産だったらしい。だから、この時間にシンパシーを感じるのかも知れない。ただ可能性の一つといった感じである。
その日は、まだ春とは断言できないくらい凍える夜を待っていた。サウナに行った。いつも通り、所定の位置に座る。調子は良さそうだ。良い、悪いは所詮、自己判断でしかない。けど、その日は確かに調子がよかった。
サウナは水風呂と外気浴がセット。これは約束。今日は何セット行こうか。それを考える時間すらも整うための助走のように、最近は感じる。
1セット目、2セット目、3セット目。今日は調子が良さそう。
事件は3セット目をはじめてから、7、8分くらい経ったころに起こった。ちょうど、綺麗に汗を拭き取った小麦色の肌から、これまで体内を勢いよく回っていた水分の水滴がテンポよく噴き出し始めた時間。
ちょうど、僕の目の前に一人の男が座ろうとしている。ここで補足しておくが、サウナ室の構造というのは、だいたい雛壇みたいになっている。中学の卒業式で保護者席に向かって校歌を朗らかに歌うときに踏み締める雛壇。そんな構造をしている。目の前の男が僕の前の席、正確には、前であり下の席に腰をかけようとした。そのとき、席に座ろうとした男の体の一部に太陽を見た。太陽といっても、本物の太陽ではなく、力強いエネルギーを放った一筋の光。その光は男の肛門から射していた。そう。その男が階段上の席に座ろうとした時に、後ろに腰を下ろしていた僕からは男の肛門が丸見えになったのだ。眩しかった。光っていた。それでいて、神々しくもあった。それはまるで、一つの生命体のようにも感じた。今になってわかる。その光は口→食道→内臓→肛門と確かに生きた男の道標を辿ってきたのだ。僕が見た、肛門から射す一筋の光は、その男が口から吸収した光だった。生まれて初めて、男の肛門を見た。そう、男の。

・その子は不思議な子だった。

なぜ、そうなったのかはわからない。急に理解不能な方向へ話の進行方向が向くことがある。理由なんてないのかもしれない。その話はなぜ、トマトは赤いのか、ただそれだけ。嘘みたいだ。後から考えると、なんて事ないたわいもない話。その瞬間の僕には大事な話だった。
トマトはなぜ赤いのか。明確でいて、説得力がある理由を見つけて、それを証明しないと気が済まなかった。だが、いくら考えても答えなんて、見つからなかった。トマトが赤い理由なんて。
そのとき、彼女が言った。いつもよりも高い声だった。気のせいだったかもしれない。
「赤は素敵な色。魅力的な色。情熱の赤。自然と目に留まる色。トマトは多くの人に美味しく食べてもらうために綺麗な赤い色をしているんだよ」
僕は、目の前の彼女のほほが、トマトよりも芳醇な赤色に染まるのを見逃さなかった。それは一瞬だった。確かに見逃さなかった。

・なんでこんな文章を書いているのだろう。

こんな時間に。何のために。もう寝たい、この手を止めたい。わからない。いや、わからなくていいとも思えてきた。おそらく、今村夏子さんや穂村弘さんといった文学的な作品に出会ったせいかもしれない。出会ってからは、小学生が大学を立派に卒業するくらいの年月が経っているというのに。。。
もう寝よう。続きは明日。きっとあした。

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