『事故物件 怖い間取り』をお金を払って観てしまっても、何も我慢することはない(ver.1.0)
(『ミッドナイトスワン』の予告で隣のクソ○キがクスクス笑っていたところからもう最悪だったのだが、映画の本編は本物の「怒り」を提供してくださった。ありがたやありがたや。)
今から『事故物件 怖い間取り』でも観に行こうかな、と思っている人を止めるためにこの記事を書いているので、ネタバレは当然ある。あなたの1500円だか1800円だかを私は守りたいのだ。勿論、「もう観てしまった・・・」という人とも怒りを共有したい。っちゅうわけで、以下はざっくりした映画の内容と共に怒りのレビューを書き連ねていく。
主人公は面白くなさ過ぎて売れない芸人の山野ヤマメ。唯一の固定ファン小坂梓しか笑ってくれる人もいないし、将来性もなさそうなので相方の中井くんの言うがままに〈ジョナサンズ〉は解散。その後放送作家の道を歩み始めた中井くんのつてで、バラエティ番組の企画として「事故物件」に住むことに。同じ時期に梓はメイク補助スタッフとしてテレビ局に出入りするようになり、ヤマメや中井と交流を深めていくが、実は彼女は”見える”人で・・・・・・というのがプロローグ。ここからはまあ住んでは引っ越しを繰り返してヤマメくんがスターダムを駆け上がっていくわけです。起伏とかも特にないので、ここからはこの映画の一番の利点、「物件ごとに語ればやりやすい」というのを活かして進めていこう。いやはや、ここまでは普通に良作だと思ってたんだがなあ
事故物件一軒目、女が男に殺された部屋
梓が例の部屋を元ジョナサンズと訪れるのだが、梓は駐輪場に黒の粒々がサーっと集まって人型になるのを目撃してしまう。VFXフル活用。いやいや、霊的な何かなのだろうが、今やファンタジーの映像表現なんですけどそれは。そこから借りてきて何かいいことあるんですか?
まだまだ始まったばかりだから、と気を取り直したのが功を奏して、殺人鬼の例が梓を襲ってくるシーンは悪くなかった。ショットのつなぎだけで恐怖を演出しきっていて、ホラーを撮る監督の皆様方には毎日土下座してでも古典ホラーの方法で作り続けてもらう方が良いのではないかと思った。
喜んだのもつかの間、被害者であろう「赤い服の女」をめぐる表現はなかなか酷いものだった。めちゃくちゃ鮮明に写っているし、汚さもない。後ろを向いた状態から、こっちを向くの向かないのを延々やった後、結局顔は見せないのか・・・・・・と思っていた所を、回想ですぐに素顔大公開。冷めるとかいうレベルではない。世の中見せない方が怖いものもあるって知ってるでしょうに。
二軒目、無職の男が母親を殺した部屋
二軒目からは不動産屋の紹介。「事故物件を探してるんですが」といったら「じゃあ担当者呼びますんで」と返ってくる不動産屋って普通なんですか。とにかく横水という怪しさ満点のおばさんに紹介されたのは無職の男が母親を殺した部屋。
この物件で最大の見せ場は過去の事件のシーン。全部ヤマメくんの推理だけど、良い感じのバイオレンス描写だった。長いし。ホラーを見るにあたって意味一番求めていた感覚が再現VTRにあったってどうなんだろうと思いながら、映像を通じて身体を攻撃される感覚を堪能。
この物件にも梓さんはちゃんと来てくれるのだが、このときにはもうヤマメサイドが彼女の「見える」能力を利用するのを双方合意済みである。であるからして、怖い目に遭うのはだいたい彼女なのである。でもなんやかんや恐怖のシーンはテンポが悪くてまったりしてしまい、梓さんの骨折り損となるのでした。
三軒目、強制自殺マシーンと化した部屋
特筆すべきことが何もない。話の展開のためだけに設けられた部屋。ヤマメくんが意識を支配されて首つり自殺をしようとしていても、お役立ちサポートキャラたる梓がすんでのところで助けに来ることになんの意外性もないので安心してみていられるという酷い出来である。
四軒目、無理心中とラスボスの部屋
序盤でホラーらしく盛り上げたところをCGだかVFXだかで台無しにするというのがこの映画のやり方らしい。台無しにするなよ。間取りをみただけで警戒度を察知する梓の制止を振り切り恐ろしいまでのバラエティ根性で東京に進出するヤマメくん。ヤバいと分かっていながらも抜け出せないというのはお約束でも観てて楽しいからもっとしつこくやっても良かった(訳:目がイってる亀梨くんが観たかった)。後々絶対に必要になるであろうお守りを売りつけてくる、必然性だけに彩られた宮司・高田純次の制止も振り切りいざ部屋へ。がらんとした部屋に何ものかの雰囲気を感じさせて怖がらせるのも上手くいって、調子は上々。部屋に入ったとたんに前触れなく崩れ落ちるヤマメも良かったですね。やっとエンジン掛かってきたかと思いました。日が暮れ、チャイムの音にやっと目を覚ますヤマメ、誰もいない玄関、勝手に開くドアと女の泣く声、緊張感はマックスです。だが、そこからがダメだった・・・
ある日家に帰るとヤマメを待ち受けていたのは家じゅうにはびこる悪霊、悪霊、悪霊、、、ただしギャグ調の(冷蔵庫から出てきたりする・・・家具付き物件だったのか)。なんの必然性もない一見さんの悪霊さんがいくら来ても匿名性が高すぎてどこぞの低予算ゾンビ映画とやってることが変わらないんですね。悪役を悪役たらしめる背景が無の境地に達しているので感じるところがない。そんな彼らを高田純次から700円ポッキリで購入したお守りで追っ払うと、いよいよラスボスのお出まし。映画の序盤からヤマメをつけていた謎の黒っぽい霊。ヤツにお守りを粉砕され(!?)絶体絶命のところで梓さん乱入。結局二人とも憑依されて梓がヤマメを包丁で刺し殺そうと馬乗りに。二人とも意識は覚醒しましたが体が言うことを聞かない、観客がみんな亀梨くんの許しを請う情けない声に萌えていたところで元相方の中井くん登場。準備してきたお祓いグッズをフル活用しますがやはり効果がありません。お気づきでしょうがここらへんはもうホラーのホの字も感じさせない三流お祓いファンタジーです。エンタメホラーにしても酷いと言わざるを得ないぐだぐだのなか、中井君が電話したのは不動産屋の横水さん。事故物件を紹介して、除霊の方法を教え込むという脅威のマッチポンプ。良心の呵責とかはないんですか。それはさておき中井君が大量の線香に火をつけてマントラかなにかを唱えると、無事解決。三人は命からがら大阪へ逃げ帰りましたとさ・・・なんやかんやで苦楽をともにしたヤマメと梓は結ばれ、にっくき横水は突然事故死、そして黒いあいつはなんやかんやでまだ人を自殺に追い込んでいるのです・・・・・・ソワカソワカ・・・・・・
って
それでええわけあるかい
それでええわけ、あるかーーーーーーーーーい!!!!!!!!!
なんで仮にもホラーと銘打った映画でご都合主義を炸裂させることができるんですかね。主人公の周りの人間は死なないわ人間関係はなんか最終的にうまいこといくわでもうめちゃくちゃです。確かに中井くんの父は亡くなり母は寝たきりだから不幸がないわけではないが、それにしても不幸要素を一度もスクリーンに映らない人間になすりつけすぎなんですよね。最後におっさんが一人首つって逝ってもうてるけど正直「誰?」という感じだし、横水に関しては命奪われることにあまり不思議も悲しみもないんですよ、タイミングも悪いし。そんなわけで主人公を甘やかしすぎです。死の不条理さで『君の膵臓を食べたい』に負けてる場合じゃないですよ!もっと殺さなきゃ!
あとやっぱりVFXの見せ物性とホラーは合わないって!『犬鳴村』もそうでしたけど、バァァァン!とばかりに見せるために作った映像ではホラーにならないんですよ。特に霊なんかを扱ってると、「いるの?いないの?」といったところが恐怖にとって重要になってくるわけで、VFXの黒い砂を集めて人影にしてみたり、謎の黒い男の顔を百面相みたくコロコロと変えてみたりしてる場合じゃないんですよ。クライマックスで線香の火の粉が部屋中を舞うシーンがありますが、ここの下劣なエセスペクタクルがTwitterでいろんなひとから『ハリー・ポッター』っぽいと揶揄される所以でしょう。スペクタクルにしても古アパートでやることではないし何を見せられてるのか分からなくて大いに冷めます。観客ナメてないとあんなことにはならないって。
いやいや、ハリポタなめてんじゃねえ!ホラーとしてもエンタメ映画としても失敗した映画を、安くない金額を払って観てしまった後悔を、そんなヌルい比喩表現で飲み込むんじゃないよ!!そんなだからナメられきってこんな作品が出てきてしまうんでしょうが。最悪の映画を観ちゃったんなら、最悪だったって言いましょうよ。そこに忖度なんて必要ないし、批判だからって悪いことは何もないですよ・・・・・・ダメっぽい映画を楽しげに語ろうとするのはもう、『邦キチ!映子さん』に任せてみんな素直になりましょうよ・・・・・・