高校野球 2016夏季神奈川県大会観戦レポ その1 3回戦 東海大相模対瀬谷
東海大相模 7対6 瀬谷
今年の夏観戦した中でも、ベストバウトと呼んでいい試合。
昨年夏全国優勝の東海大相模と、昨年夏1回戦敗退の瀬谷との試合。
ところが、瀬谷の気合が違った。
……東海大相模のエース、山田投手が「瀬谷中」出身なのは、その件となんか関係があるんだろうか?
しかし、東海大相模の先発は、エース山田ではなかった。北村投手。
こちらも難敵だ。昨年夏全国優勝の「新・140キロカルテット」の一角。
それでも、ピンチを最小失点にとどめた瀬谷は、2-0の僅差で6回まで食らいつき……
そして、7回に反撃の狼煙を上げる。
先頭打者、谷脇くんがデッドボール……
谷脇くんは間髪いれず、ベンチを振り返ると、ガッツポーズをひとつ見せ、1塁に向かう。
これが合図だった。
……後に聞いた話だと、谷脇くんはクラスでも野球部でもとにかく明るいムードメーカー。
そんな谷脇くんが、出塁1つにガッツポーズを見せ、ここから瀬谷高校の時間が始まる。
ヒット、フォアボール……
下位打線が必死に繋いで満塁のチャンス。
1番佐藤大の犠牲フライで1点を返す。
そして、1塁ランナーもタッチアップで2塁へ進む好走塁!
さらに、2番伊賀のレフト前ヒットでついに同点に追いつく。
強豪相手に、五分以上に渡り合うその姿、大和スタジアムの観衆は瀬谷高校の応援へと傾いていく……
しかし、同点で迎えた7回裏……
東海大相模に1点勝ち越しを許してしまう。
「やっぱり駄目だったか」
そんな雰囲気が漂う。
それでも、8回表、再び瀬谷が連打を見せる。
先頭の4番、杜がセンター前ヒットで出塁すると、5番平野は右中間を破る。
杜、本塁突入ううう!!!
タッチアウト!!!!!!
瀬谷の意地は、しかし東海大相模の好守備に阻まれてしまう。
それでも、この送球間に、平野はソツなく3塁を陥れ、チャンスが続く。
そして再びの谷脇くん!!
そして再びのデッドボール!!!
そして再びのガッツポーズ!!!!
まだまだ、流れは瀬谷にある!
球場の空気は、瀬谷へと傾いていく。
流石に2度めのデッドボール、ということで、塁上で痛がる谷脇くん……
だが、これは演技だったのか、ここでダブルスチールwww
1アウト、2・3塁と再び逆転のチャンスを作り出す!
しかし、ここでスイッチが入った東海大相模、連続三振でピンチを切り抜けてしまう。
8回表終わって東海大相模 3-2 瀬谷。昨年県大会1回戦負けの瀬谷が、東海大相模に大善戦。
公立の子たちが、ここまでよく頑張った……
潮が引くように、流れを失ってしまう。
8回裏、東海大相模が4得点。テキサスヒットが、野手の間に落ちて勝負あった。
7-2
試合は決まってしまったか……
誰もがそう思った。
瀬谷ベンチの選手たち以外……
そう、まだ、試合は終わっていなかった。
9回表、瀬谷はふたたび、東海大相模に食い下がる。
連打に四球でノーアウト満塁!
バッターはここからクリンナップ!
3番、田中。
ここで、東海大相模も動く。ピッチャー交代。
エースナンバー、山田。
田中は出身中学も瀬谷。
そう、2人は同じ中学出身。
山田と田中の、この対決。
点差はあるとはいえ、9回、ノーアウト満塁で3番とエース。
再び、会場の空気は瀬谷に大きく傾く。
瀬谷コールはひときわ大きくなって……
しかし、さすが名門・東海大相模の背番号1、山田。
連続三振で一気にツーアウト。
追い込まれた瀬谷。
最後のバッター、5番平野はセカンドゴロ!!!
と思ったら、その送球が逸れる。
ランナーふたりがホームを駆け抜け3点差。
なおもランナー2,3塁。
そして、迎えるバッターは!!
6番セカンド谷脇くん!!
チームのムードメーカーが、また大事な場面でやってきた!!
この谷脇くんも、瀬谷中学校出身!
つまり、エース山田と同じ中学校対決、再び!!
思うところが色々ありそうな両者の対決。
接点はあったはず、だからこそ。
因縁の決戦に燃えたぎる!!
スタンドの歓声も、さらに盛り上がる。
そして、快音を響かせた打球は右中間を……
破った!!
ランナー2人帰って1点差!!
もちろん、谷脇くん、塁上でガッツポーズ!!
ここで、俊足の小林が代走に出る!
傍目には、勝負に行った采配。
だが、谷脇対山田が因縁の対決だったからこそ。
ここで、谷脇くんが退いたことが、勝負の流れを、
「普通の公立対強豪私立」
という普通の図式に戻してしまったのかもしれない。
彼らが、お互いに意識していたからこそ、この勝負はここまできたし、
それがなくなったことで、また、交代のために一呼吸置いたことで……
山田投手が落ち着いてしまったことで勝負あり、だったのかもしれない。
そう、ここが物語の最高潮だった。
代打市岡、サードゴロ。
高校野球ではお約束のヘッドスライディング。
3アウト。
試合終了。
「強豪私立によく食い下がった弱小公立」
その図式だけでも、なかなか見ごたえのある高校野球だった。
しかし、谷脇涼太のこの活躍は、それを超えるものだった。
彼がグラウンドに立てば何かが起こった試合終盤。
あの試合、瀬谷高校は、谷脇涼太は、大和スタジアムの4000人、満員の観衆を魅了し、支配した。
この健闘が、ただその場に居た4000人にしか伝わっていない、というのが悲しいくらいに。
当日、瀬谷高校は体育祭で、ブラスバンド、チアガール、野球部関係の生徒以外の多くは、この試合を見ていない。
彼らが、これだけの試合をしながら、仲間にすらそれが伝わっていないのだ。
ぼくの原稿も3ヶ月も遅れたけれども。
それでも、しっかり記録を残そうではないか。
瀬谷高校の2016年の夏は、どこよりも熱かった。
どこよりも堂々と戦った。
それだけは、語り継いでいきたい。