旅行のどこが好きなのか答えられない理由が分かった
私は旅行が好きではあるが、特定のものを目当てにしているわけではない。
旅行が好きというと、大抵はショッピングやグルメなどの大目的があるか、城や自然の風景など特定のものに関心があると思われがちだが、それがないのである。
良いものがあれば買いたいし、おいしいものがあれば食べたいし、城やいい景色があれば観に行きたいが、別にそれらがなくてもいい。
なぜ旅行に行くのかは以前整理したことはあったが(https://note.com/ninfea85iri/n/n1811f6148cde)、自分が旅行中に何を好んでいるかは整理したことがなかったし、自分が旅行で何を楽しんでいるのかはよく分かっていなかった。
ただ最近、何が好きかふと気づいたので自分の中で整理する目的も兼ねてまとめておきたい。
私は、訪ねた先の「物語性」にひかれているのだ。
これだけだと何のことだかさっぱり分からないので細かく説明していく。
岐阜県の岩村。ここを例にして「物語性」について見ていこう。
岩村をごく簡単に一言で説明すると、岩村城の城下町だ。岩村城は、鎌倉時代に建てられ明治時代に廃城令で消滅するまで生き延びた長い歴史を持つ。マチュピチュに例えられる石垣が有名だ。
岩村城の城主として有名なのが「おつやの方」だ。城主の遠山景任が病死したあと、妻であるおつやの方が城主となった。女性で城主となった珍しい人物で、武田家家臣の秋山虎繁に攻められた際には彼と婚姻を結ぶことで戦火を回避したが、最終的に虎繁もろとも織田信長に処刑された。
城が建てられた以上そこでは多くのできごとが発生するし、城を治めた歴代の城主にも様々な人生がある。そのひとつひとつのできごとが物語である。
物語になるのは、城や城主に起こった史実のできごとだけではない。
岩村城のすぐ近くにある霧ヶ井。敵が攻めてきた時に秘蔵の蛇骨を投じると、霧におおわれて城を守ってくれるといわれている。大昔の人によって作りだされて現代に残っている、現実には起こりえない作り話も物語だ。
もっと小さな物語でもいい。これは同じく岩村城の敷地内にある昇龍の井戸。山頂にあるにも関わらず決して枯れないといわれている。霧ヶ井と比べると現実的な話だが、大昔の人間が「この井戸、山頂にあるのにいくらでも水が出てくるな」と思っただけの話が今でも伝わっているということが、とても面白い。
人間の歴史は権力者だけでは語れない。岩村城の下は城下町となっており、多くの人が暮らしていて、当然無数の物語が残っている。
加納家。岩村藩の命令で鉄砲鍛冶をしていた。
勝川家。江戸時代末期に栄えた商屋の家で、使用人の部屋や書院を備えている。
三方向が窓になっており明るい娘の部屋や、使用人たちの部屋などはそれぞれ特徴があり、彼らが生きていた痕跡が現代まで残っている。
土佐屋。藍物業を営んでいた商屋。今でも藍染工場が残っている。
岩村醸造。1787年創業の酒蔵。年貢として納めていた米から酒造を始めたのが始まりだという。
かつて使っていたトロッコの線路がそのままになっている。建物にも物語が残っている。
木村邸。江戸時代中期から末期に栄えた問屋。藩の財政がピンチになるたびに御用金を納め、藩主がたびたび訪ねてきたといわれる。
やはり残っているのは裕福層の家ばかりだが、庶民ひとりひとりにも人生があり、その痕跡が物語として残っている。
近代の人物の物語を垣間見るのも面白い。木村家のおばあさんは木村邸内の蔵の2階に増築した老松小屋というところで暮らしていたが、世界中から集めたものをコレクションしていたという。母屋から離れた蔵の上にあることもあり、秘密基地みたいだ。
松浦軒本店のカステーラ(写真左)。江戸時代岩村藩の御殿医である神谷雲澤が、長崎から帰ってきた際に松浦軒本店の先祖に製法を伝えたことが始まりとされ、現代でも江戸時代の製法で作っている。現代のカステラより軽くてあっさりとした印象だ。このように、名物にも誕生までの物語が隠れている。
城・史跡・歴史上の人物・町並み・食べ物などひとつひとつはばらばらで共通点はないが、すべてのものには物語が存在している。
私はその「物語性」にひかれて旅行しているが、物語を内包しているそれぞれには一見すると共通点がないので、自分でも何が好きなのか分かりづらくなっていて、だから自分でも気づけなかったのではないかと考えている。
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