方向音痴が崖のぼる
旅行中に崖をのぼりがちだ。
といってもロッククライミングに挑戦しに行っているわけではない。
方向音痴なので、自分が崖のぼりをしていることに気づかず「はあはあ、ここは過酷な道だなあ」と崖をのぼってしまうのである。
嘘つけ、と思うかもしれないが本当だ。
突然だが、ここは埼玉県の長瀞である。山に囲まれており、町の中央には荒川が流れている。東京都民がお気軽に自然を満喫できる町だ。
今回は、河原にある岩場の一部に紅簾石片岩があると聞いてやってきた。
簡単に説明すると、石英の中に紅簾石をふくんでおりかすかに赤く見える岩のことだ。
ナウマン象の名付け親として有名なナウマンも、「これはめずらしいゾウ」といいながらわざわざ見にきたという。語尾にゾウをつけたのは嘘だが、見にきたのは本当だ。
長瀞ラインくだりの乗り場のすぐ近くと聞いたのだが、紅簾石片岩への道が見あたらない。行こうとすると、どうしても崖にはばまれてしまう。
(ははあん、崖をのぼれということか)
理解(誤解)した私は、さっそく崖をのぼる。
崖といっても、高さ3〜4メートルくらいで段々になっている。階段のようにのぼることはできないが、リュックを背負っていても素手でのぼれそうだった。
3分ほどかけて崖をのぼる。崖には小さな割れ目があり、下を50センチくらいの小さな小川が流れ、荒川に合流していた。
私は軽く助走をつけてえいやっ、と飛び越えた。別に立ち幅跳びでも越えられるのだが、万が一失敗すると3メートルも下の川に転落してしまうので勢いがほしかったのだ。
小川を乗り越えると、そこに紅簾石片岩があった。
写真だと分かりづらいが、日光を反射し、わずかに赤くかがやいている。
すぐ近くにあったポットホール。穴に岩が入り、川の流れで回転し続けてできた、自然の芸術だ。
ナウマンも、100年以上前にここに来たのだ。
たぶん、小川の前で私のように助走をつけながら。
そう感慨にふけりながら岩の上を進んでいったところ、普通に出入り口があった。
たぶん、ナウマンは崖のぼりせずにここから入ったと思う。
少し長くなってしまったので、愛知県・篠島で清正の枕石を見るために崖のぼりをした話はまた今度の機会に書くことにする。