恐ろしすぎるよゆもみちゃん
まずは下の写真を見てもらいたい。
彼女をご存知の方はどれくらいいるだろうか。たぶん今(2018年11月)であれば、日本人の10パーセントくらいはすでに知っているだろう。
彼女は草津温泉観光大使のゆもみちゃんだ。
22歳(自称)で残念ながら(?)既婚者であり、2歳の娘がいる。頭でっかちなフォルムからは想像もつかないキレキレの動きでダンスをおどって愛想をふりまき、太い指でペンをつまんでさらさらとイラストを描く。お調子者で後先考えない行動をするのでスタッフからしかられることも少なくない。独特かつハイテンションな文体でツイッターをこまめに更新するのも忘れない。映画『お前はまだグンマを知らない』では本人役で女優デビューを果たした。全国に仲のいいゆるキャラ仲間がいるが、同郷のぐんまちゃんやくさヤーマン(新島村非公認ご当地キャラ)とは特に親交が深い。
長々と書いたが、つまり、かわいい。
私も草津温泉に行ったことはあるが、残念ながら彼女とはすれ違いになってしまった。彼女のツイッターをフォローしその軽妙な文体やキュートな写真を楽しんでいたのだが、なかなか草津温泉へ行くタイミングがなく、直接会うことができなかった。
(※ぐんまちゃんは桐生駅の近くでなぜかすれ違ったのに)
そんなある日、草津温泉へ行かずにゆもみちゃんと会える機会がやってきた。
東京ビッグサイトで開催される旅行業界向けの展示会、ツーリズムEXPOにゆもみちゃんが出演することになったのだ。
私はカメラを持って東京ビッグサイトへ走った。
普通にいた。
ゆもみちゃんがゆもみ板を両手に持っている――ゆもみちゃんだけに。
草津温泉界隈ではアイドル並みの人気をほこるゆもみちゃんは、ここでも熱狂的なファンに囲まれていた。40代くらいのおば様が「これっ……、読んでください!」と封筒に入れた手紙を押しつけたり、「ゆもみちゃんのぬいぐるみ持ってきたの!」と、ゆもみちゃんへの愛をアピールしている。みんななかなか年季の入ったファンのようだった。
(私も負けていられない)
とはいえ、ファン歴が浅く生で彼女を見るのはこれが初めての私にとって、昔からのファンの前で彼女に愛をさけぶのはハードルが高すぎた。それに、私は1人だ。1人できている奴が「ゆもみちゃん、好きだー!」とさけんだりしたら、スタッフにひっぺがされて警備員に連行されてしまう。
なので私は、スタッフに
「……アッ、サーセン、シャシンイッショニ、オネガイシャス」
とゆもみちゃんとの写真を撮ってもらうようお願いすることしかできなかった。
スタッフにカメラを渡し、ゆもみちゃんに近づく。ゆもみちゃんの巨大な目(ツイッターによると彼女はバケツでアイボンをしている)が私をとらえる。相変わらずの満面の笑みだ。
(私はどうすればいい?)
ゆもみちゃんは22歳(自称)の女の子だ。私がおば様だったら「キャーカワイー」と抱きつけばいいが、私はおば様ではない。
私が「カッ、カワイイッスネ、フヒヒ」と抱きつこうものなら、背後のスタッフにひっぺがされて草津温泉の湯畑にしずめられてしまうだろう。
私はあいまいにほほえむと、撮影のためにゆもみちゃんの横に並んだ。スタッフがカメラを構える。
その時だった。
ゆもみちゃんが腰に手を回して抱き寄せてくる。
(えっ――)
そして、周りから見えないように、背中をこしょこしょっとくすぐってきたのだった。
(ちょっ……、ゆもみちゃん……!)
パシャッ!
私はスタッフからカメラを返してもらい、ゆもみちゃんを囲む人混みの中へもどった。
一瞬の出来事だったが、心は完全にゆもみちゃんに奪われていた。
ゆもみちゃんはすずしい顔をしてファンサービスをしていた。
湯をブース外にまき散らしたり来場者の荷物に放りこんでスタッフから「それ県からの借り物なのでやめてください」とマジの注意を受けるゆもみちゃん。
湯を食べてリスみたいになるゆもみちゃん。
近くにいたぐんまちゃんに絡みにいくゆもみちゃん。
草津温泉を一気飲みして嘔吐し、吐き戻したものを客へまき散らすという過激なパフォーマンスをするゆもみちゃん。
(何て恐ろしい子なんだ、ゆもみちゃん……)
「スタッフに構わず暴走する小さな女の子」から「緊張するファンを優しく導く大人の女性」まで巧みにキャラを使い分けるゆもみちゃん。
彼女がぐんまちゃんを超え、日本を代表するゆるキャラになるのもそう遠くないだろう。