古い建物の「防火」を観察する
木造建築が多い、建物が密集している、そもそも地震が多いのでそれに伴う出火が発生しやすいなど、何かと火事に悩まされやすい条件がそろっている日本。
それゆえに、古くから残る建物には、何かと火事への対策がなされているものが少なくない。
今回は、日本の歴史的に貴重な建物の防火に関する工夫を、私が日本各地で撮影した写真で見ていこう。
日本の古い建物の火事対策というと、まず思いつくのはなまこ壁だろう。
簡単にいうと、瓦を壁に貼って、その継ぎ目を漆喰でふさいだものだ。
要するに瓦が隙間なく貼られた壁なので、火に対しては高い耐性を誇る(なまこ壁には塩害や台風対策の効果もあるがここでは割愛)。
なまこ壁はもはやどこが有名とかいうレベルではなく、日本全国のいたるところで目撃できる。
静岡県・松崎の伊豆文邸。
土台は石造で、壁も一面なまこ壁になっている。
金属でできた窓の扉を閉めてしまえば、ちょっとやそっとでは炎上しなそうだ。
これは、同じく松崎の近藤平三郎生家。
上から下まで見事ななまこ壁だ。
豪商の蔵などではこて絵などの漆喰細工を施すことにより、実用性だけでなく財力のアピールをすることもある。
ちなみに松崎では、江戸時代末期〜明治時代に入江長八というこて絵職人が活躍していた。
掛け軸を紙の部分や虫食い部分までふくめて漆喰で再現したり、竹の額縁に入った絵画を作ったら本物の竹と勘違いされて防腐剤を吹きつけられてしまったりと、神業的な技術を持っていた。
なまこ壁でなくても、漆喰の壁でも十分燃えにくくすることができる。
これは富山県・高岡の菅野家住宅。
壁を黒漆喰で覆っている。
窓には蔵のような分厚い観音開きの扉がついているし、いざという時は正面入口と中庭を鉄板貼りの防火戸で封鎖できるそうだ。
さらに、建物の側面はレンガの壁により隣からの火を防いでいる。
ついでにいうと屋根には火除けの守り神とされるシャチホコがついている。
周囲からの延焼に対してはまさに鉄壁だ。
周囲からの火を防ぐというと、うだつについてもふれなくてはいけないだろう。
これは岐阜県・美濃のうだつのある町並み。
少々写真が分かりづらく申し訳ないが、屋根のはしに、隣の家と壁をへだてるかのようにうだつが作られている。
元は防風や飾り用途だったが、次第に隣からの火を防ぐ用途でもつけられたらしい。
ただ、なまこ壁や漆喰の壁やうだつでもらい火を防ぐのもいいが、自分が失火するというリスクもある。
どんなに外側を固めても、内部から火が出たらとめられない。
これは愛知県・有松の岡家住宅。
江戸時代に丸屋丈助という人物が絞り染めを販売していた。
正面の間口を解放して商品を並べ、通行人が品物をながめられるようにしていたという。
この建物の台所は、壁が土で覆われている。
いや、壁だけではない。天井近くの木の柱まで、念入りに土で覆われている。
出火場所になりやすい台所に対して念入りに対策が施されている。
大量の品物と儲けが集まる建物だけに注意が払われるのも当然かもしれない。
現代ほど消火の技術が発達していない時代に作られた建物だけに、みんな様々な工夫をこらしていたようだ。古い建物を見学する際は、火事対策に注目すると面白いだろう。
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