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もしかしたら私はとうもろこしかもしれない
とうもろこしって、夏だ。
最近とうもろこしがスーパーに並んでいるが、それを見る度なんとなく心晴れる気持ちがする。
手を伸ばそうとする。
でも届かない。
ありふれた恋愛ソングの歌詞みたくなってしまったが、私は毎度そっと手を引っ込める。
あんな黄色の笑顔を振りまいておいて、そして齧り出せば一瞬で儚く消えるくせに、あの高貴なお値段を自分に貼り付けているのは如何なものか。
まぁ仕方がない。
老若男女に好かれているのはそれなりに理由があるのだろう。
彼らも彼らで努力しているのかもしれない。
そんなこんなで私はとうもろこしが好きだ。
私だけではないだろう。
あらゆる場所で主役になり得るとうもろこし。
BBQでもお祭りでも、君がいないと始まらないんだよと言われんばかりのとうもろこし。
パティシエにもシェフにも愛されるとうもろこし。
あぁ羨ましい。
つい本音が漏れてしまった。
とうもろこし。
ちょっと呼びたくなる、とうもろこし。
そんな茶目っ気のある名前を振りかざして、彼らは夏、街を闊歩する。
陽光に照らされるその黄色は辺りいっぺんの温度を一度上げる。
美しい黄色に出逢うために人々は緑色の洋服を脱がせる。
それがまた、とうもろこしを魅力に映している要因の一つなのかもしれない。
でも、ふとした時に見せる顔に、翳りを感じることがある。
彼らは、分かっている。
愛されているのは表面だけなんだということを。
大多数に好かれようとすればするほど、自分からは何かが消えていく。
それに気付いているのかいないのか、でも気付いていたって見て見ぬふりをする。
そうするしかないじゃないかって。
目の前をカラスが横切っていくように、一瞬だけ笑い皺が少し薄くなる瞬間がある。
誰にも見せないその瞬間。
次の瞬間にはもう黄色の笑顔を振りまいているのだから、やっぱり彼らはプロなんだと思う。
仕事が終われば残るのは、短く乾いた溜め息。
それから白昼夢にふける。
目を瞑り、現実と妄想の世界の狭間で何かに揺られている。
もしかしたら私は、私たちは皆、とうもろこしなのかもしれない。