若手研究者を支援しないディープテック支援に意味はあるのであろうか? -Science Hive 2025に向けて

最近は

「ディープテックスタートアップが日本再興の鍵!」

なんて言葉はよく聞きます。それはよくわかる。ではディープテックスタートアップの僕なりの定義をざっくり言うと

J-curveを描くような最初の段階から開発コストが非常に高く、ただそのリスクの分、大きな成長と大きな利益をもたらすことができるようなスタートアップ

と考えています。(詳しい定義は最後に資料を出しますので、そこをご覧いただきたいです。)

ただ人によって定義は違って、例えばDBJが出しているような定義は下記のようなものもあります。

DBJ 資料 "「ディープテック振興を核とする東北地域のイノベーション・エコシステム構築に向けた基礎調査」"URL
NEDO資料 ”ディープテック・スタートアップ支援事業 及び GX分野のディープテック・スタートアップに対する 実用化研究開発・量産化実証支援事業 について” URL

まとめると

  • 特定の自然科学の分野の研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術が元になっている

  • そしてそれを経済社会課題の解決によって社会にインパクトをもたらす可能性のある技術

ということであります。このように国としてはディープテックスタートアップにお金を出そうとしています。
なるほど。ではお金があるってなったとして、誰がやるのだろうか?という疑問が残ります。。

スタートアップ育成5か年計画計画を見てみると人材という意味で下記のような記載がありました。

”スタートアップ育成5か年計画” URL

なるほど、博士人材の確保が特に重要であるようです。ではなぜその後の結びが「新卒一括採用偏重の変革」なのだろうか?下記の画像をご覧ください。

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 2023年1月19日資料 URL

総合科学技術・イノベーション会議は現状の科学政策への影響力が強いと考えることができるので、これが理論的な主柱になっている可能性があります。

ここで僕が気になるのは「果たして就職活動をしていた修士の学生が本当に起業するのか」という点です。この画像は仮定として「修士から卒業した学生はきっと博士に行ったら(いい感じに)起業してくれるだろう」があると考えられます。

経済学にいた端くれとして、正直上記の議論をデータなどをきちんと精査せずに主張するのは心苦しいです。ただ、直観的に、現状の仮定がこれまでの現場の感覚には少し違うように思えます。

現場感を見て現状の政策と異なり、下記の仮定を感じています。(この考えが正しいのか、間違っているのか論文等で話されているところがあればぜひ伺いたいです。)

  • 就活の安定によって修士卒から博士卒へとキャリアを従来から変化した層が起業する可能性は、従来の博士人材の学生と変わらない、もしくは低い可能性がある。

    • 例えばこちらの記事によれば(良い調査と言えるかは精査が必要だが)、将来の仕事や待遇に期待を持てないという理由で博士を断念している。

    • 待遇を期待したい人がとてもリスクの大きい起業を取れるだろうか

もちろん非常に科学的に議論していないため(それはお互い様かもしれない)、論理の飛躍があるものの、もし博士というリスクを取れるのであればその時点でもう起業家に向いている可能性があります。何より、僕の周りの優秀な人は(すでに)博士に行っているように感じます。

ここまで来て僕の主張は下記です。

まずはお金出して母数を増やしましょう!博士人材を増やしましょう!

おそらく今の方法はお金をシーズベースで出すなど、立脚が技術です。しかし、それを生み出すところから考えなければきっと先細ることは見えています。おそらくそれは国の方もご存じだとは重々承知です。ただ何か物事が動くとなった時には、人がいる。技術があっても人がいなければ動くことができないのが、お金であり、リソースだと思います

現在のお金の流れを見ると、”AI”や"量子"などファンシーな単語に対してどんどんお金がついている気がします。技術があり、その後人が来ているようです。ただ、本当にディープテックスタートアップを増やしたいのであればまずは、技術ではなく、人にかけるべきではないでしょうか?例えば最近少しXで話題となったnatureの記事にも人にかけるべきとの旨が書かれています。

資料: "Japan must rethink its priorities in research funding"

博士人材がディープテックスタートアップの一翼を担う、だからその支援をする。その流れは私の中で同意した上で、人にかける資金はどのようなふうになっているのでしょうか。

それに関しては前回のScience Hiveでの記事にも書かせていただいたが、どうしても実績などを考慮してシニアに大きな資金は流れてしまう。研究資金は、(もちろん取っている方もいるだろうが)基本的には若手主体にはなりにくいシステムをしている。またシニアがとってもそのチームにいる若手がその資金を流してもらえるのもまた確かだと思います。

ただ、例えばここにあるような博士学生に対してはどうでしょうか?基本的なものと言ったら学振だと思います。学振とは日本学術振興会によれば「優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与えることにより、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的」につくられた若手研究者支援であり、基本的な額は20万円です。大きい額かというと、他の道にいった同期が新卒でもらえる額よりかは少ないことは多いと感じます。

私は決して、「学振は少ない、だからアメリカのようにPh.D.に給与を出すのが普通だ!そうしろ!」というのを述べたいわけではないです。アメリカと日本という国の違いに加えて、考慮しなければいけないものが多すぎると思います。また、形式を考えれば、給与として学振は考えられることもまた否定できないです。(ただし全ての学生が受け取れるわけではないし、物価を鑑みても額が同じ水準かは定かではない)

ただ、一般的に考えて、若手の減少している日本で、博士学生をお金の面で一定の魅力的にしなかったり、その後のキャリア支援をしなかったりするのは長期的にディープテックスタートアップを増やそうとするのなら悪手というのはこの流れから述べれそうな気がします。

だからこそ、未来の社会を引っ張る人として博士人材にかけるシステムを自分たちで作れないのか、それが次への振りとなります。


Science Hiveへの想いと今年度の「Science Hive 2025」に向けて

Science Hiveへの想い

Science Hive は下記のようなモチベーションで始めたものでした。

現状の仮説としては、”市井の人々はその研究者の想いやその発信によって心を動かされ、Vtuberのように研究者が”投げ銭”を得ることができる”という仮説です。言い換えれば、クリエーターエコノミーのようにリサーチャーエコノミーを創造できるのかどうかというところが根幹となる問題感です。

URL

自分たちは金融資産となるようなリサーチャーエコノミーを立ち上げられないかと思っていました。それがDeSci やその中で多く挙げれていたMolculeのような取り組みで挙げられるものでした。

最初からうまくできないと思っていたので、Gitcoinのような仕組みに似た仕組みをしようと、下記のようなモデルで実施しました。オーディエンスの投票量に応じて、その総額を分配する。なので、従来の奨学金ピッチのような"winner takes all"は起こりにくいようになっています。2回目は、それに加えてNFTにて支援証明書を出しました。

しかしながら実際にはそんなふうにうまくはいきませんでした。2回目もうまくできたかというと、実施できただけだった。もっとブロックチェーンと結びついたアプリケーションすべきだったかもしれない。ただ自分はあくまでも研究視点から来た人間で自分にはそれを実行し切るほどの強さはありませんでした。

その中でも一つだけブレたくないことがありました。続けることです。もちろん、僕が関わるのを諦めたこともあったかもしれないです。それは申し訳ございません。ただ自分で始めたことは大体は落とし前をつけるか、細々ながらできることをするように心がけています。このプロジェクトも辞めたくなかった。若手支援は絶対にしたかった。

もともとミツバチという若手研究者コミュニティを続けて運営してきました。それが主体となっていろんなことを分化させていったのが今の自分です。そのコミュニティを始めた理由も、このプロジェクトを始めた理由もただ一つ、「いろんな研究を知りたい!」でした。

その「研究」も、若手がいないといけないのは自分のような若手から見ても明らかでした。研究の持続可能性を保障するためには、若手支援は欠かせないと感じていたからです。やり続けるのは大変だ、でもどうしたらいい?その中でクラウドファンディングをして、様々な人を集めたのが昨年度のマレーシアでのAsia Science Hiveでした。

「きちんとしたモデルがないと」「領域を絞った方がいいよ」「実績がないとね」

たくさんのことをアドバイスいただきました。どれも間違っていないと思います。ただ、僕は「どんな方法を使っても資金を集め、それを若手に渡す」ことが大切だと思っています。Done is better than perfect。誰が言ったのが最初なのか、自分はわかっていませんが、この言葉がこのプロジェクトには似合います。

そして、さまざまな方のご協力のおかげで今回のイベントも実施ができる運びとなりました。THE SEEDの廣澤さん、東大の馬場先生など枚挙にいとまがありません。

「Science Hive 2025」は今年実施します。


今年度の「Science Hive 2025」に向けて

今年度はイベントとして進化ポイントがあります。それは共催のweeさんと共にさまざまな企業が関わるような機会へと変化した点です。それまでの若手研究者や学生のピッチに加えて、素晴らしいディープテックスタートアップや大手企業の皆様にご参加いただき、セッションやインタラクティブなワークショップなど行う予定です!

企業だけでなく、起業前の博士学生や宇宙や合成生物系の学生団体をお呼びする予定です!世界で活躍されている方もいらっしゃるのでぜひお話ししたい方はお越しいただけると幸いです!

今回の関わっていただいている企業の皆様一部抜粋

詳しいセッションの内容については下記のサイトをご覧ください!

たくさんの方にお関わりいただき、非常に良い会になることを確信しております!

イベント情報

HPより

最後に

ここまででご興味持ってくださった方はぜひ上記のLuma(Peatixのようなサイトです)よりご登録ください!

来年以降も頑張って実施していきます。大きくして、支援できる方も増やしていきたいですし、もっと強力に学振とはまた違った資金源として博士学生を含む若手研究者が活躍できるような社会へするために、頑張っていきたいと思っています。

それでは。

根本


参考資料

ディープテックについて

雑記

現在の行政制度と個別レベルの研究者支援はマッチするのか、それは疑問です。

いいなと思ったら応援しよう!