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【コラム】 歴史で紐解くPokémon Trading Card Game Pocket[ポケカアドベントカレンダー 3日目]

「ポケカアドベントカレンダー(ポケカAC)」という企画の一環で、今年も記事を書きました。
なにものかと申します。

2024年のポケモンカードゲーム(ポケモンカード)における大きなトピックの一つとして、ゲームアプリ「Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)」のリリースを語らないわけにはいかないでしょう。
ポケモンカードに関わる他の全てのプロダクトと同様に、ポケポケもまたそれまでのポケモンカードの歴史の集大成です。
今回はこのポケポケにおける「バトル」に注目し、具体的に過去のどのような要素が織り込まれ、それがどのようにゲームの魅力に繋がっているのかについて綴ってみようと思います。

ポケカアドベントカレンダーとは

クリスマスまでの日数を数える「アドベントカレンダー」に擬え、記事を1日に1件ずつ投稿していくオムニバス形式の企画、そのポケモンカード版です。
詳しくは、主催のいちょーさんの記事をお読みください。

自己紹介

改めまして、なにものかと申します。
ポケモンカードが発売された1996年からポケモンカードに親しんでおり、全てのシリーズを現役で遊んできました。

ポケポケとは

ポケモンカードをベースにしたスマートフォン向けゲームアプリ、言うなれば「仮想ポケカ」です。
パックを開封してカードをコレクションし、デッキを作って対戦するというポケモンカードの楽しさをスマートフォンで体験することができます。

ポケポケにおけるバトル

ポケポケのバトルモード

ポケポケはポケモンカードのコレクションを手軽に体験することを中心に設計されており、バトルはその付随要素のような位置付けになっています。
そしてスマートフォンというデバイスでの操作を前提とするため、限られた表示領域で不自由を感じさせないこと、日常の隙間時間で触れられるようにすることを想定する必要があります。
これらの要因により、ポケポケにおけるバトルはこれまでのポケモンカードに比べてかなりシンプルなゲームデザインとなっています。
それは、ポケモンカードの楽しさが失われないようなギリギリのラインでシンプルに研ぎ澄まされたゲームデザインです。

これまでのポケモンカードとポケポケの相違点と共通点

現在の最新シリーズである「ポケモンカードゲームスカーレット&バイオレット(略称「SV」、2023年)」をプレイしている人は、「今のポケカと違う」ことに新鮮さを感じていることでしょう。そして、ポケモンカードをずっとプレイしている人なら、これらの要素が「過去のポケモンカードに似ている」ことに気が付いたことでしょう。
デッキの枚数やエネルギーゾーン、ポイント制の勝利条件などのルール上の違い。リメイクされたカードの効果や定番カードの有無等のカードプールの違い等。これらはプレイヤーのバックグラウンドによって見え方が違っているはずです。ここからは僕の見たポケポケの「違う」「似ている」について、続けて語っていきます。

「ポケモンカード★VS」に立ち戻ったボリューム設計

ポケモンカード★VSのデッキの例

ポケポケにおけるバトルは、「同名カード2枚、合計20枚(+エネルギー最大3タイプ)」のデッキで3ポイント先取を競う形になっています。一方、これまでのポケモンカードは、「同名カード4枚、合計60枚」、サイド6枚先取が基本でした。
そして、今や半ば過去のものとなりつつありますが、かつては「同名カード2枚、合計30枚」、サイド3枚先取というデッキでの対戦が広く親しまれていました。それが「ハーフデッキ」です。実際のところ、ポケポケのデッキ構築の感覚と対戦のボリュームはハーフデッキのそれにかなり近いです。

ハーフデッキは、「ポケモンカード★VS(略称「VS」、2001年発売)」シリーズで確立された、よりカジュアルな遊び方です。おおよそ「ポケモンカードDPt(2008年発売)」の頃まで、スターターデッキ、大型公式大会の予選、ジュニア向け大会のレギュレーション等に採用されていました。
ハーフデッキが生まれた「ポケモンカード★VS」とその直後の「ポケモンカードe(略称「e」2001年発売)」の2つのシリーズは「ポケモンカードNEW GENERATION」と銘打たれ、ハーフデッキという遊び方だけでなくウラ面のデザイン変更という大きな方針転換を伴って発表されました。その意図について、当時の制作ディレクターであった赤羽卓美氏へのインタビューからハーフデッキに言及した部分を引用します。

赤羽(前略)「ポケモンカードの原点である"対戦のおもしろさ"に立ち返り、もっとカジュアルに遊べるようにしよう」、これが「ポケモンカードNEW GENERATION」を制作した意図のひとつです。
―そのひとつが30枚デッキの採用ですね。
赤羽 そうです。60枚デッキは確かに戦略を練ることができるという良さがありますが、対戦が長くなるし、コンボなどカードの使い方が複雑になるという点もありますよね。『ポケモンカード★VS』と30枚デッキの登場によって、今まで以上にポケモン同士で、スリリングなかけひきを楽しめるようになります。

2001.7.1『ポケモンカードトレーナーズ Vol.12』, p.61

ここで語られている60枚デッキと30枚デッキの関係性は、そのまま現在のポケモンカードとポケポケにも同じことが言えます。VSとポケポケは同じような意図をもって開発されている、とも言えるでしょう。開発時にどの程度意識されていたかは定かではありませんが、この2つのゲームのボリュームが同じような仕上がりに落ち着くのはある種必然でもあります。

余談ですが、個人的には「02春ハーフ」というレギュレーションのハーフデッキがポケポケに最も近いです。「02春ハーフ」は、「バトルロードスプリング2002」というかつての大型公式大会の予選で採用されていたレギュレーションの通称です。
実のところ、VSはカードプールに進化カードやサポーターがない極度に単純化されたポケモンカードなので、そこに「ポケモンカードe 第1弾」の進化ポケモンやサポーター等が加わることでゲームバランスが少しポケポケに近づきます。機会があったら是非プレイしてみてください。

「ミニマムルール」にも通ずる最小限プラスαの構成要素

ミニマムルールの盤面

ポケモンカードとポケポケにおける最もわかりやすいルールの違いは、勝利条件となる「サイド」が「ポイント」に、「エネルギーカード」が「エネルギーゾーン」からのエネルギーに置き換えられていることでしょう。
その他、ベンチが「5体」から「3体」までになっていること、手札の枚数が「最大10枚」に制限されていることでしょう。
これらはスマートフォンというデバイスの小さな画面で操作すること、ゲームの難易度を下げることの両面で効果のある施策です。そして、アナログゲームであるポケモンカードでも、同じようにゲームのルールを大幅に簡略化した遊び方があります。それが「ミニマムルール」です。

ミニマムルールは、ポケモンカードの対戦の最もシンプルと言ってもよいルールです。かつてマクドナルドで限定販売された「ミニマムパック(2002年)」で遊ぶ際に使われました。デッキはポケモン3枚とエネルギーカード3枚のみ、山札とサイドとトラッシュがなく、ベンチは2体まで、手札はエネルギーカード3枚まで、相手のポケモンを1体きぜつさせた方の勝ち、という形で極端に簡略化されています。流石にここまでやると戦略性は大幅に低下し薄味のゲームになりますが、駆け引きの楽しさがギリギリで失われていないことに驚かされます。

ポケポケがミニマムルールの何かを参考にしているのかどうかはわかりませんが、「引き算」のゲームデザインの考え方は脈々と生きています。

「ポケモンカードゲームADV」に寄ったゲームテンポの緩急

ポケモンex(エクストラ)の例

きぜつしたときにサイドを2枚取られる特別なポケモンは、これまでに何種類か登場しています。最新シリーズであるポケカSV(2023年発売)では「ポケモンex(イーエックス)」が登場し、ポケポケにおいても同じくこの「ex」が採用されています。
先ほど「ポケポケのボリュームはVSに近い」という話をしましたが、そのサイド3枚のハーフデッキ戦でサイド2枚のポケモンの運用を初めて成立させたのが「ポケモンカードゲームADV(略称「ADV」、2002年発売)」と「ポケモンex(エクストラ)」です。

ポケモンex(エクストラ)は強力なスペックとサイドを2枚取られるリスクを併せ持ち、「サイドレース」という言葉で知られるようにゲームテンポに緩急を生み出します。その開発意図について、当時の制作ディレクターであった赤羽卓美氏はこのように語っています。

とにかく強力な能力を持っている。ただし、(中略)ルール的な弱さが共存するようなカードを登場させようと考えています。目標は、ゲーム性が破綻することなく、初期のポケモンカードにあったダイナミックな能力を積極的に取り入れていくことです。

2002.11.5『ポケモンカードトレーナーズ 2002 Vol.19』p.3

ポケモンex(エクストラ)は、ADVの一つ前のシリーズであるeシリーズが余りにも単調なゲームだったことの反動で生まれた側面があります。赤羽卓美氏は同シリーズを振り返って下記のような発言も残しています。

攻略しがいのあるカード環境は構築できたものの、わかりやすい勝ちパターンへつながるカードが見つけにくくなってしまったかもしれません。(後略)

2002.11.5『ポケモンカードトレーナーズ 2002 Vol.19』p.3, 株式会社ポケモン

ポケポケはそのコンセプト上、あまり複雑な性能のカードを収録するわけにはいかないため、ダイナミズムとゲームバランスを両立させる装置として高い数字を持つ「サイド2」のポケモンは誂え向きです。ポケモンex(イーエックス)を採用した3ポイント制のポケモンカード、というポケポケのゲームバランスの調整にはこのADV(とその後のポケモンカードゲーム(PCG))の知見が受け継がれているような気がします。当時のプレイヤーなら、ポケポケの「サーナイトミュウツー」を見てADV3弾環境の「バシャレック」を思い出さずにいられないはず。強制いれかえ対策に化石が入っているところなんかそのまんまですし。

「ポケモンカードゲームDP」に倣ったタイプ相性バランス

ポケモンカードゲームDPのポケモンの例

ゲーム「ポケットモンスター」シリーズのタイプ相性によるダメージ量の変化は、ポケモンカードにおいては「弱点(2倍)」「抵抗力(-30or-20)」で表されてきました。ポケポケにも弱点システムは継承されていますが計算は「+20」で統一、抵抗力は設定されていません。

まず弱点についてですが、「ポケモンカードゲームDP(略称「DP」、2006年)」において初めて弱点計算に加算方式が採用されました。HPや進化の段階に応じ「+10」~「+30」までの調整がなされていました。直後の「ポケモンカードゲームLEGEND(略称「LEGEND」、2009年)」では再び乗算方式に戻ってしまっており、一連のゲームデザイン上の動きにどのような意図があったのかはわかりません。プレイヤーの目線から強いて言うならば、頭一つ抜けて強いポケモンがリリースされてしまった場合に弱点のタイプのポケモンによる歯止めがかけられなくなる、というデメリットは気になるところでした。例えば、「ハピナス(DP2)」等は素のHPが130もあって「+30」の闘弱点があまり意味を成さず、対応に窮した記憶があります。

抵抗力の方については、これまで「-30」だったものが同じくDPシリーズで「-20」に調整されました。ポケポケではパラメータとして存在しません。

これらのタイプ相性については、強力なコンボで帳消しにしたり、デッキに採用するポケモンのタイプを散らしたりすることである程度対処が可能なバランスの設定がこれまでなされてきました。しかし、デッキの枚数が20枚に限られている上に安定性の観点からポケモンの色を散らすことが有効でないポケポケにおいてはプレイヤーの側での対処が難しいため、DPシリーズの実績に沿った妥当な設定が施されていると感じます。枯れた技術の水平思考、というやつでしょうか。

ポケポケはポケモンカードの歴史の集大成

「スマホ版ポケモンカード」、そう一口に言い表すのは簡単ですが、具体的に見ていくと実に細かな要素が過去のポケモンカードから受け継がれていることがわかります。今回はゲームシステム面の話に留めましたが、個別のカードのテキストに関しても実に緻密な調整が為されています。券面のデザインやイラストについても意図を感じる流用が多いですね。その辺りの話もまたの別の機会にできたらいいなと思います。よいお年を。

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