「俺の前立腺、癌やったわ」〜夫が癌になって⑨ 手術-1
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「血、見ても大丈夫ですか?」
医師に聞かれた。目の前には
ステンレス製であろうか銀色の箱。中には、全摘出された前立腺が入っている。
そこにそれがあるということを想像するだけで辛いのに、直視など出来るはずがない。
わたしは少し離れたところで術後の医師に説明をきいた。
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『「俺の前立腺、癌やったわ」
〜夫が癌になって〜』
と題した文をnoteに投稿をはじめ、第一回目である、ナンバー①の冒頭に前文を書いた。
2020年1月の某日、午前11時から、夫の前立腺全摘出手術がダヴィンチというロボットの手により始まった。
その日はよく晴れた日だった。
病院に向かう街路樹でカラスが6〜7羽遊んでいた。
病院へ着いて手指の消毒をし、
モニターの体温表示を横目に先へ進んだ。数十人もいるであろう医療事務の方。その仕事の様子を見ながら椅子に腰かけた。
すかさずわたしのスマホが「らいん」と鳴った。
三男からのラインだ。
「病院、着いたよ。今どこにいる?」と三男がわたしに聞いている。
この文のひとつひとつの文字にどれほど救われたであろう。
手術日の日は、わたしひとりで病院へ向かい、ひとりで手術が終わるのを待つはずだった。
その日は、家族の誰もがのっぴきならない事情のため、その不安な時間を誰に縋る(すがる)こともなく、過ごさなければならないはずだった。
しかし、緊急事態宣言の発令により、オンライン授業になった大学2年の三男が、スマホで授業を受けれるから、病院に行けるよ、と言ってくれた。
緊急事態宣言のおかげ…なんて言ったらばちがあたる。
だから
……言わないでおく。
ストレッチャーに乗った夫に「頑張ってね」と声をかける。観音開きのドアに夫が吸い込まれるを見送ると、
『手術中』の赤いランプが点灯。
長い廊下に置かれた待合の椅子に、長く息を吐きながら座る……いや違うのだ。
ドラマでよくあるこんなシーンは
コロナ禍のこのご時世には、
ない。
「病院の外で待っていてください。何かあったら、携帯電話で連絡します。」と看護師。
観音開きのドアが開くところを見ることはなかった。
外で待つ…なんて
なんとも変な世の中になった。
三男と2人で病院の外に出た。
さっきの街路樹には、まだカラスが遊んでいた。
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