小説 俺が「君を愛す方法」第5話
全話約23.000字で完結
第5話約2.500字
1話〜4話までのあらすじ
高校教師の俺 冬賀隼也は女子生徒有栖サナと恋仲になった。しかしそれは、偽恋愛。有栖を利用し復讐をするためだ。一方そんなことを知る由もない有栖は純真に俺に尽くす。
全て思惑どおり。
愛する妻と娘を失い、復讐のためだけに生きる俺。
そんな中、娘の柚良が生前に通っていたピアノ教室と同じ教室の少年、小田拓真に出会う。柚良はピアノ発表会で小田拓真と連弾するはずだった。
しかし連弾は柚良ではなく、別の崎田真子によって行われていたことを知る。
物語のキーパーソンである小田拓真と、崎田真子。
第5話は、風邪をひいた俺の部屋で有栖が見つけた物…からはじまる。
その後、ある事件が起こる。
第5話
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有栖は、テーブルの上に両肘をついている。頬に両方の手のひらをあて、今どきの女子高生がいかにもしそうなポーズをしてる。
じっと俺を観察しているようだ。
すりおろし林檎をゆっくり口に運ぶ様をじっと見ている。
「何?そんなにじっと見るなよ、食べにくいじゃんか!」
「分かった。あっち行ってるね。」
にやけたまま席を立った。
有栖は辺りををぐるりと見回した。
「先生?こっちの部屋、開けていい?」
「あぁ、」
何気に俺は返事をしてしまった。
《あっ!ダメだ!そっちの部屋には写真が‥‥。》
油断していた。もう、遅かった。
有栖は、すぐにそれを見つけた。俺と麻美と柚良の3人が写るごくありきたりな家族写真。
アパートに有栖が来ることなんてないと思っていたから‥‥。
不覚だった。
「えっ?この人達って?先生の‥‥?
独身じゃなかったの?独りもんだって言ってたじゃんか!」
「‥‥‥‥。いないよ。今は、ふたりとも、もういない。」
「いない?別れたってこと?」
「死んだんだ。君の学校に赴任する前の事だ。」
「そうだったんだ。‥‥。知らなくてごめんなさい‥‥。きょ、今日は、もう、帰るね。」
「あ、有栖?なんか、ごめんな。」
「またね、先生。」
「あぁ。」
有栖が帰った後の部屋は、時計の秒針がただ、カチ、カチ、と規則正しい音を響かせ、その音が胸のあたりをもやもやとさせやがる。
あさみ…ゆら…。
俺は握った拳を緩めることができずにいた。
《俺に妻と娘がいた事をこのタイミングで知られてよかったのか?計画は必ず実行しなきゃ。麻美、柚良、待ってろ。もうすぐだ》
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有栖や舞野など、3年生が部活を引退し、
受験一色になってきた頃、学校である事件が起こった。
俺の数学の授業中にイライラと貧乏ゆすりをしていた男子生徒がいた。
特に気にすることもなくやり過ごしていたが、
ふと目を逸らした瞬間、
突然、机を叩きつけて怒鳴り始めた。
「僕は、満点のはずだった!」
そいつは急に席を立って、こう続けた。
「分かってた!ちゃんと、分かってたのに!」
机を蹴飛ばし更にこう続けた。
「ただの凡ミスだろ?やり方は理解してる。
計算ミスなんて誰にでもあるじゃないか!
何故そこんとこ考慮してくれない?たかが学校の中間テストじゃないかっ!満点にしてくれたっていいだろ!満点じゃなきゃ、満点じゃなきゃ、僕は父さんに‥‥」
もう高橋の言葉は、聞き取れない。
誰に聞いてもらいたいわけじゃなく、自分自身の言い訳を探すかのようだった。
だが、察しはつく。おそらく学力すべての父親の圧力に怯えているんだろうよ。
よくある話だ。
そいつは、狂ったようにブツブツ何かを言い続け、
数十秒間沈黙したかと思うとカバンから、あるものを取り出した。ダンボールに入った何か。何!?
《ば、爆弾?まさかな、》
《えっ?バッテリー?車のバッテリーだ!な、なんで?コイツ、どうかしてる。》
「ばらまいてやるっ!!」
叫んだかと思うとバッテリーの電解液の入った容器を取り出し、俺に近づいた。
『危険』と赤文字で、でかでかと書かれている。
《ヤ、ヤバイ!!》
「みんな離れろっ!!希硫酸だっ!!」
俺は、とっさに叫んだ。
生徒達が口々に悲鳴をあげる。
「ギャーっ!!」
皆が教室の隅に寄った。
机やらイスやらが床に擦れる高い音は、緊迫感を増長した。
その中でたった一人こっちに来たのが有栖だった。そして言った。
「高橋君!やめて!」
「高橋、落ち着け!」
俺も高橋をなだめたが、高橋の形相は、既に凶賊と化している。
そして、俺に向けていた希硫酸をなんと次に有栖に向けたのだ。
「有栖サナ!僕、お前嫌いだ!
いい子ちゃんぶって、お嬢さん気取り、ちょっと可愛いからって見下しやがって!!」
《電解液は希硫酸。バッテリー液って確か35%くらいに薄めてるって聞いたことある。それでも目に入ったら失明もありうる。服まで溶かすんだぜ、皮膚についたら、火傷だ。皮膚が溶ける。なんだかよく分からんけど、ヤバイよ、コイツ、イカれてる。
勉強勉強で頭、おかしくなったんじやないのか!》
ニヤけた表情で高橋は鼻息荒く呼吸している。
《まてよ、うろ覚えだけど電解液って蓋を開けてもドバッとは出ない仕組みになってるはず‥‥。脅しか?ただのパフォーマンスか?でも、こんなことしたって、テストが満点に返り咲くなんてことないだろ?馬鹿だ!コイツ!》
なんだか俺は、そんなことを考えてるうちにこの状況がアホらしくなってきた。
次の瞬間、
俺は有栖の盾になり高橋の腕を捻じ上げていた。
「痛いよ!やめろ!僕は、悪くない。教師どもがバカなんだ!僕は何もしてない。これ、ただのバッテリーだぜ?何が悪い?は、な、せ、よっ!!」
喚きちらす高橋から電解液を奪い取った時、騒ぎに気づいた両隣のクラスの教師が入ってきた。
「何してんだっ!!」
教師が2人で、高橋を囲んで、職員室へと連れて行った。
有栖は膝からガクンと落ちた。
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なんだか、とんでもない日だった。
『麻美、柚良、今日さぁ、馬鹿な奴がさ、教室で‥‥』
写真に向かって話しかけた時、電話が鳴った。
有栖からだった。
俺{もしもし?有栖か?}
有栖{うん、先生、大丈夫だった?}
俺{君こそ、あれから、保健室行ったって聞いたけど?大丈夫だったのか?}
有栖{全然。大丈夫だよ。香がね、様子を見に来てくれたの。あっ、先生は?}
俺{俺も、全然大丈夫。そっか、舞野、心配してくれたんだ。しっかし、高橋のやつ、イカれてるよな。}
有栖{教師がそんなこと言っていいの?}
俺{今は、教師じゃないよ。‥‥だろ?}
有栖{うん。}
俺{有栖、偉かったね。}
有栖{ん?何?}
俺{だってさ、クラスの奴ら、一斉に我先にと逃げる中で、君だけだよ、前に出て高橋と向き合ってさ、止めようとしたの。クラスのヒーローだな。有栖は。}
有栖{違う!}
俺{えっ?}
有栖{だ、だって‥‥。先生が‥‥。先生が怪我でもしたらって思ったら、怖かった。クラスのヒーローなんかじゃなくていい。
私は、先生の‥‥ただ一人、先生だけのヒーローになりたかったの!}
俺{‥‥‥‥}
有栖{でもね、私、高橋君の気持ち、分からなくもないんだぁ。高橋君のお父さん、官僚でしょ、色々あるんだと思うんだよね。}
俺{‥‥‥‥}
有栖{先生?ねぇ、聞いてる?}
俺{あっ、あぁ。}
有栖{出たぁー。先生の
『あぁ。』}
{まあ、いいや、とにかく今日はゆっくり寝てね。
じゃぁ、またね。先生、おやすみなさい。}
俺{あっ、あぁ、おやすみ。}
スマホを握った俺の腕は、急に力をなくした。
有栖‥‥。
俺は、君にそこまで想われていいのか?いや、いいんだ、いいんだ。
計画通りじゃないか。
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to be continued
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