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デビュー前に買って今も手元に残してある小説作法本3選

本棚の整理をしてたらたまたま見かけて、なんとなく紹介したくなったので、特に意味もなく創作論について書きました。まあ、たまにはね。

FANBOXで公開済みの文章ですが、たまにはnoteも稼働しないとログインの仕方を忘れそうなので、こちらにも転載しておきます。

作家はなるべく早く創作論から離れましょうね、という話

世の中に出回ってる創作論という言葉、人によって「創作技術」の話だったり、「マーケティング論」だったり、ただの個人的な経験談や好き嫌いに使われてたりするので、そのあたりはちゃんと切り分けてくれよな、と眺めててもやもやすることが多い。

あと、作家志望者は毎日書け、とかいうのは創作論でもなんでもなくて、自己啓発かなんかの類ですわね。そういうのは好きじゃないですわ。
少なくとも創作論と同列では語らないで欲しい。

で、今回は創作の技術論、いわゆる創作作法についての話。



前に𝕏でも少し呟いたことがある気がするけど、自分はいわゆる「創作技術」というのは囲碁将棋で言うところの手筋や定石(定跡)みたいなもので、それが有効な局面では利用すればいいし、そうでなければ無視していい程度の代物くらいに思ってる。

初心者のうちは定跡を知ってることで多少は有利になるかもだけど、プロはもちろんアマ中級者クラスになると、その程度のものはみんな理解しているのでたいしたアドにならないし、古い定跡に囚われてるとむしろ不利になるまである。

定跡に従ってればプロットが破綻するリスクは減るけど新規性は薄れるので、ある程度書けるようになった人は、既存の創作のお作法からはなるべく早めに離れて、自分なりのやり方を身につけたほうがいいんじゃないかと思います。守破離ってやつ。知らんけど。



将棋の戦法と同じで創作のお作法にも流行り廃りがあって、古いお作法に倣っていると勝てなく(売れなく)なるのは当然の帰結で、作家のキャリアが長くなればなるほど、現在の環境から外れた「古い定跡」を語ってドヤるベテランに成り果てる可能性が高くなるので、やべえ世界だなと思います。

たとえ若くても一晩寝て起きたら自分が老害になってた、なんてことが普通に起こり得る。しかも自分じゃそのことになかなか気づけないんですよね。恐ろしい。

これを避けるためには、常に「自分の知ってる創作論はすでに死んでいるかもしれない」くらいの気持ちでいた方がいいと思います。シュレーディンガーの創作論。



なので、作家が創作論について語るのは本質的に危険だと思うのです。

言葉というのは一種の「呪い」だから、一度でも「こうしろ」「これはやってはいけない」って口に出してしまうと、それを言った人間が無意識に自分の言葉に縛られるってことはあると思う。

創作の現場は環境に対するメタの取り合いという側面もあるのに、その呪縛が変化への対応力を奪うというか、わざわざ出せる手を絞ってじゃんけんするのは自殺行為としか思えない。真面目な人ほど陥りがちな創作論の罠ですね。

もちろん「術式の開示」的に、俺はこういう創作スタンスだぜ、みたいなのを公言することで、作家としての強度を上げるみたいなやり方は(リスキーだけど)ありだと思う。メタの取り合いってのはそういうことよ。

そこは30年前に通過した場所

微妙に矛盾を孕んでる気がするけど*1、創作論について公の場所で語るべきではないという話と、創作のお作法を知っとくべきって話は両立する。

定跡(創作作法)そのものは悪ではなく、メリット・デメリットを理解しておらず、それを使うべき局面とそうでない局面を判断できないことが問題なので、なるべく多くの手筋や定跡をストックしておけば、その分だけ対応できる局面が増えるはず。

既存の創作作法を学ぶ方法はいろいろあるとは思うけど、安価で手っ取り早いのは、やはり本を読むことでしょう。

創作作法本はたくさん出版されてて中身もピンキリだけど、原則として、書かれてるのが「過去の定跡」でしかないというのは意識しておきたい。

過去の定跡だから役に立たないかというとそうでもなくて、環境が同じならそのまま通用するアドバイスも多いだろうし、すでに死んだはずの定跡でも再び環境が変われば息を吹き返すこともあるでしょう。
繰り返しになるけど書かれている内容が使えると思えば使えばいいし、そうでなければほっとけばいい。自分にとっては無益でも、ほかの人にとっては有益な情報もあるだろうし。完璧な創作論などといったものは存在しない。完璧な絶望というようなものが存在しないようにね。



その意味では、これから紹介する3冊の本は、自分にとっては有益度の高い本でした。

どの本も出版されたのは30年近く前なので、創作作法本としては古典中の古典で、評価も確定してる作品です。紹介する側としては、これくらいのほうが紹介しやすくて助かります。

たまたま本棚を眺めてたら目についたので、特に意味もなく紹介したいと思います。

これらの本に書かれている内容は当然「過去のもの」ではあるんだけど、それを踏まえた上で読めば、今でも通用するアドバイスが書かれているかもしれません。気が向いたらぜひ手に取ってみてください。

『ミステリーの書き方』

アメリカ探偵作家クラブ

アメリカの有名ミステリー作家たちが、それぞれの創作作法について短いエッセイ形式で寄稿した少し変わったアンソロジー。プロットの作り方やキャラクターの膨らませ方などについても複数の作家の視点から語られていて面白い。

ミステリーの書き方というタイトルだが、エンターテインメント小説全般に通用する創作のヒントが多く書かれていると思う。
また同じテーマであっても、寄稿している作家によって意見がバラバラで、創作作法というのが各人によって解釈が異なるいい加減なものだというのがよくわかる。あと全体を通じて当時の作家の本音というか、生々しい生活感が伝わってくるのが良い。

実は同じタイトル、同じアンソロジー形式で編集された本が、日本推理作家協会からも発売されている。こちらもとても面白い本です。


『ベストセラー小説の書き方』

ディーン・R・クーンツ

プロ作家なら高確率でみんな読んでるクーンツ本。
モダンホラー作家のディーン・クーンツが、タイトル通り徹頭徹尾「売れる小説」を書くための秘訣について語ったゴリゴリの実用書。
ストーリーラインの作り方、キャラの立て方、アクションシーンの書き方から文体、さらにはスランプ克服法まで、売れる小説を書くための秘訣が書かれている。

とにかく異様に内容が盛り沢山で、かつ細かく、そのすべてが実践的なのが良い。しかもものすごく示唆に富んでいる。例を挙げると、「作家が本当に売らなければならない唯一のものが文体だ」「会話を自立させよ」などなど…

個人的にこの本の中で好きなのは、「相次ぐ困難は決して登場人物の愚かさに起因してはならない」という一節。映画などを観ててストーリーの都合で突然IQ3くらいのアホな行動を始めるキャラを見かけるたびに、この本のことを思い出します。

ただしこの本で解説されているのは、クーンツが考える「売れる小説」の書き方であって、それ以外のジャンルには適用できない考え方も多い。
それを差し引いても良書だと思う。


『スペース・オペラの書き方』

野田昌宏

タイトルとしては「スペース・オペラ」の書き方となっているが、実際にこの本が参考になるのは、エンターテインメント小説全般、中でも特にライトノベルの執筆においてだと思う。

シリーズが長期化しやすいライトノベルやなろう小説のプロットは、起承転結や三幕構成などのパッケージ化された構成と致命的に噛み合わせが悪いんだけど、この本で紹介されているプロット流れ図(右往左往シート)は、逆にそういうカオスなシナリオを得意としている。もしライトノベル的な小説を書こうと思っててプロットがまとまらずに苦しんでいるときは、読んでみると参考になるかもしれない。

またストーリーを作るための作業の流れを説明した図解もわかりやすい。
そのほか「知的生産の技術」で紹介されているような情報カードを利用したアイデアの蓄積法や、KJ法的なアイデア発想法についても解説されていて、今見てもちょっとびっくりする。当時としては異常に先進的な創作作法本だったと思われる。

あと私、実はこの本に影響されてハーマンミラー社のアーロンチェアを買ったんだけど(椅子の紹介にけっこうな紙幅が割かれているのです)、それから25年経った今でもその椅子は現役で使えています(途中で何度かメンテナンスには出した)。いい買い物をした。

まとめ

そんな感じで自分で紹介しておいてなんですが、いくら良書とはいえ、さすがに30年近く前の作品ということで、読み返すと随所に「古さ」を感じます。

なんだけど、現在発売されてる創作作法の本が、これらの本より劇的に進化してるかというと、ちょっとよくわからないですよね。最近だと生成AIを活用した小説作法の本も出てて、そういう時代的な変化はあるとは思うけど。

今回はたまたま古い本を読み返してみたけど、温故知新みたいな感じで面白かったです。いずれにしても自分の中では創作論って環境に合わせて変化していくべきものなので、これからも貪欲に学習していきたいですね。

以上です。

*1: 語る人がいなければ、当然、それを知ることもできないので。

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