僕の新宿大冒険 後編 ~〇〇〇と言われた日~
前回はこちら↓
https://note.com/nima0723/n/n1f61c6eba725
カラオケ店をあとにした僕はさっそく手詰まりになった。
だって僕には羞恥心以外何もない、羞恥心はあるので人に助けを求めることもできない。こんな羞恥心だけあるなら全裸の方がまだよかったかもしれない。
1月深夜の新宿で財布もスマホも上着もないという心細さはとてつもなかった。皆さんぜひ一度やってみてもらいたい(絶対やめたほうがいい)
何か手はないかと必死に考える。必死に考える。その間も多くの人が僕の前を通り過ぎ、薄着の酔っ払いを横目にしていく人もいる。
同情するなら金をくれ。
その時天啓が僕に舞い降りた。
『パセラの後の居酒屋、コースで予約してなかった?』
17時から鳥貴族、後輩が予約していたはずだ。勝った。僕の勝ちだ。よく思い出した。
しかし直後思い至る。
『新宿という冠がついた鳥貴族沢山ある問題』だ。
ここから、薄着の怪しい酔っ払いが居酒屋で予約した人の個人情報を訊いて回るという事案が発生する。本当にもうスレスレだ。何がとは言わないがスレッスレだよ。
3店舗目に当たりがでた。ここからは僕も必死だ。
怪訝な顔をする居酒屋店員に、予約した人間の友人を名乗り、頼むからそいつの電話番号を教えてくれと懇願した。何度も『本当にご友人ですか?悪用しませんか?』と言う店員に(もっともな質問だ)最終的には『おかしいこと言ってる自覚はあるし信じられないのももちろんわかります、信じないのもあなたの自由だ、ただ、ただですね、1月の外で、この格好ですよ、このまま放っておいたら僕死にますよ?いいんですか?』と告げた。これではただの脅しだ。
もう本当ギリギリだ。なんだったらギリギリアウトだ。
店員も音を上げたのか、『番号はお教えできないですがこのお店の電話で店員から電話をかける』ことを条件にOKしてくれた。
願ったり叶ったりだ。なぜなら僕はスマホがない。番号を奪取した後は電話まで借りようというところまで想定していた(最低か?)
しかし結果だけいうと後輩は電話に出なかった。この時点で時計は深夜3時近くなっていた。
この居酒屋店員の悲劇は続く。店に居座るわけにもいかず、しかしこのままおめおめと引き下がれない僕はそこからさらに頼むから電話番号をくれと頼み続けることになった。土下座してもよかった。
あの店員さんには今本当に心から謝罪したいと思っている。
最終的には、渋々電話番号を渡してくれた店員さんと(死ぬほど嫌な顔をされつつ)固い握手を交わし、鳥貴族をでた。
ここまでくるともう行く所は決まった。
国家権力を頼ろうじゃないか。お願いだから電話を貸してくれ。
新宿駅前の交番に行くと、さすが新宿の交番に勤務する警官だ、おそらく酔っ払いの扱いなど慣れに慣れているのだろう。
開口一番笑顔で『どうしたの?』と言った。
僕は『怪しくないこと』『上着がなく寒いので中に入れて欲しいこと』を表すために、なぜかハンズアップし事の顛末を説明し始めてしまった。これではただの『撃たないでください何も持ってません』と告げる犯罪者だ。
二人いた警官に事情を説明すると、一人の恐らく若い方の警官が『じゃあ私がその番号に電話しますよ、いいですね?』と言った。
僕は快諾し、若い警官が僕の後輩に電話をコールしている間ずっと先輩であろうもう一人の警官に『飲み過ぎはよくない』という説教を食らっていた。知ってる、わかっている、今の僕が一番それをわかっている。『酒は呑んでも呑まれるな』だ。今ちょうど身に染みていることろなのでお願いだからソッとしていただきたい。
そうこうしている間に若い方の警官は『繋がりました』と言い僕に受話器を渡した。
カラオケで寝てしまって知らない番号からの電話で起こされた後輩が恐る恐る『え、誰ですか?』と言う。あまりの喜びにテンパった僕は思わず『オレ、オレオレ!』と言ってしまった。詐欺か。警官の前で何を言い出すんだお前は。
今度はしっかりと名前を告げた僕に後輩は『え…どこにいるんですか…』と言い、思わず僕は『オレが訊きてえ!』と言い放ち警官二人の笑いを誘うこととなった。
そしてこの後、矛先の間違った僕の怒りが頂点を迎えることとなる。
事の顛末を後輩に説明し、カラオケ店にいた記憶があることを話した僕に、後輩がいるカラオケ店の場所を教えてくれた。
後輩たちがいるのは、僕が最初に訪ねて軽くあしらわれたカラオケ747だった。
いや、わかっている。そもそもこの事態は全部自分のせいだ。わかってる。あのバイトの若者二人は何も、何一つ悪くない。
でも何か釈然としない。モヤモヤする。だって人間だもの。みつを。
そのことを警官に教えたらまた笑われた。
警官にお礼を言い最後にもう一発『飲みすぎちゃダメだよ』をいただき、ノロノロとカラオケ747に向かう。先ほどと同じ若者二人の前を先ほどと同じ薄着の男が通り過ぎる。何も言われない。
そして、焦がれた後輩たちに再会した。涙が出そうだ。この時点で、もう時間は4時になっていた。
『誰も僕がいないことに何も不思議に思わなかったのか』という問いに一人の後輩は『ずっと入っているトイレの個室があってその中で死んでいるのが先輩だと思ってました』と言い、何人かの後輩は『どうせ先輩の事だから抜け出してラーメンでも食べに行ってると思ってました』と言った。
手が出そうになったが全面的に悪いのは自分なので踏みとどまった。でも財布も持たずにラーメンを食いに行く奴はいないということを学んでほしい。
僕の大冒険は終わりを迎えた。長かった、長い戦いだった。そう思ったのもつかの間、更に問題が僕を襲った。
このカラオケ店に辿り着けば全てが解決すると思っていた。
『あれ、スマホ知らない?あと帽子』
スマホと被ってきた帽子がないのだ。後輩は『持って出たんじゃないんですか?』と言ったがそもそも記憶がない。
『とりあえず一回店出ますか?』という後輩の提案に、会計を済ませ外に出る。そこから今度は僕のアイテム探しが始まった。
まず、帽子に関してはカラオケ店隣のビル入口に落ちているのを後輩が発見した。残るはスマホだ。
お店の周囲や、思い当たる自分の足取りを辿るも見当たらない。
そこで僕は原点に返る。
…TOHOシネマズ新宿では?
もう閉めて中の掃除を始めている映画館、停止しているエスカレーターを無理やり上り中を覗くと、掃除中の映画館スタッフが驚いて入口を開てくれた。君ねえ、僕がゾンビでここが籠城地だったら即死だよ?
社員さんを呼んでもらい事情を説明をすると『あー…』みたいな反応をし事務所から忘れ物の1台のスマホを持ってきてくれた。
あった!僕のスマホだ!間違いない!
通過儀礼のように『何か自身のものだって証明できます?』と言われあまりの喜びに、自信満々に『パターンロック1発で解除できます!やります?やりましょうか?』と言ったらウザがられて『いやもういいです、大丈夫です…』と言われた。失敗だらけの冒険だ。すみません。ギリギリどころじゃなくもうただのアウトだ。
今度こそ本当に長い冒険が終わった。本当に長かった。長かったが大部分の記憶がない。
街を彷徨い歩き、一つ一つ問題を解決し、仲間と合流し、アイテムを探す。
帰り路、後輩に『リアルRPGじゃないですか…』と言われた。
早朝の電車に乗り僕は家路につく。そしてこの後、僕は電車で爆睡し、同じ路線を行ったり来たりすることになり、途中で一度目覚めた駅でラーメンを食べ、無事家に着いたのは昼の12時を回った頃だった。
僕はその時に、これを教訓とし、『2019年はお酒の失敗はしない(リアルRPG事件は除く)』という目標を立てることとなった。
その二か月後、後輩たちと行ったスノーボード旅行のホテルで、飲み過ぎて部屋から消え、お風呂場の前で行き倒れているのを発見されたのはまた別のお話。
完(今はもうこういうことはなくなりました)