見出し画像

ビーストバインド公式NPC列伝:陳元明

※本記事は、「BEASTBIND 25th Advent Calendar」 9/10分の記事です。
「BEASTBIND 25th Advent Calendar」については、以下のリンクをご参照ください。
 なお、本記事は加照様からの寄稿となります。加照様、ありがとうございました!


◆はじめに

 今年25周年を迎える『ビーストバインド』シリーズ。
 それを記念し、有志によって催されたアドヴェントカレンダー企画も、早いもので折り返しに来ている。
 いずれも見応え読み応えのある記事ばかりなので、未読の方は是非ご一読あれ。ビーストバインドを愛する者たちの熱量を感じることができるだろう。まだご存じない方は、X(旧Twitter)の #BB25AdCar ハッシュタグを追ってみると良い。
 今回は後半戦に向けての小休止、言わば箸休め的な記事となる。身構えず気軽に読んでもらえたら幸いだ。

 人と魔獣が交差するビーストバインドの世界を、一層魅力的に彩る存在が公式NPCである。長いシリーズを重ねた本作の中には、版を跨ぎ登場する者たちもいる。今回は、そんな彼らの歴史を紐解くことで、ビーストバインドの世界をより一層楽しむ足掛かりを作りたいと思う。


◆陳元明という男

 さて、そうして始まった紹介記事、第一弾は最もビーストバインドを体現しているNPCに焦点を当てよう。
 ビーストバインドの魅力は多岐に渡るが、その中の一つに『絆とエゴの葛藤』がある。己が内より湧き出る渇望に呑まれるか、他者との絆を繋ぎ止めるか……その葛藤から生まれる悲喜交々のドラマこそがこのシリーズの”うま”であると言えるだろう。
 前置きが長くなったが、数ある公式NPCの中で、そのドラマを最も体現している者は誰か?

 賢明なる諸兄であれば、既にお気付きの事だろう。
 そう、陳元明である。

 頷いたあなたは幸運である。
 陳元明の魅力に、自力で気付けているのだから。

『誰だよ』とツッコミを入れたあなたは幸運である。これから陳元明の魅力を知る事ができるのだから。

 ビーストバインドトリニティ(以下、BBT)のサプリメント・アドヴェント(以下、ADV)21ページを開いていただければ、現在の彼を知ることができる。お持ちでない方は、これより続く紹介にて彼の事を知っていただこう。


◆トリニティ編

 陳元明。ルーツ:退魔僧。池袋北口にて中華料理店を営む56歳の中年男性。傍らで中国拳法の道場を開き、子供たちに護身術を教えている。

 このプロフィールだけを見れば、彼は池袋においては珍しく平穏で協力的なNPCとして映るだろう。しかし、これはまだ氷山の一角、彼の持つ一側面でしかない。

【エゴ:魔物の伏滅】

 そう、彼はかつて仏教系退魔結社・龍華会でも最強と謳われた拳法僧、一線級の魔物スレイヤーだったのだ。
 ここまで来ればお分かりであろう。そう、誰しも一度は憧れるシチュエーション、『舐めてた相手がヤバい奴だった』系のアレである。
 ジョン・ウィ●クやイコラ●ザーと同系統の一見冴えない危険な男、それが陳元明なのだ。

 そんな彼が、なぜ戦場を捨てるに至ったのか。
 その謎を解明する為、探検隊はビーストバインドの奥地へと向かった―――。


◆魔獣の絆編

 彼が初めて登場したのは『ビーストバインド・魔獣の絆(以下、BB)』。その紳士録にて、当時の彼がイラストと共に語られている。厳めしい顔つきの精悍な男性が、チャクラムを携えている姿。
 そう、チャクラム……輪状の投擲武器だ。龍華会最強の武僧の得物はチャクラムなのだ。あの1・2ジャ●ゴか武装錬●のゴ●タか滝夜叉●先輩くらいしか使い手が出てこないインド発祥のマイナーな武器でさえ、陳元明が使えば全てを斬り裂く最強の武器となる。武僧ってすごい。
 さらに、彼の武器はこれだけにあらず。退魔僧の奥義は法力を込めた掌打”魂潰掌”である。打たれた者は命だけでなく魂すら失うと言われるこの力を振るい、彼は魔邪封滅の教義を守って来た。
 その姿勢は、サンプルセリフからも如実に現れている。

「食らえ、魂潰掌!」

 殺る気満々である。
 いや、既に何体かは殺った後のセリフだろう

 こんな奴が手勢を率いて指揮を執るのだから、魔物は生きた心地がしないだろう。人間側から見ても怖いと思う。
 だが、そんな彼の中にも葛藤があった。香港で子供の魔物を殺して以来、その小さな手と澄んだ瞳が脳裏に焼き付いて離れないのだ。

 ただの化け物が、そんな目をできるものか?

 その疑問に答えは無く、彼は今日も魔物を狩る。いらだちをぶつけるように。そんな姿勢で狩りに来られたら、魔物は本当に生きた心地がしないだろう。


◆ミレニアム編

 彼が次に登場するのはBBの翌年に発売されたサプリメント『ミレニアム』。ここでの彼は元龍華会の拳法僧として紹介されている。“元”である。
 なぜ龍華会を退いたのか。いったい彼に何が起こったのか。その答えが、今明かされる。

 ある任務で重傷を負い、下水から地下水脈に逃れた先で、彼は半魚人の部族に救われた。回復後、教義に従い恩人を抹殺すべきか否かを葛藤していたところに、部族は魔物殺戮部隊・SEALSの襲撃を受ける。
 部族が殺戮される中、陳元明は悩みに囚われていた。
 教義を守り、SEALSと協力し滅すべき魔物を屠ることも無く。
 恩義に報い、教義に背いてでも半魚人を守る道を選ぶでも無く。
 彼は、何もしなかったのだ。

 そうして残された彼は、龍華会を抜けどこかへと消えてしまう。
 最強の称号を恣にしながら、絆とエゴに囚われた男は叫ぶ。
「この手から生まれるのは血と憎しみだけなのか!?」
 迷いの中で暮らす彼はまだ気付かない。
 己が求めるものが、贖罪の機会であることを。今はまだ。


◆再びのトリニティ編

 これが、彼の辿って来た道のりである。
 人と半魚人の果てしない戦いの中、互いの正義を知ってしまった迷える武僧は斯くして戦場を去った。
 彼は語る。「止めておけ。戦いは空しい」と。
 経験したこれまでの全てが、この言葉に込められている。
 今、道場で子供たちに護身術を教えることに、彼は喜びを見出しているという。きっと、それが彼の求めた贖罪の機会のだと気付いたのだろう。

 彼が陳元明である限り、その身の内から湧き上がる渇望から逃れることはできない。しかし、同時に彼にはかけがえのない絆もある。

【絆:半魚人(家族)】

 彼と半魚人との絆は、こうしてまだ繋がっているのだ。

 余談だが、彼の営む中華料理店の名は“崑崙”。これは彼の所属していた龍華会の本拠地から採ったものと思われる。彼が戦場に戻ることはないだろう。しかし、古巣への絆は確かに彼の中に在る。


◆おわりに

 以上が、国民的TRPG・ビーストバインドシリーズを代表する公式NPC・陳元明の歴史である。
 私はBBTから参入した新参者である為、ルールブック・サプリメント以外の資料で以前の彼の活躍を追うことはできなかった。しかし、当時を知る歴戦のBBユーザーの中には、現役の彼と対峙した者や共闘した者、迷う彼と問答を交わした者も少なからずいるだろう。
 BBTにおいても、彼の薫陶を受けた者が多くいることだろう。

 そんな未だ見ぬ100億の陳元明ファンへ。
 もしこの記事を読んで彼のことを思い出したならば、どこかでその思い出を語ってほしい。そうして繋いだ先、次なる世紀のビーストバインド世界で、彼の現在を見ることができれば幸いである。



本記事は、「F.E.A.R.」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ビーストバインド トリニティ』の二次創作物です。(c)井上純一、重信康/F.E.A.R.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?