自作SS第五弾「捏造された歴史」
「歴史ってどうやって決まるか知っとぉ?」
学校からの帰り道、隣に並ぶ俺の親友がしゃべりだす。
この独特のイントネーションとも長い付き合いであり
今では小気味よくも感じている。
ただ、いつもと違うのは、俺が投げかけた質問の内容と
全く嚙み合ってない返答だった。ということ。
普段は何にでもストレートな物言いのコイツが、である。
珍しいこともあるもんだなと…怪訝な顔を浮かべながらも
その問答に付き合うことにした。
「昔の文献や資料を基に、組み立てられるものじゃないのか?」
今は夕方。時刻的には空が赤く染まってもおかしくない時間帯だが
今日は条件が良くないのか、夕焼けと呼ぶには空は少し寂しすぎた。
そんな空を見上げて逡巡。俺はそれっぽい答えを組み立てて口にした。
「…50点ほど、やんな」
十分な間を置いてから、及第点には届きそうにない点数が告げられた。
間を置いたのは、俺の答えの更に続きを待ってのことだろう。
相変わらず器用なことをする奴だ。まあ、残念ながら続きの用意は
していなかったので、その試みは徒労に終わったわけだが。
心の中で、申し訳ないと謝罪しておこう。口には出さないが。
「たしかに、昔の資料を基に歴史は決められてるんな。
「でもな。その昔の資料が正しいというのは、誰がきめるん?
ふむ…。
鋭いところを付いてくる。付いてくるが、口に出した以上
すぐに納得するのもばつが悪いので、すこし反発を試みる。
「公的に政府が残した文章が真実から程遠いとは考えにくいけど。」
またしばらく間が置かれる。
この駅までの道は人通りがまばらで、車もたまにしか通らない。
期もせずに空いた少しの間で、その貴重な一台を目で追っていると…
「…30点やなぁ」
なんと。点数が下がった。
そんなこともあるのか、カラオケの採点方式かよ。
今回の間は先ほどと違って、俺の答えに落胆したんだろう。
ちょっと情けない。
「ほんとに情けないわぁ。キミはもっとできる子やん?どぉしたん?」
嫌味など込められてない、純粋な目で覗き込まれた。
後ろに伸びた二人の長い影が、少しだけ重なる。
「…っ。買いかぶり過ぎだよ。」
というか、俺の質問を横に置きやがって。
気もそぞろでまともな答えなんか出るか!
…と言ってやりたいのを、とりあえず我慢する。
それほど、コイツが遠回しな問答をするのは珍しいのだ。
もう少しだけ付き合ってやるか。
「で?じゃあ、その正しさ?を誰が決めるんだよ?」
「いやいや、ちゃうんよ。さっきのが全くの間違いってことはないんよ。
「近代の資料はかなり信用できるし、現代に近いもん程正しい、で
まあええんよ。
と、両手を左右に小さく振りながらの訂正が入った。
そう言えば30点なんだったな。―という事は、情報が足りないという事か。
くそっ、学校でも赤点なんて取ったことないのに。なんてひどい奴だ。
「でも、時代が遡れば話はちがうやん。
「大昔に。それこそ紀元前に書かれた文章が絶対正しいなんて言えないのは
キミでもなんとなくわかるやろ?
それは、まあそうか。そう言われればそうだな。
話が少し面白くなってきた。駅まではまだまだ距離がある。
もう少しこの話に付き合うのもやぶさかではない。
「分かりやすいんは天皇。
「天皇は天照大神の子孫とされてんけど、今この時代
そないなこと信じてるやつ、おらんやん?
「この事は日本最古の歴史書、日本書紀や古事記にかかれてるんやけどな。
なるほど。と、頷きながら、目配せで続きを促す。
「わかってくれたん?
「天皇の事はただの例やから、横に置いとくとして。
「歴史書が、すべてが正しいっつーことはほぼ無いわけなんよ。
「特にな。国が新しく成立とかするとな、よく歴史が捻じ曲げらたりする。
「まー、この話はなごぉなるから、ここまでにしとくけども…。
「…だから結局な。歴史は多くの文献や資料からの推測っつーことやね。
「いろんな国のいろんな文書が似たような事を書いてる。
「ならこの出来事は本当にあったんやろなぁ。ってな具合で。
「ああ。当り前やけど、他にも色んな要因があって真実を絞っていくんよ。
「そして勿論、一人で全部調べるわけやないから、沢山の仮説がでる。
「その仮説ん中で、一番ええ感じに納得できるんが『歴史』となるんやな。
ここまで一気に語りきったあと、すぅ、と息を大きく吸い上げ
「でな。ここからが、本題なん。
と人差し指を立てて、前かがみに言う。
まだ俺の頭は整理途中だったのだが、これは前置きらしい。
駅までの道程は、公園の前に差し掛かったところだ。まだまだ余裕がある。
その公園では、小さな犬が自分の尻尾をクルクルと追い廻していた。
正直、俺の頭はその犬くらいに話に追いつけてないが
それでも、どうにか話を飲み込みつつ、続きを待つ。
「たまに思うことがあるんよ。
「たとえば、今日。
「世界中に住んどぉ、それなりに多くん人が『同じ内容の
突拍子もない作り話』を、いわゆる嘘の話を日記などに残す。
「具体的には
『2021年7月10日 モンゴルに火星からの使者がやって来た。』
みたいな、誰が聞いても嘘だろう分かる話を、不特定多数の人が
文章にして大量に残すと…
そこまで語り、もったいぶるようにたっぷりと溜めてから
「数千年後、それが実際に在った歴史として成立するんやないんかと…
と、少し低くした声で、そう言い放った。
…。
いつの間にか俺たちの足は止まっていた。
公園から出てきたであろう子供たちが、「ばいばーい」と振り向きながら
手を振り、横を追い越していく。
「へぇ。なるほどね。おもしろい。」
面白い。感じたことを、素直にそのまま返した。
実際、興味深い話だ。是非試してみたいが…
しかし、実験結果を知れるのは俺が死んだ何千年も後だとすぐさま気づき、心の中で少し落胆する。残念。
…あれ?
でも本題って言ってたよな?…という事は?
「…ん?」
「これが、俺の質問の答えってことか?」
思ったことをそのまま口にする。
「…。
「そ、そのつもりでは、あるん…やけども…
流れる雲を目で追うように、視線を泳がせながらの返答があった。
これを俺の質問に対する答えとされては、すぐにはピンとこない。
同じく俺も、空の雲に目線をやりながら、しばしの逡巡に入る。
けれども、この少しの沈黙も耐え難かったらしく
俺が考えをまとめきる前に、すこし上ずり気味の声で付け足してくれた。
「つっ、つまりぃなっ!あの噂を流したんは、あたしなんよ!
「その…。皆がそう認識すれば、真実もそうなるぅ思ーて…
俺は…目を合わせられなかった。
ここまで言われれば、流石にもうその意味は分かる。
そこまで鈍くはない。 …ったく。
普段ストレートな物言いなのに、どうしてこういうことは回りくどいのか。
ここは俺が、男らしく、手本を見せてやろうじゃないか。
そう意気込み、止まっていた足を動かして横に並ぶ。
その一歩目の足を踏み出したときに…覚悟は決めた。
あとは実行に移す勇気だけだ!
「あ、あのな…」
そこまで言って、続く言葉が出てこない。
っんとに、人の事なんて言えやしない。
声も裏返って、カッコ悪いったらありゃしない。
でも。続かない言葉の、その代わりに―
一つに繋がった、後ろに長く伸びた二つの影。
それを揺らしながら、駅までの残りの道を、ただただ二人
無言で歩いたのだった。
―空に伸びなかった夕焼けは、二人の頬には綺麗に広がっていた。
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はい。どーも。ニルギリです。
今回で5作品目ですね。意外と続いてることにびっくりです。
それはさておき、テーマは「エモい」です。
どうでしたでしょうか?エモかった?エモくなかった?あれ?
というかエモいって何?
未だにエモいってよくわかりませんが
こういったお話を書きたいとは常々思っていました。
ニルギリさんのマルチな才能に嫉妬した人は
是非、いいね!を。(苦笑
というか、正直自分じゃよくわからんとですよ。
自分では気を配って文章を書いているつもりですが
何か物足りなさを感じた方がいらしたら
きっと私の文章力がまだまだなんでしょう。精進したいと思います。
では、最後までありがとうございました。
ちなみにフィクションです。登場人物2人は爆発すればいい。
2023/06/16 ウェブサイト「小説家になろう」へ転載
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