今日はいい夫婦の日
皆様お馴染み地下茎マンションのトロロ家。
居間で、ちゃぶ台を挟み、トロロと念子が、
くつろいでいる。
念子:あれ取ってくれない?
トロロはあれが、リビングのテーブルに置かれた新聞だと即、理解する。
けれども、自分がリビングに近いという理由だけで、取ってやる理由にはならないと思いつつ、自分で…
といった後の事を想像すると、それもウンザリだと思い、
新聞を取りに腰を上げる。
「どっこいしょ」と嫌みな声を出してテーブルを見ると、
新聞と赤い縁の老眼鏡一つ。
あ~あ、次はこれを取ってと言うに決まっていると思うが、
ここで、ホイホイと老眼鏡まで付けてやる必要はないのだと鼻に皺を寄せて、老眼鏡をポケットに忍ばせる。
新聞を受け取った念子は「ありがとう」の一言も言わず、黙って新聞を読み始める。
新聞の文字は大きくなったとは言え、念子は顔を近づけたり、離したりを繰り返す。
念子は「見づらいったらありゃしない」と独り言のように呟く。
トロロはポケットに忍ばせた老眼鏡をまさぐる。
差し出すのが正解か?無視するのが正解か?
一人、神経戦を続けている。
念子がふいに新聞から顔を上げ、「確か」
と言ったところで、戦いに決着はつき、
「ほら」と老眼鏡を差し出すトロロ。
すると念子は「あら、ありがとう」と、にっこり笑って、
「確か、冷蔵庫にあなたの好きなプリンが残ってたわ」と言った。
トロロは、プリンの事をすっかり忘れていたので、
俄然得した気分になり、自然と腰が上がり、冷蔵庫の前に立った。
そうして、残り1個のプリンを半分皿に移して「ホラ」と念子に渡した。
念子は、「皿じゃなくって、小さい器があったでしょうに」
と顔を顰めた。
「やっぱ、ラブラブ堂のプリンは美味いね」と念子に言うと念子は新聞から顔を上げることなく、
なんとなくうなずいた。
それは清々しい秋風の日の出来事だった。