『戦隊レッド異世界で冒険者になる』の戦隊の解像度が想像以上で恐怖すら抱いてる件
・飛ばしてもいい前置き
みなさんは「スーパー戦隊シリーズ」はご存知だろうか?ピンと来ない方は〇〇戦隊〇〇ジャーで5人揃って戦うアレをイメージしていただければ分かると思う。かれこれ40年以上放送している長寿コンテンツであり、小さい頃に日曜の朝や土曜金曜の夜に見たことある人もきっといるだろう。
かくいうコレを書いてるも自分も小さい頃に見ていたが放送時間帯変更をキッカケに見なくなっていたが、2011年の『海賊戦隊ゴーカイジャー』から出戻りなんだかんだで10年以上見続けたりそれ以前の過去作に触れている、いい歳ながらも毎週楽しみに見てるれっきとしたファンである。一番好きなのは『爆竜戦隊アバレンジャー』だし、去年放送した『王様戦隊キングオージャー』のDXロボ買いすぎて財布が寂しくなったという話もここnoteで書いたことあるくらいだ。
そんな脱線は置いといて……そんな戦隊シリーズだがそんな長く続いてるのもあって他作品でそれっぽいものがパロディとして作中登場するのがそこそこの頻度であったり、なんならその戦隊そのものをテーマにした作品だってぽつぽつ存在する。しかし最近この後者の話題がなにかとあーだこーだ言われがちなのを観測する……面白いつまらないうんたら以前にいわば“解像度”、戦隊モチーフを落とし込みご足りないとかそういう問題だそうだ。
これに対しては自分の見解としては、そもそも「赤を主人公にしたカラフルな5人で構成されたヒーロー集団が活躍する児童向け特撮」だけで「戦隊」だと認識できるパブリックイメージがあまりにも強すぎる(他作品パロディで出る際も大体コレ)のが原因だと思っており、いわば戦隊モチーフのあれこれな作品もその一般的認知の延長線で「戦隊のイメージを覆してやるぜ!」と書いてるのであって……そう考えれば上記のイメージと、毎年変わる戦隊ものを常に見てる人(自分含む)がイメージする「戦隊お決まりの手法」と提供する戦隊要素は乖離してるのも当然と言わざるを得ない。なんか自分の好きなものに土足で上がられてる気がするからムカつくのかもしれないが、自分からしたらそもそも彼らが上がり込んだ土台は違うと思ってるんで正直気になんない。じゃあその毎年見てるような人がイメージする「戦隊」というのは…
……と、今回話すのがその「毎年見てるような人たちがイメージするような戦隊」をモチーフにした作品のことでありまして、それこそがこの……
・そういえば異世界転生もの初めて扱うことになるな
今回話すのは他の戦隊ものパロディとは一線を画する……というか画しすぎる作品、月刊少年ガンガンにて連載している中吉虎吉(なかよし こよし)氏が描く『戦隊レッド異世界で冒険者になる』だ!!
タイトルそして単行本1巻の表紙でも分かるように戦隊そのものをテーマにしたこの作品、自分が今作の存在を知ったのは去年に前置きで書いたような戦隊モチーフ作品があーだこーだで揉めていた際に「これはオススメだぞ」と1話試し読みとセットで流れてきたのから知ったクチだ。後述するがその1話が良かったので(当時Kindle購入時ポイント大量還元セールがあったのもあって)3巻まで買い、恥ずかしながらそのまま積んでいたのだが……なんと今年に入り今作のアニメ化が発表したのだ!(よりにもよってまた別の戦隊モチーフ作品がやいのやいの揉めてた際に)(単行本7巻発売と同時になので単なる偶然である)
そしてこのアニメのスタッフがとんでもないことになっていた……脚本はアニポケや遊戯王5D'sでおなじみ冨岡淳広さんなのだが、この冨岡さん、なんと現在放送中の戦隊『爆上戦隊ブンブンジャー』のシナリオ構成を担当している、いわゆる“本家の人”が書いたのだ。本家の人!?(ただしこちらの方を先に仕上げてからあちらを現在進行系で執筆中なのはご了承してほしい)
それだけじゃない、音楽担当は戦隊シリーズにて多数の楽曲を製作した亀山耕一郎さん、さらにさらには作中にて出される変身モーションの監修を『忍者戦隊カクレンジャー』のニンジャレッド/サスケ役だった小川輝晃さんという戦隊レッド本人が担当(そしてその変身モーションディレクターは戦隊シリーズの監督も担当した鈴村展弘さん)と……書いてる自分も「いやこれファンの妄想とか含まれてるだろ」と半信半疑になってしまうレベル。ところがどっこい現実なのです。いっそのこと総合監修:東映と付いていてもおかしくない程だ。
何も知らない状態で見たら間違いなく異様として映るだろう光景だろう、しかし実際に中身を見ていただければここまでのスタッフを用意したのも納得してしまう。百聞は一見にしかず、今ここで初めて知った人は下のリンク先から1話を読んでいただきたい。
1話を見た時点で察するだろう………“戦隊もの”の落とし込みが他のと明らかに違うと。名乗りの際に爆発したり5体合体の巨大ロボもちゃんと出してるのは勿論のこと……まるで実際におもちゃで販売されてそうな音声ガンガン鳴る変身ブレスレットに剣と銃を戦隊要素として出すのは「スーパー戦隊シリーズ」という番組を毎年見続けていないと絶対に出せない類のやつ。知らない人に説明するとスーパー戦隊シリーズは大手スポンサーであるBANDAIの玩具販促番組の側面も強く、その為にこういう「メイン視聴ターゲット層の子どもが欲しくなるような劇中アイテム」が出てきたりするのだ。光る!!鳴る!!揃えたくなる多種多様な小物!あまりにもメタすぎる……こんなん早速出されたら毎年見てるようなファンはもう笑うしかないわ。ちなみに2話では異世界転生もの恒例らしい数値化されたステータスが開示されるのだが、自分はそれを見てヒーヒー笑い転げてしまった。なぜかは実際見れば分かる。たぶん皆さんも一度は見たことがあるだろう“アレ”なので。
さらにはこの漫画、実際の戦隊ものにある「テーマやモチーフをキャラクターデザインに落とし込む上手さ」をも見事にやってのけている。この主人公が転生前に所属していた『絆創戦隊キズナファイブ』はまさしく『絆』がテーマ…絆創膏をモチーフにした変身アイテム・絆装甲で変身した姿は所々に絆創膏のモニュメントが散りばめられ、振るう武器は握手カリバーに縁結ビームガンと絆をイメージするようなネーミング……こういう頓智の効かせたモチーフの捩り方も実際の戦隊もよくやっており、そういう所でも「5人揃ったカラフルなチームだけで認識されるパブリックイメージの戦隊というより、実際に現在放送している戦隊らしさ」を強調させているのだ。そのせいか今作を読んでる内に「キズナファイブが実際に放送していた気がしてきた」「むしろ今作はそのキズナファイブのVシネスピンオフ(東映特撮は作品の後日談や番外編を別枠でよくやる)」みたいな幻覚までも発生し……
とまあここまで徹底的に戦隊モチーフに対する真摯さを見ると笑いつつも素直に感動すると同時に……流石に今作を引き合いに出して他作品を貶すのはあんまりすぎるだろという気持ちも正直湧いてくる。
いやさ……前置きで書いたように他作品はあくまで「5人揃って戦うチーム」という古き良きパブリックイメージを地盤にして書いてるのであって、そのパブリックイメージを抱いてる人をターゲット層にして描いてるだろうし、そうなるとここまで現在進行系の戦隊あるあるを落とし込んだ今作とはまるっきりスタートラインが違う。たぶんそれらでこんくらいディープなネタを細部まで注ぎ込んだら本来書きたいだろうテーマから外れてしまうだろうし。比べるのが野暮。そりゃ未だ古臭いイメージ引き摺って「そのイメージを崩してやったぜ!」としたり顔してるみたいなことしてるのは鼻につくかもしれんが、そのくらい世間での「戦隊」というパブリックイメージは昔からそういうものとして培われているし(なんなら本家の戦隊自体もそのイメージをあえて覆してきたりする作品だってある。あちらもマンネリは最大の敵だから)そういうもんだからこういう批評は言った側にも蟠りや偏見が発生するので控えた方が……もっとこう、単体の中身が面白いかつまらないかで批評しましょうよ!それについては自分は言わないし。
と、いうことでさっきまで話したのは漫画アニメ含めた今作の戦隊モチーフへの異質レベルの解像度や落とし込みについてであり、それはいわばキャッチーな魅力…いわば興味を湧かせ読ませようと引き寄せるフックみたいなものであり、いくらそのフックが優秀だろうと中身が伴ってなければすぐに見限られてしまうもの……それでは今作の中身はどうなっているだろうか?注意喚起だがここから先は今作のプレゼンの為にいつでも無料公開してる1話以外の1巻に収録された内容を上げていくので(ちょいちょい描写をかいつまむ程度にするが)完全にピュアな気持ちで読みたいならブラウザバックして1巻を……“できれば3巻まで”買ってほしい。なぜかはそこまで読めば分かる。
……おいなんか3巻表紙に別の番組に出てきそうな見た目のもいるんだが!?まあこれも読めば分かるということで……
・異世界転生×戦隊レッド、キラキラ輝くために僕らは巡り逢ったと思うから
「異世界転生もの」昔から召喚だのワープだので中世ファンタジーじみた異世界に訪問する作品は数多くあったが、転生という形ですっかり一大ジャンルになったこのコンテンツ。自分はこのジャンルはそれこそ今作で初めて触れたくらい疎いので他の異世界転生ものと比較するタイプの批評はできないので悪しからずなのだが、それでも今作の「戦隊もの」との組み合わせはまさかの好相性というのは伝わってくる。その理由を真っ先に上げるならば戦隊サイドの「お決まりのパターン」にいちいち異世界サイドのツッコミが鋭く刺さるという所だ。
異世界の兵器こっわ…
(byイドラ)
我々にとっちゃ毎週見てるいつもの光景も異世界の人達からしたら理解不能なシステムとガジェットで、こんなもんを何度も見せられたら戸惑うことしかできなくなってしまう……というかこうもツッコミ入れられると非日常的な超常現象を用いて人々を非日常的な力で苦しめる巨悪と戦ってた彼らの世界の方がよっぽど異世界では?と気付きそうになってくる。もうこれだけで既に面白ポイントが貯まってきている。
そんな異世界住民も驚くトンデモ能力を所有するレッドが異世界に転生が何をするかと言われたら……何も変わったことはしない。自分が本来いた世界でそうだったように、絆創戦隊キズナファイブがキズナレッドとして困っている人を助け心を通わせ異世界のみんなとの『絆』を創る。この王道ストーリー展開の構図がシンプルながらも今作の「戦隊らしさ」をさらに強調してると思うんですよ。
スーパー戦隊にも元から同部隊だったり兄弟姉妹だったりでメンバー同士が既知の間柄なのも確かにあるのだが、それだけでなく初めて出会った者同士が最初は意見の違いでぶつかり合うも話数を重ねて打ち解け合い最後には強い絆を結べることもある……実際の戦隊名を挙げるならば『鳥人戦隊ジェットマン』が特にその部分が強かったように。異世界の見知らぬ人たちだって人なのは変わらない、ならば彼らと本気でぶつかり絆を紡いで共に戦えばそれはもう「戦隊」になっているのだとばかりな話を描くのだ。結成したのは5人でもないしレッド以外は全身スーツのカラフルな奴らでもないのでパブリックイメージの戦隊には程遠い、けれども表面ではなく骨子としての戦隊を出すことで戦隊らしさを生み出しているのだ……
そしてこのように異世界だろうと皆と絆を深め合うレッド、そんな彼についても次から触れていきたい。
・浅垣灯悟という男
みなさんお待たせしました、異世界に転生してきた今作の主人公にて『絆創戦隊キズナファイブ』の主人公でもあるキズナレッドこと浅垣灯悟について紹介していきたい。
浅垣という名字を表すかの如く人との垣根が浅く、誰とでも親睦を深められると本気で信じてそうな快活な少年……なるほど確かにスーパー戦隊シリーズで見かけるようなキャラをしている。考えるより先にまず体から動くような熱血っぷりは『電磁戦隊メガレンジャー』のメガレッド/伊達健太や『炎神戦隊ゴーオンジャー』のゴーオンレッド/江角走輔といった歴代レッドを彷彿させよう。
キズナファイブ最終回時のステータスで転生してきたのもあって単体ながらも非常に強く、転生後は半年ほど冒険者として過ごしてきた浅垣灯悟(なお討伐対象がなぜか爆散するのでドロップ素材が黒焦げになり売れないから誰もチーム組みたがらなかった)だが、王族御用達魔導士“王家の杖”の立場を奪われ没落貴族と化したアーヴォルン家の娘イドラの依頼を受けて彼女と出会ったというのが今作の始まりである。異世界という未知なる領域に来訪してしまった彼だが前述の通り相も変わらずひたすら前向きに「戦隊」してる様は、さながらキズナファイブがレッドとして一年間走りきったからこその成熟さすら感じ取れる。
明るく、真っ直ぐで、誰かを守るために全力を出せる男、まさにザ・戦隊レッドな浅垣灯悟。彼がこの異世界での出会いを通じて人々と紡いだ『絆』はきっとこの世界を変えてくれる。彼はまさしく光のような存在だろうから………
……そう思っていた。自分は確かにそう思い込んでいた。彼はまさに戦隊レッドたる存在だと。しかし……アニメ化もあって話題が広まった際に既に読んでいた方々からこのような言葉が見かけた、彼はそれだけではないと。そして自分はその言葉に半信半疑ながらも興味を持ち、買っていたながらも積んでいた単行本を読み始めた。そしてその言葉を理解し始めたのは……1巻に収録された第4話「戦隊レッドと喧騒の街」であった。
「この街に来る前、身の上を話してくれましたよね?世界を救うために単身で敵の首領と戦い、相打ちになったと思ったらこの世界に来ていたと」
「どうして一人で戦ったんですか?絆の戦士の貴方が」
浅垣灯悟、彼はまさしくスーパー戦隊シリーズのレッドのような人物だ。明るく、真っ直ぐな人間……しかしだ、戦隊シリーズを長く見た人ならこのコマだけで即座に察するだろう、彼が抱えていそうな闇の部分もまた“戦隊レッド”が持ちうる要素のひとつだと。今作の戦隊ものにおける解像度はここまでなのかと恐怖する程に。『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンレッド/志葉丈瑠のように、『快盗戦隊ルパンレンジャーvs.警察戦隊パトレンジャー』のルパンレッド/夜野魁利のように、本家の戦隊においても何度か見たことあるレッドが抱える歪さを、このキズナレッド/浅垣灯悟も持っているのだろうと。
そもそも今作は異世界“転生”もの。転生するならば一度は死ななければならない。そして彼の死因は1話冒頭で見せたように「世界の絆を守るため」という自己犠牲……絆創りし戦隊のメンバーである自分が、死という離縁で皆と自らの絆を捨てようとも。やりやがった。異世界転生ものという定番になったジャンルを、こういう歪な形で落とし込んできやがった。
さらに彼が見せたこの歪さは2巻に収録された話でも少しばかし顔を覗かせる。そして……3巻に収録された「ある話」を見て、自分は今作に対して畏怖の感情すら抱くようになってしまった。それまで分かりすぎる戦隊パロディやイドラのでかい乳や春映画(概念)でギャハハと笑っていたのに。この主人公は、浅垣灯悟という男はヤバい。そこまでなのかと疑問に思うのならば実際に読んで確かめてほしい。ひとつ言えることがあるならば……実際の戦隊ものにもある「一つのモチーフやテーマに対しての落とし込みが上手い」というのを、今作はこれでもかと活かしてきている。その言葉の意味とは……
・あとがき
いかがだっただろうか?アニメ化決定から読み始め興奮のあまり突貫で書いた宣伝ながらも多少ばかしは今作の魅力は伝わったと思う。既読勢の方からすればまた3巻までしか読んでない自分がこう書くのはおこがましいかもしれないが、どうしても書かねばならなかったのだ……それくらい今作にはスゴいものがあると感じたから。
ということで自分も早速4巻以降を…と言いたい所だが、その前に見なければならないものがあるのでそれ見て感想書いてからになるでしょう。それでは!