どうしようサタン編もめちゃくちゃ面白いぞ『ウソツキ!ゴクオーくん』(〜64話まで)
※注意!!今回はサタン編とその周辺である31話から64話までのネタバレしかありません!!
週刊コロコロコミックにて毎週木曜日にレジェンド過去作品として配信されている『ウソツキ!ゴクオーくん』、自分はこの配信を機に読み始めたのだが1話からずっと面白すぎて(コロコロでは珍しく過去の描写の積み重ねを重視した作風なのもあって期間限定公開では十全に楽しめないと判断したのもあって)単行本を電子書籍で買うくらいにドハマりしてしまった。そんな今作だがなんと物理書籍としても各単行本が重版されているとの朗報がありみんな続きを早く知りたいくらい熱中してるのだなと感服してしまう。なんせ今回話すサタン編なんか週刊配信だと来年スタートになる予定だもんな……(執筆時2022年6月)かなり待つことになってしまうので俺みたいになるのも仕方ない。それに買って絶対に損はさせない面白さだし。
そう、今回は39話〜61話と長きに渡って続いたサタン編と、ユーリィ編との間にある31〜38話そして新章開幕前の64話までの感想を書こうと思っている。当然だがネタバレまみれなので週刊配信勢のみなさんはそれこそ64話が配信されるだろう2023年の6月まで読まないことを推奨する。いやなげーな執筆時からちょうど一年経過してるぞ。そんくらい長期に渡って連載してる作品だからしょーがねーだろ面白すぎるんだし……というわけで興味本位で迷い込んだ未読勢はサムネ画像のガタイのいい兄ちゃんがゴクオーくんと因縁あんだな程度の認識で留めてブラウザバックしてくだせぇ。そんじゃま始めましょうかね、悪意しか知らなかった悪魔の話を………
・この漫画ウソのレパートリー多すぎだろ!?なくらい飽きの来ない日常回〜ついに来てしまった“犯罪”の話〜
……はい、前回でもあったようにコレです。すぐにサタ公の話するのはウソだぜェ〜〜!!ネタ切れなんてどこ吹く風、その名の通り嘘八百とばかりにウソに対して無限のレパートリーが出てくる。もはやここでいちいち列挙したらキリがないほどだ……。ということで個人的にキたというのをピックアップしていこうと思う。
5年2組のみんなが起こす騒動ばかりでない……中には5年2組のみんながこれまで積み重ねてきた各々の描写を活かし、別の誰かの助けとなる物語も多数出てくるぞ。
もう1人いるのだがそれは後にとっておこう。そして今回においても心にグサグサくるエピソードが描かれており……
等身大のウソに対してここまで包み隠さず描く恐ろしさよ……そして能取くんに任世くんといったウソを取り扱ったなら“アレ”についても触れねばならない。そう、45話「菓子より甘いウソを裁け!!」にてついに起こってしまった“小学生による犯罪行為”、立前くんの万引きを。
この話を読んだ当時、自分はここで絶句してしまった。『ウソツキ!ゴクオーくん』は人の犯す罪を描く漫画、されど大人ならともかくメインで事件を起こす小学生たちは決して犯罪という一線を越えてはならないように描かれていた……それがついに破られてしまった。
先に言っておくがこの立前くん、今作にてたま〜に出てくる地獄に堕ちるレベルのどうしようもない悪人ども…例を挙げると41話で恵比寿くんのレアメダルを交換だと騙して盗んだ中学生の盗田取男(ひでー名前だ)みたいな堂々たる悪人なんかじゃ決してない。どこにでもいる、ちゃんと常識を弁えた普通の小学生男子だ。けれど……同時に彼には年相応の小学生どころか我々のようなそれ以上の年齢にもついついあり得る、まさに名前のように建前を並び立てて正当化せんと言い訳してくる悪癖も備わっていた。
彼だって推測抜きに実際に金があれば間違いなくちゃんと買っていた。けれど持ち合わせを切らしてた。それでも目の前にある商品はすぐ売り切れちゃうほどの大人気商品……陳列されてた所は店番からちょうど死角だった……彼は自分の犯した罪をしっかり分かりきっている。それでいて、文字通りに建前を並べ己の行いをなんとしてでも正当化せんとしている。ちゃんと明日には金を払って買うという良識はしっかりあるから……そんなモンで取り繕おうがお前の過ちは「泥棒」「窃盗」という立派な犯罪という事実は変わることはないのに。自分が一番分かってるのに。
地獄のような罪の苦しみの先に待つのは地獄の閻魔さまの裁きだった。ゴクオーくんは知っていた……それどころか店主のおばちゃんは立前くんの万引き行為の一部始終を全て見ていた。それでも……おばちゃんは“彼は正直に謝ってくれる”と信じてずっと待っていた。今日買っただけと誤魔化し万引きをなかったことにする、言い訳しがちな悪癖によって辿る地獄行き直行な最悪のウソをつかない子だと信じていた。
言い訳癖がもたらす危険性をメイン読者層の小学生児童も下手したら…それこそ立前くんみたいに常識を弁えてた筈の子でも理由や要因が積み重なってしまえばやりかねない「万引き」という犯罪でこれでもかと生々しく見せつけてくる……ほんとすげぇ漫画だよこれは。
さて、ひととおり単発の日常回について語ったので次こそは今回の縦軸の話であるサタンについて触れていこう。自分はサタン編が始まる前は「正直ユーリィ編であらかたやり尽くしちゃったと思うけどなんかやれることあるん……?いや先駆者さまは全部面白いとは言ってますが……」と半信半疑だった。俺がバカだった。56話とかいうとんでもねぇモン出してきたし最後の61話でめちゃくちゃ泣いた。サタ公てめぇ……………………………………というわけで行きましょう。今回のメインテーマは「誰もが持つ“悪”の心、そして…」です。
・人の悪意を信じ続ける悪魔王〜性善説の次は性悪説をやるんだよ〜
というわけでお待たせしました皆様方、ここからは二代目閻魔大王候補を自称する堕天使にて大悪魔であるサタンの話だ。元大天使ながらにして無謀にも神に挑み罰として地獄に落とされ、さらには地獄でもとある“やらかし”をしてしまって500年ほど罰を受けていた……そんな彼は当然のようにありとあらゆるものを憎み信用していない。天国を、地獄を、もちろん現世もだ。彼は二代目閻魔大王として君臨し自分にとって気に食わない地獄を支配し、さらには現世をも地獄化し支配し天国へ攻め込まんと目論んでいた!
前回のユーリィ編が「人間は生まれた時は皆キレイな心を持ってるが、それが現世で生きる上で悪人に汚され自分自身も悪人になる」という、いわば性善説を掲げていた。それなら次は「そもそも人間は根本から悪意を持ち合わせており、蓋を開けてしまえば自分のことしか考えてない愚か者」という性悪説もやるということだ。
それこそ上述した45話での立前くんの万引きを始めとしたように、今作では「普通の人間だろうと心に悪意が宿り悪事を行い、それを隠すためにウソをついてしまう瞬間」がほぼ毎月のように描かれている。それはまさしくサタンが言うように人間が常に持っていながらも社会行動のためにいつもは隠しているが、時と場合によってつい出してしまう本質のように見えるかもしれない……
人間はシンプルに悪なんだよ。
どんな人間にも悪の心はある。恥や恐怖により生まれる悪…!!その悪の心をごまかすために作られたモノ…。
『嘘』とは、そんなモノだ。
この押結典介、3話で給食のカレーをつまみ食いしすぎたのを隠蔽するため中底くんに事故を誘発させたり12話で壱兆くんに買収されて口裏合わせしたりと……バラされ反省してるので決して悪いやつじゃないのは分かってるのだがウソばっかついてるイメージがついていた。この42話では自分が恥じらいを隠すためにヒサエさんのせっかくの感謝を不意にしてしまう。追い詰められていたという状況はあれど、それは己の沽券を守るために他者を傷つけてしまった…これまで彼がついてきた“つまんねーウソ”である事実に変わらない。けれど今作をここまで読んだ読者なら分かるだろう…ウソはそれだけではない、と。
確かに彼はひどいウソついてしまった。人は反省しようが再び過ちを犯してしまう場合だってある…しかしそれでも反省から学び、少しずつでも、たまに失敗しようとも、自分から前に進む勇気を出せることだってある。そもそも押結くんはヒサエさんを傘を貸す際に「自分のはもう一本あるから気にするな」と自身が雨に濡れようとも弱った相手を助けたいために自己犠牲を含む“優しいウソ”をついた。ウソは必ずしも悪意と結びつくものとは限らない。そのような優しいウソをつく代表的存在である小野天子が、現世に生きる人間がウソは悪いことばかりじゃないと言うのだ。そして人間ってのはさらに「おもしれーウソ」をつける。どれだけの恐怖や悪意を前にしても決して屈しない“強いウソ”をな!
いくら天国から観測してようが地獄の罪人を見てようが現世に生きる人々を実際に見てねえ奴が知った気になんじゃねぇ。実際に初代閻魔大王も当初は(自称)大王候補と同じような考えを持っていたが、何万年以上生きてたのに初めて見た『光』が自分の世界を広げてくれた。人間を見くびるなサタ公、世の中には悪意に決して染まらぬ強い人間だっているんだよ!
……果たしてどうかな地獄王?お前はこの小野天子なる人間の少女を、強きウソを心から気に入ってるようだ。だがな、悪しき人間に騙され裏切られ、不満不信に呑まれても、孤独に追いやられても、その人間は強きウソってのを貫き通せるのかな。ならば……試してやろう。
・ついに迫る落日の時…コロコロ史上に残る伝説の学級会、開幕〜紡ぎ生まれた“絆”を、人間の“つよさ”をなめるなよ〜
この『ウソツキ!ゴクオーくん』なる作品、月刊誌&読者の入れ代わり激しい児童誌に珍しくこれまで積み重ねてきた描写をフル活用する漫画だ。その積み重ねの根本には先程言ったように「どれだけ普通の小学生でも時に闇に染まりウソをつき、そして反省し皆と仲が深まる」がある。まさしくそれはウソから紡がれ生まれた“つながり”であろう……。
…そんな状況で始まったこのサタン編、主要キャラである5年2組の“つながり”がかなり深まった状態でスタートしている。事実サタン編開始以降で舌を抜かれた2組は43話にてボール潰したのをしらばっくれた石豆くんしかいない(林間学校回の46話は番崎くん達がちゃんと非を認めたのでノーカン)。こうなってメンバー全員の精神的成長は素晴らしいものだが同時にクラス内で発生する騒動というのは描きにくくなってしまうものだ……しかしこの漫画はその前提の上で困難発生を成し遂げる、それならば闇を乗り越え信頼してるからこそ、迷いや疑いによって悪意を誘発させるトリガーにもなりうる側面を出してきた。斬新な見せ方かつ言われれば現実でもよくあるシチュエーションだと自分はすごく関心してしまった。
そしてこの絆があろうが生まれる不信感をフル活用したのが56話「犯人は天子!?緊迫の学級会!!」だ。21話がヤバい〇〇話(既読勢ならこれだけで分かると思う)がヤバいというのはよく聞いてたのだがこの回は「学級会」という通称で呼ばれてたせいか「なんかすげー話があるみたいだな」と軽く考えていた。そして読んで見たらあまりのすごさに叫び声を上げてしまった。この話もヤバい。そして5年2組の物語の集大成でもあったのだ……
さてその学級会ある56話だが、そこにたどり着くまでにサタンは数々の悪行をこなしてきた。ユーリィ編にて天子ちゃんを救出するため天国へとカチコミかけた罪への神罰で人間化したゴクオーくんを抹殺せんと襲ってきたり、ガマブクロウが変化術でネコカラスに友達を装い近づき信頼を裏切ったり、悪ギリ草を用い八百小を強制的に悪意の総本山にせんとしたり、8大裏地獄長なるならず者を地獄にけしかけたり……あくまで天子ちゃんを天使化させる目的のみのユーリィと比べ(地獄選挙の時間稼ぎの側面もあったとはいえ)純粋な悪意で数々の非道を繰り返してきたサタ公。そして次はと佐丹下ルシオなる小学生に変装し(ガタイいい兄ちゃんのショタ化!一部の人にはたまらない!)5年2組に転入して直接悪事に関与してきた。箸乃木くんや野秋くんに固水教頭らを悪行へと誘惑してきたりと相変わらずのヤローだがそんな彼も2組のメンバーが一人、仲が深まればきっといい部分も見つかるかもしれないと天子ちゃんの提案でルシオの歓迎会を開くことにしたのが56話の始まりで………
さァ…、始まるぜ…。醜い人間の争いがな!
このサタン、前回ユーリィが主に行った「あんまり天子くんを傷つけたくないので遠回しにゴクオーをdisり彼女の中での心象を下げる」みたいな回りくどい方法はしない、初代やウリエルがお気に入りの人間なんぞこれっぽっちも愛着など無いからだ…一見すると悪意の欠片も持たぬ小野天子を悪辣極まるウソで徹底的に叩き弱らせ孤独に追い込み、初代が気に入ってる彼女の心にも結局は『悪意』があることを証明してやる。まさしく悪魔王サタンの名に相応しき恐ろしさだ……
このままではいけないとゴクオーくんは『学級会』を提案する。学級会…事件を解決するために小学生クラス内で行う学級会なんて自分の実体験だと所詮は正直に手を挙げなさいとかで犯人が延々としらばっくれて下校時間を遅らせるだけのひたすら不毛な、そして罪が有耶無耶になって犯人だけがほくそ笑んでいただろうでロクな思い出がない。しかし八百小5年2組の学級会はゴクオーくんがウソ暴きでさんざんモラルを鍛え上げただけあって生徒のみんなが積極的に意見できるガチの議論になる。流石だよこの漫画、積み重ねた描写を無駄にしないからみんなの精神的成長がすさまじい………けれど番崎くんがサタンに追い込まれた際の状況を思い出してほしい。みんなと積み重ねた信頼があれど、いやむしろ“だからこそ”引き出せる『悪意』もあるということを……
最初の方は天子がそんなことしないと言い張り、目撃者の4人も正直天子がそんなことするかと半信半疑だった。しかしルシオが提示する数々の証拠を前にしてしまうと途端に…サタ公(とガマブクロウ)のウソはいちいち雑で本来ならアッサリ解けてしまうようなものだ。しかし今回は変化術というルール違反のウソによる地盤があまりにも強すぎる……彼女が本来ならそういう悪事をしでかす人間ではないのは知っている、かといってその悪事を否定できる根拠が何一つ見つからない。なのでいくら信じたくても何も言うことができない。さらに今作が積み重ねてきた“絆”が最悪の方向で襲いかかってくる………
「どれだけ善人だろうと、時にはつい過ちを犯しちゃうし、それを隠すためについウソをついてしまうことだってある」という今作にてこれまで描かれた“ウソ”の描写を逆に利用し「天子だってなにかしらの理由があって過ちをやってしまい、それをウソついて隠してるんじゃないか」という断絶する疑念へと変えた。このコマに出てる目撃者側の三白さんだって、それ以外の鉄谷くんだって石豆くんだって押結くんだってなんかしらの理由でウソついちゃってゴクオーくんに舌を抜かれ白状し罪を許され却って仲が深まったから説得力がすさまじい……その仲を紡いだ内の一人である友達を「みんなが信じてくれない」と無意識に孤独へと追い込む。みんな悪くない、むしろみんな自分のことを想っての上でこう言ってるのだから本当にいい子たちだ。それでも……理解など許さぬまま一方的に追い込まれ、誰からも助けられず、ただただ覆せない冤罪の闇へ……
「嘘をやめない人間に、嘘を反省しない人間に、騙され裏切られ続け不満不信に呑まれ孤独になってしまっても、その善の心を貫き通せるか」かつてサタンは彼女に対し脅迫気味にこう問いただし、そして彼女は恐怖で泣きそうになっても大丈夫だと…“ウソ”をついた。初代が大好きな“強いウソ”だそうだが……見てるか初代?所詮ウソはウソ。いくら強そうに振る舞おうが実際にその状況下にしてみれば…あれは虚勢を張っていたに過ぎないではないか。
そしてこれから小野天子は“つまんねーウソ”をつく…全てが嫌になり、みんなが見せてくれるせめてもの善意に甘え、優しいみんなを優しいままでいさせたいからと、悪意によって生まれた理不尽な運命を受け入れ、真実を有耶無耶にしようが嫌な事から逃げようとする…アンタが大嫌いな“現実逃避のための卑怯なウソ”をつく。やってないと信じる者を裏切る『悪』と化す!沈まぬ太陽など、ない。落日の時はついに……
……ガッカリだぜ、小野天子……、
オマエがそんなつまらないウソをつくとはな。
地獄を統べる神に等しい存在が向ける11歳の人間の少女への失望含む怒りの感情があまりにも重すぎてリアルで悲鳴を上げてしまった。この決断で人間の善悪が何たるかが神の前で表明され下手打ちゃ世界の滅亡に繋がるみたいな鬼気迫る勢いだけどその決断させるのクラス内の学級会で、小学生女児やぞ!?お前………正気か!?いやホント……コロコロコミックやぞこの漫画!?(いまさら)
地獄に堕ちた愚かな悪人ばかり見てきた閻魔大王が現世で見た『光』。悪意という闇に埋もれようが負けたりしないと輝く、生きている人間のつく“おもしれーウソ”……それを教えてくれた小野天子は人の理を超越している自分自身の人間に対する考え方を変えてくれた。それだけじゃない、時には生きてる内についやってしまう悪いウソの中にも様々な理由や事情があって、それを打ち明けて皆に許され一緒に明日へと生きる……ウソから紡がれ生まれる“絆”だってあると知ることができた。そんな心から素敵と感じた人間が黒き悪意に汚され敗北し腐り落ちようとしている……ふざけんじゃねぇそんなん許してたまるか。いやマジで人間の少女に対する期待が…“愛”が重いよ地獄王……そりゃ天子ちゃんならそうなるだろうという説得力あるがよぉ……
「だって!だってだってだってだってだってだって!なんで、こんな目にあってるのかぜんぜんわかんないだもん!一人ぼっちでつらいのに!苦しいのに!だれにもわかってもらえなくて!どうすることもできなくて!」
そんなコトはいい。
おまえのホントウを聞かせろ。
「わたしは…、わたしはっっ、
いくら他者がどう言おうが今回背負わされた現実の常識を逸脱した理不尽は突破するのは困難極まる、しかし解決の糸口はある……疑いをかけられた天子自身が己が身の潔白を表明し、提示されるウソの証拠を否定する要因となることだ。そのためには最悪の悪意に決して負けず真実を貫くしかない。大丈夫、天子ちゃんは独りなんかじゃない。助けてくれる仲間はいるのだから。
ゴクオーくんと、
そして……
天子ちゃんを助けたのは5年2組だ。
「気持ち」があって「繋がり」があるんだよ。こいつらは『生きてる』からな…。常識なんざカンケーない。
これが、八百小学校5年2組が紡いできた……
人間の“絆”だ。
この56話に、60ページに、これまで紡ぎ生まれた“つながり”を、この漫画のすべてを注ぎ込んできた。まさしく5年2組の集大成。とんでもない漫画すぎるだろほんと……これでまだ全119話中のちょうど半ばなのが恐ろしい…これ最終回まで来たらどうなっちゃうんだよ……
「人間はつよい。」地獄王がそう言ったように、どれだけ悪意あるウソに騙されたり理不尽な運命を課せられたりしても、生きてる人間どうしが時に傷つけそれを許し共に紡いできた強固な信頼はそれに決して負けたりはしない……天子ちゃんがあの時ついた「輝く明日を信じる故の“強いウソ”」にはちゃんと強さを裏付ける土台がしっかり形成されているということだ。一世一代クラスの大悪事を仕込んででも人間の敗北からの悪意を見たかったようだが残念だったなサタ公……
ゴクオーくんも加わっているその5年2組の絆から唯一外されてる佐丹下ルシオ。人間を、天国も地獄をもすべてを嫌い、誰もが本性として悪意を持っていると信じそれを開花させるよう促し、自身も悪意を撒き散らすことに容赦ない悪魔王サタン。彼はなぜそこまで悪意に執着するのか……それはサタン編が完結する長編の開始である59話「明かされたサタンの過去」にて………
・悪魔王が本当に知りたかったこと〜あなたのことが嫌いでした〜
地獄選挙までの時間稼ぎを十分にしたので機嫌が良かったのもありサタンは天子ちゃんにかつて自分が地獄王に受けた罪についての過去を話してくれた。図に乗って神に挑み返り討ちに遭って地獄に落とされ、元大天使長という相応の実力があるにも関わらず閻魔大王には手も足も出ず側近として遣わされサタ公なんざふざけたアダ名をつけられ……時に不意討ちを仕掛けようにも全て弾かれ逆にボコボコにされ(天子ちゃんの誕生日の際は魔怪物如きに不意討ち許しちゃったのにね、聞いてるサタ公?)ウソでおちょくられと散々な千年間を過ごしてた……しかし、そんな日々もなんだかんだで充実してたに思えてきていた。あの頃までは。
しかしちょうど500年前に「ある事件」─これは最後に言うので置いておくことにしよう─で地獄も天国も大パニック騒動が起きる。その一件で地獄王らが出払っていたが唯一サタ公は別に興味なかったのでふらついてたら裁きを待つ地獄の魂たち、そして放置される判決用の印章があった……地獄王にしか任されるのが許されぬ重大な責務とは言ってたが「こんくらいオレサマでもできるだろうから代わりに仕事をしてやろう」という相変わらずな驕り高ぶった気まぐれで持ってしまい“理由”を身を以て分からされてしまい、案の定その罪で捕まり初代の尋問を受けることになる。マジで機嫌が悪いので理由次第でオマエのソンザイを消すとウソ抜きの脅しをされ流石にお手上げだと前述の理由を正直に話したのだが……ウソを感知し傾き地の底に沈む真理の天秤はどんどん沈んでいった。ちゃんと正直に話した筈なのに。
自身が小野天子に強いた『理不尽』な運命を、身に覚えのないウソツキ扱いされるという『理不尽』をサタンも受けていた。そして……自身が追い込んだ小野天子と同じように、信じてほしかった相手に真実を信じてもらえなかった。なんだかんだでまんざらでもなかった日々を送れていたのに、歪な形ながらも…大悪魔は地獄王と打ち解けていたのに裏切られてしまった。
「窮地に立たされれば自分の都合のいい方に考えてしまう」自分からそう言ったように、サタンも無間地獄の中で500年間ずっと考えていた……「着実に実力を取り戻してるオレサマを脅威と捉え、これを機とばかりに冤罪で排除しようとした」と。確かに身に覚えのないウソツキ扱いされてしまうならこう考える彼は妥当というか当然であろうし、そもそも地獄王は裁判官という責任ある役職だけあって基本的に冤罪を見逃すタイプでないと皆さんも御存知の通りなので、それならば初代の奴が明確なる『悪意』で追い込んだと考える方が自然だ……元々自分のことしか考えてないワルとはいえ自分の信用による嫌疑ならともかく、公平な審判の場で真実を告げたのに裏切られたと思えば「誰もが『悪意』を持っている」と性悪説を信仰するのも納得がいく。
しかし……その過去に受けた仕打ちを聞いた小野天子は……もう一つの見解を見出していた。
「あの…、もしかしたら…なんですが。」
「校長先生…、サタンさんが500年前に、ゴクオーくんのハンコをさわってしまったのは…、
何千何万年と生きる人の枠を超越した存在が500年間ずっと気付けなかった“真実”を、11年ちょっとしか生きてない人間の少女が気付いてしまった。サタンは「『助けたい』という良かれと思ってな『善意』でやっていたから正直に話した筈なのにウソ判定を受けた」と。自分のことしか考えてない悪魔が…“誰かを想って故の優しさ”を無意識に出していたのを自分すら気付いてなかった、と。
実際に善意からの行動をしていたものの照れや恥じらいを隠すためについてしまうウソだってある。具体例を挙げるならば32話「強がりにかくされた真実!!」にて喘息持ちの妹エミを励ましたいために皆勤賞を取り続けていた鉄谷真吉くんが表向きは自分の健康っぷりを自慢したいからで取り繕っていたように。サタンもいうなればそのタイプであろう……だが彼は自分のことしか考えてないし、なにより人間全て誰もが結局は自分のことしか考えてないという性悪説を掲げる者だ。そんな悪意ありきで散々悪行を重ねてきた自分に『善意』を備えてたからこの理不尽なる仕打ちを食らったなんて真相を受け入れられる訳ないし、なによりそんな洒落臭い指摘してる人間は自分がどれだけ追い詰めても悪に堕ちなかった善の塊…裏切られた自分とは全然の別モノ、助けてくれたみんながいる幸せモノだ。
いや……別モノではなかった。地獄選挙が開催し最初はセコい策謀もあって当選したものの雑なウソをひけらかしたせいで即座に再選挙が始まり当然のように大敗、大天使時代の力もあるんだぞとタイマンを挑むもそれも完敗、自分の悪意に意固地になりすぎて他者の気遣いを知らぬ間にフイにしてた罪を指斬拳万で叩き込まれ、そして孤地獄無期懲役という自業自得な罰を受けるサタン……の手を掴み助けようとする存在がいた。地獄王としてでなく5年2組のゴクオーくん、そして小野天子。彼女には言わねばならぬことがあった……
天使、人間、悪魔、カンケーない。
だれにでも善の心、悪の心がある。だから、ウソが存在するんだ。
─地獄王の台詞より─
あの小野天子の口から「嫌い」という感情が出た。あの、天子ちゃんから。大小の差はあれど彼女にもサタンのような「悪の心」が存在した。そしてこれは………その善の心ばかりと思っていた彼女が指摘していた、悪意ばかり信じてる自分にもゴミみてえに小さいとはいえ「善の心」があってもおかしくないということだ。このサタン編最終回である61話のタイトルは「気付けなかった本当の心」………当時の地獄王はサタンが持っていた『善』を、あの時のウソを気付けなかった。考えようともしなかった。地獄に堕ちた罪人を裁くように、示された嘘だけで判断してしまい心情まで推し量れなかった。しかし今は……
生きている人間は様々なウソをつく。しかしそれにはウソの数と同じくらいの「ウソをつく理由」というのがある。現世で実際に見て、聞き、感じたから……彼が抱えてた現世の人間が持っているようなプライドやアイデンティティ故に隠していた、己すらも自覚できなかったウソにも気付けた。彼を助けようと手を掴むその少女、そこから紡ぎ生まれた“絆”のおかげで……
おたがい未熟だったな。500年前は……。
オマエのウソに気づいてやれなくて、すまなかった。
…オレっちの力になろうとしてくれて、
─その言葉を、善意への感謝を受けて彼は、
ようやく……救われたんだな……(めちゃくちゃ泣いた)あのとき初代閻魔大王が気まぐれで現世に降り立ってなかったら、どんな困難にも負けたくないからウソをつく小野天子に出会ってなかったら、現世に生きる人間に興味を示さなかったら、間違いなくサタンは全てに拒絶され世界を悪意で支配していたか真の孤独の中で葬られていただろう。そうはならずにギリギリの所で知ることができた。彼は自分から独りになろうとしていた…けれど、そんな彼も既に自分から“絆”を紡いでいた。独りなんかじゃなかった。
サタン編のラストは佐丹下ルシオとして別れと再会を期待する手紙…白紙をゴクオーくんが5年2組に伝えて終わる。その再会がいつになるかは分からない…しかし、過ちを犯しても罪を謝り皆から許され共に歩むことができるこの5年2組ならきっと………
・そしてさらば5年2組〜物語は6年2組へ続く…〜
今回のサタン編の感想は単行本5巻ぶんに及んだのもあって長くなってしまった。しかしこれでも泣く泣くカットしたものばかり……ゴクオーくんが人間化した際の「死にてぇのか!?バカ野郎!」や(オメーのせいでこうなったのにどの面下げて来てんだマッチポンプ野郎がな)ユリ太郎への嫉妬や人間だろうとつける大胆なウソ、ネコカラスにできた友達と裏切ってしまったガマブクロウ(ここについては単行本描き下ろし特別編による後日談があるので是非見てくれ。彼への評価が変わるぞ)とか……そこらへんも触れたかったがきりがないので断念した。しかし13巻きっかりでまとめたサタン編だけでなく今回はその後の64話まで……いわば進級し5年2組としての物語が完結する、そんな彼らがゴクオーに最大級のプレゼントをする63話「ゴクオーをダマせ!5年2組の大勝負!!」にも触れておきたい。
これからは6年生編が始まる……新たなメンバーと出合い新たなウソに新たな絆、それがどうなるかは……見てからのお楽しみだ。大丈夫、折り返し地点にたどり着いてもこの漫画は依然として面白いのは確実だから。そして……
サタンが天子ちゃんに語った500年前に起こった地獄での大事件……「閻魔大王が人間の魂に騙され現世に逃がしてしまった」という重大なやらかしがあった。その魂がすぐ近くにいるそうだ……“巡る魂”はどこへ辿り着いたのか?地獄王はソイツに言わねばならぬことがある……
それではまた!ということで書きました