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白泉社は元に戻るべきなのか。


最近白泉社が変わった話

というネタ記事(本人は真面目だと思いますけど)を読みまして。
まあですね。気持ちはわからなくはないわけです。話題の原作にも出てこないですし、同じ名前の結婚サイトまででてきて、違和感を感じる人が少ない。
名前を考えた人の知識の中で「花とゆめ(略称ハナユメ)」がものすごく小さいものなのか、なかったことが推測されるわけです。そのぐらい雑誌としてのパワーは落ちたんだなーと思っておりました。

最初に引用した記事を書いたご本人が、更に強めな感じに(個人的にはひどく恣意的で感情的と思われる)わざわざ別サイトでまとめていらっしゃいます。最終的にどう判断するかはさておき、事実情報としては揃っていると思います。 ⇒白泉社の方針変更のこと~鳥嶋和彦社長(1/3)~

白泉社の少女漫画は、題材やテーマの多様さと高度な漫画技術を持つ、素晴らしい創作表現です。
でも、「雑誌は一度壊して作り直せ」発言の集英社出身の鳥嶋和彦社長が就任し新体制になった2016年以降、白泉社を無にして乗っ取るような方針が行われ、作風激変・質低下・保守化など全く別のものになろうとしています。
高度に発達した総合芸術である女性漫画文化への適正評価を持たない経営陣による文化破壊と、数十年かけ勝ち取ってきた女性の表現の自由が大きく抑圧されることに深い懸念を持っています。
方針変更を撤回を強く願っています。
何より、従来のような「白泉社らしい作風」の次世代生産が完全に絶たれていています。
既存作を最後に、もう二度と、今までの白泉社のような、質が高く優しく思慮深い作品は生まれない体制に作り直されています。

まあ結局、端的に言えば、「最近自分の好きな傾向の作品がどんどんなくなっちゃってなんでよー!」「なんかつまんなくなっちゃったなー」「あいつのせいだー」って叫んでるって事だと理解しましたw

この記事にコメントを残している方の中で、

私は、白泉社では「和田慎二」「美内すずえ」「河惣益巳」「日渡早紀」「成田美名子」(先生)で育ちました。ただの恋愛漫画ではないテーマで描かれている作品が多く、小学低学年に読んでいた『なかよし』(マンガ入門編の付録付き!あさぎり夕先生大人気)からは想像できない世界が広がりました。

とのコメントに、同じ作家で育ったという返信をしているので、40年の歴史のサイトから見るに、1970年から1980年代の多感な時期に花ゆめ、LaLaを読んで来られた世代ということですよね。
私も改めて見て、懐かしすぎて涙がでました。

インターネットもなく、デジタル書籍もなく、邦楽は限られたアイドルの全盛期で、今のように対象も分散もしてなくて、子供たちの趣味も今のように何から何まで種類や挑戦できるものがあるわけでもなく限られた時代。子供の自由裁量金額は明らかに今よりも漫画雑誌・漫画に向けられていたであろう時代。漫画は貴重な娯楽であり楽しみでした。
漫画への関心が鋭角化していた時代。とも言えるかもしれません。

■ちょっと雑誌の今の実力を確認してみましょう

花とゆめの発行部数を見てみると(発行部数なのであくまでも自社発表ですけどね ※多少盛ってる)2015年からは日本雑誌協会から

1982年 45万部 
2017年 12.4万部

ですって。全盛期の1/4まで落ちているんだなー。と改めて実感。
どこの出版社も厳しい状況だとは聞いていたものの、すごいな、と思いました。

そういえばジャンプもそんな記事を読んだなとみると、日本雑誌協会発表データで1/3に落ちてました。

ただ、全部の雑誌ががそこまで下がってるかというとそうでもないので、

この1/4への減少はかなりショッキングなデータになりますね。

1982年 45万部 対前年:+18%
2016年 12.7万部 対前年:- 7%
2017年 12.4万部(4-6平均 ※最新) 対前年:-2%1977年 38万部
1982年 45万部 対前年:+18%
1988年 45万部 対前年:± 0%
2004年 30万部 対前年:-33%
2010年 20万部 対前年:-33%
2014年 14.6万部 対前年:-27%
2015年 13.2万部 対前年:-10%
2016年 12.7万部 対前年:- 7%
2017年 12.4万部(4-6平均 ※最新) 対前年:-2%

時系列でみてみると、鳥嶋氏が就任する前にすでに雪崩のように起きていた現象ということになります。最近(彼が就任してから)若い人たちが読まなくなったという記載も見ましたが、自分が確認している感じでは、2014-15あたりからそういった投稿は見られており、データの落ちっぷりとかぶっていますね。若者離れはゆっくりと進んでいったものと思います。

一方で、公表部数だけみれば、2016年の就任以後、下げ止まっている、と見ることもできます。どうとでも言いようはありますが、少なくとも就任きっかけで極端に落ちた、ということにはなっていませんね。

■作家サイドを見てみます。

先ほどの40周年記念のサイトを見てみると、70年80年代に活躍された作家さんの名作の連載開始時期が掲載されていたので、初出を引っ張ってみました。

▼70年代
美内すずえ/三原順/和田慎二/木原敏江/坂田靖子/大島弓子/魔夜峰央/成田美名子/青池保子

▼80年代
ひかわきょうこ/愛田真夕美/樹なつみ/森川久美/河惣益巳/酒井美羽/
日渡早紀/玖保キリコ/佐々木倫子/野間美由紀/かわみなみ/川原泉/
わかつきめぐみ/吉田秋生/なかじ有紀/清水玲子/安孫子三和/秋里和国
山内直実

ですかね。いやー今でもご活躍の方が大変多いですね。
80年代からの皆様は現在30年目ですか。サラリーマンで考えるとそろそろ早期退職とか、定年が見えてきて、70年代の方は定年来てますね。(そういえば同じ世代の作家さんでもリタイアされる方をちらほら見てます)
すなわち、この全盛期に形成されていた花ゆめ・LaLaの文化っぽいものはすでに定年を迎えつつあるのであり、どうあがいても古い価値観、文化意識、物語の構成力が影響しているわけです。
もちろん今でも売れっ子でいらっしゃる先生方の作品は、あまた新しい作家さんが出てくる中でも瑞々しい感性で創られているということは分かっています。でも書いている作家さんの重厚さやストーリーには長年の経験が活かされている(影響をうけている)ことは容易に推察される範囲です。
そして、ストーリー及び画風が経年変化してきている(少なくともディティールや設定、作りこみ)作家さんもいるわけで、それを編集のせいでの悪化というのは作家賛美が過ぎるとおもうわけでして、作家自身の劣化も影響あることは、美内氏の例を見れば明らかだと思うのです。
  ⇒このへんとか このへんとか

私が思う、このブログを書かれた方の「白泉社っぽいもの」とは、この世代の作家さんたちが形成し、維持してきたもの。また同じような傾向をもつ作家さんを呼び、試み、編集はこれを維持しようとしたのでしょう。

結果、1/4なんですよね。

伝統を守り続けるにはお金がかかるんですって。
まあ、その伝統芸ですら、トレンドに合わせて姿を変えていくわけです。
パトロンに合わせて。伝統を維持するために変化していくわけですよ。
ましてや商業誌です。売上をあげなければ廃刊です。年間に50本弱の雑誌・新聞が廃刊になる時勢に「何をするべきか」を真剣に考え、利益を出すことを目標にするのはとてもまっとうな事だと思います。

古き良き時代を懐かしみ、老いていく人ではなく、これからメディアに触れ、これから情報発信していく若い世代を取り込んでいかなければ、その世代と共に、「らしさ」という固執、妄執に絡め取られ、死んでいくわけです。
今と同じペースで発行部数が落ちていけば、従業員の給料も払えない、原稿料も払えない。変えようと思った時には、挑戦する体力すらなくなる。

その状態になるまで何もしないはダメだ、というのが親会社のメッセージなのだと思うんです。刷新。

■とりまく環境は…

社会情勢的にも、過去に花とゆめが担っていた部分を、デジタルネイティブな世代は、インターネットに移管している傾向がありますよね。
新しく刺激的で解放的でテーマにタブーがなく、玉石混交だけれども、何か掘り出し物をみつけたようなわくわく感。comicoですら商業ベースが強くなってくると、「普通」になる感覚。新しい感じではない。

昔は、誰しもが創ったものを発信する手段を持っていなかったから、一握りのチャンスをつかんだ人たちが、編集と共に練り上げた発信をしていた。でも今は発信手段はある。ここ(note)もそう。twitterでもいい。SNSでもいいし個人のBLOGだっていい。電子書籍で自費出版も簡単にできる。
雑誌に、新規開拓された文化の創出、なんて役割を期待している人が少ない。期待されてないわけではいけど心理的なウェイトが低い。
むしろ雑誌にはお金を出しているのだから「着実に・今・私達が・面白いと思うもの」を出せ、というプレッシャーの方がむしろ強いかもしれない。

75000部発行していても終了する雑誌が出る時代です。雑誌そのものの価値が変わろうとしていて、これからの世代に受け入れられるにはなにが必要なのか。生き残りにはそれを見つけることが急務です。

奇しくも、元に戻せと叫んでいるこのBLOGで引用されていた

「言葉で言うのは簡単ですけどね。本当はもう一回その雑誌が必要なのかどうか問いかけて作り直す作業をやらなきゃいけないんじゃないか。今この厳しい時代に、そんなふうに壊しながら作り直すというのは相当難しいとは思いますけれどね」
-『少年ジャンプ』伝説編集長が語る「漫画雑誌は一度壊して作り直せ」- 『月刊 「創」』2017年5・6月号

鳥嶋氏の発言にも同じようなことが書いてありますね。
何が強みで、何に存在意義があるのか、どうすれば生き残れるのか。考えることが課せられたと思います。

■思うに・・・。

多感な頃に読んだものというのは記憶として美しいものになっていくし、捨てがたい自分の中の何か大切なものとして残っているわけです。

白泉社の漫画家は確かに個性豊かで色々な試みと色々な新しさを持っていました。そして白泉カラーを纏った作家勢がちょっと独特な世界観で読者をひきつけていたことは事実だと思います。私の中でもそういう印象です。
それが白泉社の漫画の強みである特徴と定義してもいいかもしれません。

ですが、今「残してくれ」といっているものは本当に「今の世の中にあって、個性豊かで新しいもの」なのでしょうか。

もし、残してくれ、といっているそれが本当に新しく受け入れられるものであれば、売上部数は伸びる、まではいかなくても下落は収まって編集部に手をいれなくて済むはずだったのではないかと思うのです。

でも結果はそうなっていない。

ということは、昔の美しい記憶のままにとどめておいてほしい、というのは、昔ちょっと付き合っていた男にすがるがごとくの女の妄執なのです。

『新しい彼女のためにそんな服を着ないで!青が好き!って私にいってくれたじゃない。自然が好きだから二人で釣りにいこうねっていってたじゃない!私その約束覚えてる。だから待ってる。なんで、FBに映画を見に行ったとか、ビルの写真撮るの楽しいとか書いているの?そんなのおかしいじゃない!

彼だって、彼女は欲しいし、今後の将来のために嫁も欲しい。
確かに前は釣りがブームだったから、そのブーム先取りしてもててたけど、最近はやっぱり違うよね。釣り好きっていうと「おじさんの趣味ー」って笑われるんだ。』

自らブランドイメージを規定してしまって、ブランドそのものが疲弊してきたとき危機に陥ってしまうという例は無印良品とか、ユニクロとか色々ありまして、やはり何か美しい記憶にこだわって、現在を見つめられなかった結果が今にあるんだと思うんですよよね。


とはいえ、鳥嶋氏が成功するという保証もなく、結果受け入れられないまま、惨敗するという未来も可能性としては十分あり(情勢的には厳しいと思います)、もはや最初に書いたブランド認知の損失からももうその役目は終わったとする方が良いようにも思えます。
美しいうちにマイクを置くあれです。

ただ、他紙では書けないだろう白泉カラーを纏った高齢の作家さんとか、劣化しちゃった作家さんとか、いつ終わるともしれない大河ドラマをストップさせちゃったある作家さんとかが中途半端にいるもんだから、そのあたりの処理をどうするかってのは多いに議論が必要だとは思うわけですが。

もちろん同じ路線にすると覚悟を決めて本当に金と足と手をかけていくとしてもいいのですが、花ゆめ全盛期の読者(今回のBLOGの書き手のような)が理解できる、心から「よい作品」と思えるものは出にくいと思うんですよね。これからの復活を支える読者に理解され、支持される作品が主軸になっていくはずだからです。

私は白泉社(集英社)の挑戦を前向きにとらえました。
失敗するのかどうかは結果が出ないとわかりません。

「失敗してからでは遅い!文化が崩壊する!」

いえ、違います。

白泉社の郷愁に浸るだけで、本当の未来なんて見ていない。その郷愁は美しく
繭のように温かい。自分が気持ちいいものを残してくれという、我儘。
未来に進まないサービスも、会社も雑誌も人も、漫然と滅びの道を進むことになるのだと思います。

失敗したら次の方法をとればいい。何をやってもダメだったときにすべてあきらめるでもいい。でもダメになった時に「何もしなかった」わけでもないことが残ります。後人のノウハウにもなるでしょう。
時代も影響するでしょう。電子化、紙離れはもう少しだけ進みます。
雑誌を読まない世代、媒体の多様化の影響はあなどれません。
そこにどう対応してどう決着させるのが正しいのか。3年という鳥嶋氏の挑戦期間は非常に短く設定されています。事業を変え、効果を出すまでには3年はやはり強硬手段を要するでしょう。

彼が白泉社で手掛けている雑誌の再生にどのような鍵を見つけるのか。
とても興味があるし、その再生を見てみたいと私は思います。

長文お読みくださいましてありがとうございました。
よく・・みつけましたねw


追伸:女性の表現の自由の抑圧、だけはいいたいことわかんなかったなぁ。
商業用が増えて、マニアな嗜好のものが少なくなったということであればわかるんだけど・・・。具体性がなくてわからね。まあ商業(トレンド)に乗せたのが、抑圧ととらえたのかもしれませんが…

画像及びヘッダ画像は
ぱくたそ(www.pakutaso.com)さんよりお借りしました。 


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