球道くん

「柔道選手に育てたい。」という父の願いをよそに、
僕は小学校2〜3年生頃から友達と野球を始めました。

少年野球団に入団する頃、
父は長年の夢よりも僕の意思を尊重してくれました。

ある日、仕事から帰った父さんが一冊のマンガを僕に買ってきてくれました。
「球道くん」という野球漫画でした。
「野球なんて嫌いだ」と豪語していた父さんなりに、
野球をする僕を応援するための決意のようにも感じました。

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父さんは厳しい人でしたが、
マンガだっておもちゃだって、
そんな高価なものでなければ、買い与えてくれる。
僕は恵まれた家庭環境でした。

ですが、父さん主導で「読んでみろ」と渡された漫画は
きっと「球道くん」が最初で最後だったと思います。
しかも、鳥山明作品にしか興味がなかった僕にとって、
手からビームも出ない、空も飛ばない、
「超人」が出てこない漫画は、「球道くん」が初めてでした。

瞬く間に僕は「球道くん」の虜になりました。
次の巻を父さんが買ってきてくれるのが楽しみで楽しみで。。
あんなに「野球が嫌いだ」と言っていた父が、
僕に渡す前にこっそり電車で一足先に読んでいることも含めて、
父さんから手渡される瞬間が大好きでした。

球道くんの野球センス。あぶなっかしい生き様。
まっすぐなあり方に憧れました。
少年にとってあまりに過酷な人生にさえ憧れ。
恵まれた家庭環境で育ったことがコンプレックスに感じるほどでした。


「ドカベン」の存在はずいぶん後に知りました。
しかも「ドカベン」プロ野球編という、高校卒業後の世界から読んでしまったので、
時系列もバラバラで。しかしバラバラのまま、「ドカベン」「一球さん」「ダントツ」
「男どアホウ甲子園」「あぶさん」と水島新司作品を読みあさりました。
どの作品も本当に面白かったけど、「球道くん」を超える漫画には出会えませんでした。

水島新司作品のほとんどは、「球道くん」も含め、
高校3年生最後の夏の大会を前に完結してしまうものばかりで、
それがとても不思議でした。

後に、水島新司作品の総決算作品「大甲子園」に出逢います。
水島新司先生が書きためたキャラクターたちは、
実は同世代で、水島新司作品オールスターたちが、
最後の夏の大会で甲子園で大激突するという、
夢のような作品が展開されていたのです。

この夢の共演を果たすため、
これまでのどの作品も、山場である夏の最後の大会を描かなかった。
というデカい伏線が僕の中で回収され、
僕は本当にドキドキしながら一冊一冊読み進めたものでした。

なぜここまで僕が熱くなれたかというと、
「ドカベン」なんてとっくに世代じゃなかったため、
共感してくれる人が誰もいなかったからです。
友達から情報を得られない。
しかもネットがそこまで普及してる時代でもなかったので、
「歴代 水島新司 漫画」と検索するすべもなく、
古本屋さんに出向き、「水島新司」と表記されたマンガを
一冊一冊読み漁ることでしか、僕は情報を得られなかったのです。

なので「大甲子園」という作品で、
再び「球道くん」が登場した時の喜びなんて、
もう、表現のしようもないほどの感動だったのです。

「大甲子園」は、やはり代表作である「ドカベン」が主軸のため、
ドカベン率いる明訓高校が夏の最後の大会で優勝するまでの物語であることは、
小学生ながらに予想しながら読み進めていくわけですが、
明訓高校と、これまでの水島新司作品オールスターが毎回名試合を繰り広げる展開は、
やはりファンとしては胸があつく、
なんと言っても僕の一番の推し「球道くん」率いる青田高校と、ドカベンが激突する
準決勝は、もう手元にマンガがなくても模写できそうなほど読みまくりました。

しかも、延長18回、引き分け再試合という展開。
高校No. 1バッターと言われたドカベン山田太郎が、
これまで木製バットで名を馳せてきたのに、
球道くんを前に金属バットに持ち帰るシーン。
山田太郎にとって球道くんが最強のライバルであると認めたシーン。

水島先生。
僕の大好きな球道くんを大切に描いてくれてありがとう。
と何度も何度も感謝しながら読み進めました。

球道くんが164キロとか叩き出したり、
その豪速球でボキボキ金属バットを叩き割っていったり、
最後その豪速球を山田太郎が甲子園で場外ホームランにしたり。
もはや悟空とアラレちゃん並みの超人マンガの展開でしたが、
いやー、本当に感動しました。
僕のまわりに誰も共感してくれる奴がいなかったことが、
僕しか知らない宝物のようで、それもよかったのです。

球道くんのような野球選手になりたい。
でも水島新司先生のような漫画家にもなりたい。
いやミュージシャンになりたい。

人生はいろいろで未知で楽しいです。
ですが、僕の根っこには「球道くん」の生き様がルーツにあります。

球けがれなく
道けわし

水島新司先生、ご冥福をお祈りします。
素敵な作品の数々、夢をありがとうございました。

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