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琉球伝統菓子にふれて・その①

首里城火災があったあの日、混乱している首里で偶然の出会いがあった。

細い曲がりくねった坂の途中に二軒の菓子店である。
定休日なのか首里城火災の影響で臨時休業か、はたまた廃業したのか店先の雰囲気からは検討がつかなかった。
のちにこの店が琉球王朝時代から続く本家新垣菓子店と分家のカミ新垣菓子店と知った。
両店とも老舗のオーラを隠し過ぎだろうと思ったが、すでにその粋は過ぎて悟りの域なのかもしれない。店の風格を察知出来なかった事が悔やまれた。
ちなみに沖縄に行った人はどこかで一度は目にしたことがあるパッケージの新垣菓子店は本家新垣菓子店からのれん分けした三番目の新垣菓子店である。

本家新垣菓子店とカミ新垣菓子店を比べると、カミ新垣菓子店の方が奥まった場所で店構えがドシンと存在感を表しているので、こちらの方が本家のように見えてしまう。

悔やまれるから気になるのが人間の性だ。

本家新垣菓子店やカミ新垣菓子店に行けずともお取り寄せ出来る世の中はこんな時に非常に役立つ。
早速、本家新垣菓子店のちんすこう、花ボール、ちいるんこうをお取り寄せだ。

ちんすこうは言わずもながお土産の定番であるが、本家新垣菓子店のちんすこうは一味違う。しつこくないラードの旨みが凝縮されつつも今にも崩れそうな生地は口の中でホロホロと崩れながら甘い香りを放つ。

花ボールは首里城の装飾品に使わているのではないかと思わせる花を型どったクッキーのような焼き菓子である。琉球王朝時代から伝わる菓子のひとつで、ちんすこうより堅めに作られた生地は必要最低限の素材で練り上げられ砂糖の風味は穏やかに舌に香る。パキッと半分に折ると断面は無駄な素材が入り込む隙間がないくらい密度が高い。噛み締めるれば砂糖が貴重品だった時代のお茶会にタイムスリップした気分だ。

そして、ちいるんこうは琉球伝統菓子の最高峰と言っても過言ではない。
ふんわり焼かれた卵生地の上にピーナッツやちっぱん(柑橘の実で作るお菓子)を細かくしたものがちりばめられている。
これほどまでに卵の味がはっきりしている菓子はない。ぎっしり重い重量感が甘党にはたまらないのだ。ほのかに感じるちっぱんの苦味もあとを引く要因である。
三種類とも他に類をみない完成度で琉球王朝時代から続く味を守り、首里城のお膝元でひたむきに商売をしてきた一点の曇りもない志を見た。

もちろんカミ新垣菓子店の菓子もお取り寄せ済みである。我が家は一時、琉球伝統菓子で溢れかえり、菓子三昧に贅沢の極みを味わった。

首里城から店に向かって細くのびるあの坂道は琉球王朝の繁栄を見て支えた道だったのだ。
つづく。